中長距離走のパフォーマンスの評価に用いられる指標

MC1 関 慶太郎

こんにちは.今回コラムを担当するのは博士前期課程1年の関です.

わが陸上競技研究室には日本トップレベルで競技を続けながら研究をする人が多いですが,私は大学時代から競技ではなく,関東学生陸上競技連盟で競技会運営をしてきました.なので,研究テーマも競技会運営に関するものと思われがちなのですが,研究では,競技をしていた頃の専門種目であった中長距離走における「効率的な疾走動作」をテーマにしています.そこで,今回はまず長距離走のパフォーマンスの評価に用いられる指標について概観していきたいと思います.

長距離走のパフォーマンスの指標といえば,まず一番に挙げられるのが最大酸素摂取量です.最大酸素摂取量はVO2maxと呼ばれ,研究にはあまり馴染みがない方でもスポーツをやっていれば一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか.酸素摂取量は運動中のエネルギー消費量を評価するために用いられており,運動強度が高くなると酸素摂取量も高くなります.しかし,ある強度以上になると酸素摂取量の増加が認められなくなり,このときの酸素摂取量を最大酸素摂取量と言います.そして,最大酸素摂取量が高い者ほど長距離走パフォーマンスが高いことが報告されていますが,一方で,パフォーマンスが近い選手どうしで比較した場合にはそのような関係は認められないこともわかっており,最大酸素摂取量だけでパフォーマンスを評価することができないことがわかっています.

最大酸素摂取量以外に長距離走パフォーマンスを評価する指標としては,血中乳酸濃度やRunning Economyがあります.乳酸に関するものには,乳酸性作業閾値(LT)やOBLA(Onset of Blood Lactate Accumulation)などがあります.LTは運動の強度を漸増させていくときに血中乳酸濃度が上昇を始める点のことをいい,OBLAは血中乳酸濃度が4mmol/lに達する点のことをいいます.乳酸といえば,疲労物質としての認識が根強いですが,最近の研究では乳酸は疲労物質ではなくエネルギーとして捉えられています.運動する際には,糖を分解してエネルギーとして使いますが,乳酸は糖を途中まで分解したものなので,とても使いやすいエネルギーであると言えます.エネルギーの1つである乳酸は,強度の高い運動をしているときに発生するため,疲労ではなく,運動強度の指標として使うことができます.高いパフォーマンスを持つ人はそうでない人に比べて高い強度でも乳酸が蓄積しにくくなるために低い血中乳酸濃度を示し,LTやOBLAが出現する強度がより高くなることが報告されています.

そして,近年注目されているのが図に示している「Running Economy」です.ある速度で走る際にいかに少ない酸素摂取量で走れるかをみる指標です.つまり,車でいう燃費が良いのか悪いのかということを測っています.少ないエネルギーで速く走れる方がパフォーマンスも高いことは容易に想像がつきます.そして,パフォーマンスが近い選手どうしの比較においても,Running Economyが高い人ほどパフォーマンスも高いという報告もあります.このような説明をすると,Running Economyは万能であるかのようですが,最大酸素摂取量と乳酸性作業閾値,そしてRunning Economyの3つの指標を合わせても長距離走のパフォーマンスの70%程度しか説明できないという報告があります.長距離走のパフォーマンスにはレース展開や心理的側面など数多くの要素が含まれており,容易に判断できないのが現実です.その他にもパフォーマンスを測る指標は様々にありますが,その指標の有効性や,私のテーマである効率的な疾走動作については次回以降紹介していきたいと思います.

参考文献:
David L. Costill, Harry Thomason and Eric Roberts(1973)Fractional utilization of the aerobic capacity during distance runnig.Medicine and Science in Sports, 5(4):248-252.
榎本靖士(2013)長距離選手のランニングエコノミーに影響を及ぼす体力および技術的要因の検討.筑波大学体育学紀要,36:137-140.
八田秀雄(2010)乳酸をどう考えたらよいのか.体力科学,59:8-10.
Midgley, A.W. McNaughton, L.R. and Jones, A.M.(2007)Training to enhance the physiological determinants of long-distance running performance: Can valid recommendations be given to runner and coaches based on current scientific knowledge?. Sports Med., 37(10):857-880.
山地啓司・大築立志・田中宏暁(2011)スポーツ・運動生理学概説.明和出版:東京.
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