Running Economyから考える長距離走パフォーマンス

MC1 関慶太郎

前回(第4回)のコラムでは,中長距離走のパフォーマンスの評価に用いられる指標について解説しました.今回はその中でも,Running Economy」の観点から長距離走パフォーマンスの向上について考えてみたいと思います.

まず,running economyは一般的に一定速度で走っているときの酸素摂取量で評価します.前回も説明したように,同じ走速度で走ったときに酸素摂取量が低い方がより少ないエネルギーで走れていることになり,効率の良い走りができていると言えます.そこで,効率の良い走りをするためにはどうすれば良いのかを考えるわけですが,そのためにはrunning economyに影響する要因を知る必要があります.

では,running economyに影響する要因とは何でしょうか.山地(1997)はrunnning economyに影響する要因として,解剖学的要因,生理学的要因,バイオメカニクス的要因,環境的要因,心理学的要因などを挙げています.しかしながら,これらひとつひとつを考えて効率的な走りを目指すことは容易ではありません.そこで,運動におけるエネルギーの流れをもとにrunning economyについて考えてみます(阿江と藤井,1996:図).人が運動する際のエネルギーの流れは,発生した生理学的エネルギーが力学的エネルギーに変換され,それがパフォーマンス(例.走速度など)として発揮されます.それぞれのエネルギーの変換過程にはロスがあり,生理学的エネルギーから力学的エネルギーへの変換過程においては,有酸素的エネルギーの27%は運動に変わり,残りの73%は熱として放出される(Jèquier and Flatt, 1986)と言われています.一方,力学的エネルギーからパフォーマンスへの変換過程では,ロスする割合は一定ではなく,疾走フォームの改善によってロスを少なくすることができます.

もちろん,どんなにロスを少なくしてエネルギーをパフォーマンスに変換できたとしても,そもそも発生させる生理学的エネルギーが少なければパフォーマンスは低くなります.それはつまり,「VO2maxが低いと長距離走のパフォーマンスも低い」ということです.そして「VO2maxが同じでもパフォーマンスに違いがある」ということは,生理学的エネルギーの量は同じでもエネルギーからパフォーマンスへの変換の効率が違うということを示していると考えられます.特に,長距離のトップ選手のVO2maxにはほとんど差はなく,それにも関わらずパフォーマンスに差が生まれるのは,エネルギーを利用する効率の差がひとつの要因であると言えます.今回はVO2maxを例に挙げて説明しましたが,VO2maxは最大の有酸素性エネルギー供給能力を示すものであり,VO2maxだけで生理学的エネルギーを評価することはできませんので注意が必要です.

このように,running economyの観点から長距離走のパフォーマンス向上を考えると,発生させる生理学的エネルギーを大きくする方法と,そのエネルギーをパフォーマンスに変換する効率を高める方法があると考えられます.これまでの長距離走のトレーニングでは,前者が重点的に行われてきました.しかしながら,今後は後者についてもトレーニングの中に取り入れていく必要があるのではないでしょうか.先ほども述べましたが,後者には疾走フォームが大きく関わっていると考えられており,より効率の良い疾走フォームを習得することが重要になってくると考えられます.

参考文献:
阿江通良・藤井範久(1996)身体運動における力学的エネルギー利用の有効性とその評価指数.筑波大学体育科学系紀要,19 : 127-137.
Cavanagh P R and Kram R(1985)The efficiency of human movement –a statement of the problem. Medicine and Science in Sports and Exercise, 17(3) : 304-308.
Jèquier E and Flatt J P(1986)Recent advanced in human energetics. News in Physiological Sciences, 1: 112-114.
山地啓司(1977)ランニングの経済性に影響をおよぼす要因.日本運動生理学雑誌,4(2) : 81-98.
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