「高強度インターバルトレーニング(HIT)」
MC1 関 慶太郎
以前担当した第4回と第12回では概念的な話をしてきたので,今回はトレーニングについて書きたいと思います.今回は紹介するのはHITというトレーニングです.HITとはHigh-intensity Interval Trainingの略であり,日本語では高強度インターバルトレーニングと訳されています.HITはHIE(High-Intensity Intermittent Exercise)やSIT(Sprint interval Training)と言われることもあります.
HITは,エミール・ザトペック(ヘルシンキ五輪で長距離三冠を達成したランナー)が考案したと言われるインターバルトレーニングがもとになっています.Laursen and Jenkins(2002)によるとHITは,Anaerobic Threshold(AT)よりも高い強度で適切な持続時間(10秒から5分間)の運動(exercise bouts)を繰り返し,このexercise boutsの間に短時間の低強度運動を挟むものとして定義されています.ただし,冒頭でHIEと言われる場合もあると述べたように,exercise boutsの間に完全休息を挟む間欠的(Intermittent)なものもあります.これらの総称として「HIT」という言葉が用いられ,そのの代表的なものとして, Tabata法(Tabata et al., 1997),Gibala法(Gibla et al., 2012)などがあります.
Tabata法はこの名前からもわかるように,日本人が考案した方法であり,Tabata protocolとして世界的に知られています.筑波大学に来ている留学生でもトレーニングに詳しい人はTabata protocolを知っているようです.Tabata protocolは最大酸素摂取量の170%の強度で20秒間の自転車ペダリング運動を,10秒間の休息を挟みながら繰り返し行う方法であり,6〜7セット行うと疲労困憊に至るような高強度間欠的トレーニングです.この運動を週4回ずつ,6週間行うと最大酸素摂取量が10%近く増加し,最大酸素借も40%近く増加したという報告もあります(Tabata et al., 1996; Tabata et al., 1997).最大酸素摂取量は第4回,第12回のコラムで述べたように最大の有酸素性エネルギー供給能力の指標です.今回新しく登場した最大酸素借は無酸素性エネルギー供給能力の指標です.つまり,Tabata protocolは有酸素性と無酸素性,両方のエネルギー供給系を同時に強化できるトレーニング法であると言えます.ヒトには有酸素性と無酸素性のエネルギー供給系がありますが,このTabata protocolの強度や時間が両方のエネルギー供給系に同時に最大の負荷をかけるためです.なお,ここで紹介した研究では,Tabata protocolは自転車エルゴメータで行っており,それが基本ではありますが,スクワットや走運動に応用して行われることもあります.
Gibara法は30秒間の全力自転車ペダリング運動を,4.5分間の休憩を挟みながら4〜6セット行う方法であり,これを週3回実施することが基本となっています.Burgomaster et al.(2008)は,Gibara法と伝統的な持久トレーニングを6週間実施した際のトレーニング効果を比較し,HITは10分の1のトレーニング量,3分の1のトレーニング時間で伝統的な持久トレーニングと同等の効果が得られたことを報告しています.
HITはここに述べたもの以外にもいろいろな方法が考案され,その有効性を検討する研究がなされています.HITの方法によって多少の違いはあるものの,HITの特徴としては持久走よりも少ないトレーニング量,トレーニング時間で,持久走と同じかそれよりも高いトレーニング効果が得られることが挙げられます.ただし,名前に「高強度」とついているだけに強度が高く,誰もが手軽にできるトレーニングであるとは言い難いのも事実です.しかし,Tabata protocolはトレーニング愛好家がスクワットとして実施していたり,強度がやや低いHITが考案されたり(Little et al., 2010)とより多くの人が実施できるようになりつつあります.また,最近ではHITについて日本語で紹介された記事も見かけるようになりました.一般的な中長距離走のトレーニングにインターバルトレーニングが用いられることは多々ありますが,このコラムをきっかけに研究によって裏付けされたHITを取り入れることを検討してみてはいかがでしょうか.
参考文献:
Burgomaster KA, Howarth KR, Phillips SM, Rakobowchuk M, Macdonald MJ, McGee SL and Gibala MJ(2008)Similar metabolic adaptations during exercise fter low volume sprint interval and traditional endurance training in humans. Journal of Physiology, 586(1): 151-160.
デビッド・マーティン,ピーター・コー:征矢英昭・尾縣貢監訳(2002)中長距離ランナーの科学的トレーニング.大修館書店:東京.
Gibala MJ, Little JP, MacDonald J and Hawley A(2012)Physiological adaptations to low-volume, high-intensity interval training in health and disease. Journal of Physiology, 590: 1077-1084.
Laursen PB and Jenkins DG (2002) The Scientific basis for high-intensity interval training: optimizing training programmes and maximizing performance in highly trained endurance athletes. Sports Medicine, 32(1): 53-73.
Laursen PB, Shing CM, Peake JM, Coombes JS and Jenkins DG (2002) Interval training program optimization in highly trained endurance cyclists. Medcine and Science in Sports and Exercise, 34(11): 1801-1807.
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Little JP, Safdar A, Wilkin GP, Tarnopolsky MA and Gibala MJ(2010)A practical model of low-volume high-intensity interval training induces mitochondrial biogenesis in human skeletal muscles: potential mechanisms. Journal of Physiology, 588: 1011-1022.
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Tabata I, Nishimura K, Kouzaki M, Hirai Y, Ogita F, Miyachi M and Yamamoto K(1996)Effects of moderate-intensity endurance and high-intensity intermittent training on anaerobic capacity and VO2max. Medicine and Science in Sports and Exercise
Tabata I, Irisawa K, Kouzaki M, Nishimura K, Ogita F and Miyachi M(1997)Metabolic profile of high intensity intermittent exercise. Medicine and Science in Sports and Exercise, 29(3): 390-395.
田畑 泉(2009)特集 常識を打ち破る運動生理学の新知見 無酸素生トレーニング?−Tabata Protocolとは?−.体育の科学,59(3):168-176.
田畑 泉(2013)高強度間欠的トレーニング(HIT)の理論的背景.体育の科学,63(9):683-688.