RIKUPEDIAをご覧の皆様,はじめまして.今回のコラムを担当します,MC1の石川と申します.専門種目は十種競技で,現在も競技を続けております.よろしくお願いいたします.
はじめに
早速ですが,みなさんは今までに陸上競技の各種目で活躍するアスリートを見たことがありますか?筋肉質でガッチリとした体型の投擲競技者,余分な脂肪が落とされた細身体型の長距離競技者など,同じ陸上競技であっても専門種目によって競技者の体格は異なります.私の専門種目である十種競技は,100mや1500mなどの走種目,走幅跳や棒高跳などの跳躍種目,砲丸投や円盤投などの投擲種目,合計10種目によって構成されています.必要とされる技術や体力は各種目で異なるため,上述のように1つの種目に焦点を当てて手に入れるべき肉体について考えることは,十種競技の特性から外れたものとなってしまいます.それでは,十種競技者が目指すべき体格とはいったいどのようなものでしょうか.また,どのような体格の競技者が十種競技に向いているのでしょうか.今回は,十種競技者の身体特性に関する研究についてご紹介します.
十種競技者の身体特性
繁田ほか(1989)は,十種競技の記録と身長および体重との間に有意な相関関係が認められたことを報告しています.さらに,1986年の世界100傑選手と日本100傑選手の十種競技の記録と身長との関係について検討した結果,世界と日本どちらにおいても記録と身長との間に有意な相関関係がみられ,その傾向は世界と比較して日本の方がより顕著であったと述べられています.つまり,日本では身長が高い競技者ほど十種競技において高得点を獲得している,ということになります.このような結果を踏まえ,繁田ほか(1989)は,「十種競技において高い競技成績を収めるためには,身長が高いということが必要条件である」ということを示唆しており,日本のトップクラスや世界レベルの選手になるためには,身長が最低でも180cm以上あることが望ましいとの考えを述べています.
このことから,十種競技のタレント発掘の際には身長を一つの指標として用いることができるかもしれません.ただし,競技記録と身長との間に関係が認められなかったとする報告もあるため(Rajeev et al.,2010;Aikawa et al.,2020),身長以外の身体特性についても着目する必要がありそうです.
Rajeev et al.(2010)は,十種競技のパフォーマンスと身体特性(身長,体重,腕の長さ,肩幅,胴体の長さ,下肢長,大腿長,大腿周径,下腿周径)との関係について検討した結果,パフォーマンスと体重,肩幅,大腿周径,下腿周径との間に有意な相関関係が認められたことを報告しています.Aikawa et al.(2020)は,大学陸上競技部に所属する競技者を対象に,陸上競技各種目のIAAF score(競技記録を国際陸上競技連盟のスコア表によって得点化したもの)と身長,体重,筋肉量,体脂肪量,体脂肪率との関係について検討しています.その結果,十種競技者については,IAAF scoreと体重および筋肉量との間に有意な相関関係が認められたことを報告しています(図).また,筋肉量の増加は十種競技の全ての種目において必要とされる爆発的なパワーを高めること,体重の大部分は筋肉の質量によって構成されていることが要因となり,それぞれIAAF scoreとの間に関係が認められたと推察されています.
まとめ
これまで,十種競技のパフォーマンスと身長との関係について検討されたものでは,両者の間に有意な相関関係が認められたとする報告と,相関関係が認められないとする報告があり,一致した結果が得られていません.このことから,十種競技においては身長の高い競技者が必ずしも高いパフォーマンスを達成しているとは限らないようです.しかし,十種競技の中には身長が競技に影響を及ぼす種目がいくつかあります.例として走高跳では,記録を構成する要素の一つに踏切離地時の身体重心高が挙げられ,それは身長や下肢長などといった身体特性の影響を受けます(詳細は第155回のコラムをご覧ください).また,110mHでは,低身長の競技者は高身長の競技者よりもハードルを越えるために身体重心高をより引き上げる必要があると考えられます.したがって,十種競技のタレント発掘の際に用いる指標の一つに身長を取り入れることは良いと思われます.
その一方で,身長や下肢長は,後天的に変化させることが困難なものであるとされており,トレーニングによる改善は期待できません.しかし,筋肉量または筋力については,トレーニングによって増加・改善することができます.十種競技者のみなさんは,競技において重要とされている筋群(特に下肢)の筋量増大,そして筋力の向上を図りながら,各種目バランスよくトレーニングされることをお勧めします.