走幅跳における「足の速さの割に跳べない」問題を考える

MC2 柾木 拓




RIKUPEDIAをご覧の皆様,こんにちは.MC2年の柾木拓です.

昨年度より,中学生の頃から憧れていた陸上研のメンバーになることができました.RIKUPEDIAをはじめとした研究活動報告で,競技者と指導者の皆様に有用な情報を提供できるよう努めて参ります.

私は走幅跳を専門としており,自己ベストは7m59です.100mの自己ベストは10秒36です.

「足の速さの割に幅跳べてなくない?」

多くのコーチに言われた耳の痛い言葉です.小山ほか (2011) で得られた回帰式に当てはめると,私の助走スピード (10.7m/s) に該当する跳躍距離は,8m40となるようです (図1).私自身もここに問題意識を持ち,現在課題解決に努めています.そこで本稿では,「助走速度の大きさの割に跳躍距離が小さい」走幅跳選手の悩みに応えることを目標に,論を展開していきたいと思います.

図1: 最高助走スピードと跳躍距離の関係
図1: 最高助走スピードと跳躍距離の関係
小山ほか (2011) の回帰式をもとに柾木作成
1.跳躍距離の決定要因

走幅跳の跳躍距離は踏切距離,空中距離,着地距離によって構成され,その大部分は空中距離によって規定されます (Hay, 1986). 空中距離は踏切離地時における身体重心の投射高,初速,投射角度によって決定づけられます (図2).Hay (1986) は,1) 空中距離の大きさは踏切離地時における身体重心の初速の大きさに大きく規定されること,2) 初速の大きさは踏切離地時身体重心水平速度に大きく規定されること,3) 踏切離地時身体重心水平速度は,助走時の身体重心水平速度に大きく規定されることを報告しました.これを裏付けるように,多くの先行研究で,助走速度と跳躍距離の間に有意な正の相関関係が認められています (Hay et al., 1985 ; Hay et al., 1986;Hay, 1993 ; Lees et al., 1994 ; 深代ほか, 1994). さらに,指導書においては,村木 (1982) がスプリント能力の発達が跳躍選手の最も基本的な課題の1つであると指摘しています.このことから,走幅跳の跳躍距離は助走速度によってその大部分が規定されていると考えられます.

図2: 空中距離の決定因子
図2: 空中距離の決定因子
2.助走速度と跳躍距離の直線関係が破綻すること

しかし,全米陸上競技・クロスカントリーコーチ協会はその教本の中で,高い助走速度を持つにも関わらず跳躍距離を最大化できないことを指導現場における課題の一つとして指摘しています (USTFCCA, 2017).

小山ほか (2011) は,助走スピードが同程度であっても跳躍距離に1m程度の差が生じることを報告しました.このことは,深代 (1990) が跳躍距離 = 助走速度×技術 と表現したように,踏切をはじめとした他の技術的要因も,跳躍距離に大きな影響を与えているためと考えられます.また,Bridgett and Linthorne (2006) は.一人の男性エリート走幅跳競技者を対象に助走速度を増大させた際の跳躍距離の変化を検討しました.その結果,助走速度の増大に伴って跳躍距離はある地点までは直線的に増大するものの,高速度領域では跳躍距離の増大が滞り,助走速度の大きさの割に跳躍距離が小さい試技が観測されることが示されました (図3).

このように,「助走速度の大きさの割に跳躍距離が小さい」問題は多くの走幅跳選手を悩ませています.では,なぜこのような事象が生じるのでしょうか?

図3 Bridgett and Linthorne (2006) で報告された事象の模式図
図3 Bridgett and Linthorne (2006) で報告された事象の模式図 (柾木作図)
3.跳躍距離を制限する力学的要因について

助走速度は高い,つまり踏切離地時身体重心水平速度は十分であるにもかかわらず跳躍距離を大きくできない場合,踏切離地時身体重心鉛直速度が不十分であると考えられます.なぜなら,鉛直速度の大きさによって滞空時間が規定され,同じ水平速度であれば滞空時間が長いほど跳躍距離を大きくできるためです.

踏切離地時身体重心鉛直速度を大きくするためには,踏切中に鉛直方向への大きな力積を獲得する必要あります.力積は接地時間と力の大きさによって決定されますが,助走速度の増大に伴って踏切接地時間は短縮されることが報告されています (Bridgett and Linthorne, 2006).力学的には,この時間的制約によって鉛直方向への力積の獲得が困難となることが,助走速度が高いにも関わらず跳躍距離を大きくできない要因の一つとして挙げられます.では,限られた時間の中で大きな鉛直力積を獲得することはできないのでしょうか?

4.跳躍距離を制限する動作的要因

踏切離地時身体重心鉛直速度は,踏切中における身体重心の鉛直方向への変位を接地時間で除すことによって算出できます.踏切接地時間は助走速度によっておおよそ規定されることを踏まえると,今の助走速度でより高さのある跳躍を可能にするためには,踏切中における身体重心の鉛直変位を大きくすることが現実的でしょう.踏切中の鉛直変位を大きくすることができる動作的特徴として,踏切接地時に踏切脚がより後傾していることが挙げられています (Alexander, 1990).では,踏切接地時に踏切脚の後傾を作り出すためには,どのような技術の習得が必要なのでしょうか?これには,踏切局面に向けた助走局面における走り方が関わってくると考えられます.

5.走幅跳で求められる疾走動作とは?

一流走幅跳競技者の助走における疾走動作は通常のスプリントと比べ,1) ピッチが抑制されストライドが大きいこと,2) 支持脚の後方へのキック動作を抑制するような関節トルク発揮がなされ,「前捌き」の強調された動作であることが報告されています (伊藤ほか, 2006; 伊藤, 2007).また,伊藤ほか (2006) の結果からは,助走中における接地時の支持脚大腿が通常のスプリントよりも (統計的に有意ではないものの) 後傾している傾向が認められます.これらのことから,一流走幅跳競技者は速く走ることに最適化された動作やピッチ-ストライド関係から逸脱してまでも,ストライド優位で前捌きの疾走動作を採用することによって,踏切局面で踏切脚を後傾させるための準備をしていることが推測できます.

また,村木 (1995) は跳躍種目の運動遂行における留意点として,運動の先取りと調和を挙げています.この指摘と上述の助走における疾走動作の特徴を総合すると,踏切局面で必要となる動作パターンを助走局面から採用することによって,助走から踏切への動作パターンおよび力発揮への仕方の急激な変化を回避し,その結果として運動全体の調和を保つことにつながると考えることができます.

6.まとめ

本稿では,「助走速度の大きさの割に跳躍距離が小さい」走幅跳選手の悩みに応えることを目標に,論を進めていきました.現時点での私の結論としては,踏切局面そのものへの介入に加え,その一つ前の運動局面である,助走局面での走り方に工夫を施すことによって,より効果的な踏切動作を誘導することができると考えています.走幅跳選手においては,単に速く走ることができる能力も重要である一方で,多少疾走速度を抑制してまでも踏み切りやすさを優先し,前捌きの疾走形態を採用することが重要とも考えられます.以上より,助走の時点で踏切動作が先取られた,「踏切のように走る」振る舞いを学習することが,「助走速度の大きさの割に跳躍距離が小さい」問題を解決するための一助となるかもしれません.

7.文献
Alexander, R. M. (1990). Optimum take-off techniques for high and long jumps. Philosophical Transactions of the Royal Society of London. Series B, Biological Sciences, 329(1252), 3–10.
Bridgett, L. A., and Linthorne, N. P. (2006). Changes in long jump take-off technique with increasing run-up speed. Journal of Sports Sciences, 24 (8), 889–897.
深代千之. (1990). 跳ぶ科学. 大修館書店,pp. 42
深代千之・若山章信・小嶋俊久・伊藤信之・新井健之・飯干明・淵本隆文・湯海 鵬.(1994)走幅跳のバイオメカニクス.世界一流競技者の技術,ベースボールマガジン社,135–151.
Hay, J. G. (1993). Citius, altius, longius (faster, higher, longer): The biomechanics of jumping for distance. Journal of Biomechanics, 26 (Suppl 1), 7–21.
Hay, J. G., and Miller, J. A., Jr. (1985). Techniques used in the transition from approach to takeoff in the long jump. International Journal of Sport Biomechanics, 1(2), 174–184.
Hay, J. G., Miller, J. A., and Canterna, R. W. (1986). The techniques of elite male long jumpers. Journal of Biomechanics, 19(10), 855–866.
伊藤信之. (2007). 一流走幅跳選手の助走から見たスプリントと助走における走動作の違いと共通点について. スプリント研究, 17, 1–9.
伊藤信之・阿江通良・村木有也. (2006). 水平跳躍種目の助走における疾走動作の特徴について—日本一流走幅跳及び三段跳選手の場合. スプリント研究, 16, 60–71.
小山宏之・阿江通良・藤井範久・宮下憲. (2011). 競技レベル別に見た走幅跳の助走スピードの定量化—トレーニングで簡便に利用できる指標の提案—. 筑波大学体育科学系紀要, (34), 169–173.
Lees, A., Graham-Smith, P., and Fowler, N. (1994). A biomechanical analysis of the last stride, touchdown, and takeoff characteristics of the men's long jump. Journal of Applied Biomechanics, 10(1), 61–78.
村木征人. (1982). 陸上競技(フィールド). 現代スポーツコーチ実践講座 2. ぎょうせい.
村木征人. (1995). 助走跳躍における運動抑制現象の運動方法論的解釈とコーチング. コーチング学研究, 8(1), 129–138.
U.S. Track and Field and Cross Country Coaches Association. (2017). Track and Field Technical Certification: An Overview of the Jumping Events. https://web2.ustfccca.org/wp-content/uploads/2017/08/an_overview_of_the_jumping_e.pdf, (accessed 2025-11-22).
2026年9月1日掲載

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