コントロールテスト項目を参考に,トレーニングの優先順位を考えよう
木越清信
スポーツ・トレーニングを合理的に進めるためには,競技パフォーマンスの分析が不可欠です.これは,競技パフォーマンスの構造を知ろうとすることと言い換えることもできます.例えば,400m走であれば,「エネルギー供給系からみた体力として,乳酸系の能力が必要,だけど100mを速く走ることのできるような高い疾走速度も必要で・・・」といったところです.次に,これらの能力がどの程度備わっているのか?を確かめたくなります.そして,実際に足りない能力,足りている能力を明らかにして,足りない能力を高めるためのトレーニング手段,および方法を選択して,トレーニングを計画して・・とトレーニングは進んでいきます.このあたりのことは,図子先生の示したトレーニングサイクルモデル(図子,2013)を参照してください.
話を基に戻します.競技パフォーマンスの分析で明らかにした能力がどの程度備わっているのか?を確かめたくなるわけです.それを我々は,コントロールテストを用いて行っています.このように,コントロールテストは,自身の専門とする種目の競技パフォーマンスを構成する諸能力を評価し,現状の把握や,トレーニング全体の評価に用いられています.したがって,コントロールテストの結果を見れば,競技パフォーマンスの予測をすることも可能です.それでは,コントロールテストに関する研究から,その種目を見てみましょう.例えば,大学生跳躍競技者を対象とした稲岡ら(1993)の研究では,クリーンやスナッチをはじめとしたウエイトトレーニング種目,各種ジャンプ種目,スプリント種目が行われています(表1).また,参考に本学陸上競技部の跳躍・混成ブロックで行っているコントロールテストも紹介したいと思います(表2).概ね稲岡ほか(1993)の採用している種目と同様ですが,我々は,これに加えて垂直跳(地面に力を加えた時間と跳躍高を測定),5回連続リバウンドジャンプ(5RJ-indexを測定),10m助走付き30mバウンディング(タイムと歩数を測定)などを実施しています.また,女子では40kg,男子では60kgでの7回のスクワットをできるだけ短い時間で完了させ,そのタイムを測定する「スクワットタイム」,走高跳競技者を対象としてまっすぐ走ってきて片脚で踏み切って跳躍高を測定する「ランニング・バーティカル・ジャンプ(通称,RVJ)」,三段跳競技者を対象として高さ10cm幅1m長さ3mの台上で助走して踏み切り,ホッピングやバウンディングを行う「リバウンド・ロング・ジャンプ(通称,RLJ)」なども試験的に実施しています.これらは,大学院生でコーチアシスタントの杉浦澄美さん(岡崎城西高校出身)や犬井亮介さん(洛南高校出身)が研究を進めていますので,詳しくは本人から紹介してもらおうと思います.
表1 陸上競技跳躍種目を専門とする競技者を対象として実施されているコントロールテスト項目の一覧
表2 本学陸上競技部跳躍・混成ブロックで実施しているコントロールテスト項目の一覧
コントロールテストの種目を概観して,今更ながら思うことは,これらのコントロールテスト種目は,日ごろのトレーニングで取り入れられているトレーニング種目だということです.つまり,これらの種目は,日常のトレーニングとしても取り入れられ,コントロールテストの項目としても用いられているのです.したがって,コントロールテストの項目を中心にトレーニングを行うことによって,効果的・効率的に競技パフォーマンスを高めること,または維持することが可能になるものと推察されます.
さらに,稲岡ほか(1993)の研究では,各種コントロールテスト項目と跳躍種目の競技パフォーマンスとの関係を検討し,目標とされる競技記録に応じて要求される具体的なテスト指標の作成を試みています.このような試みによって,数あるコントロールテスト項目のうち,特に優先的に取り組んでおきたい種目を見つけることができます.そして,稲岡ほか(1993)の研究では,特にジャンプ系運動と競技記録との間に有意な相関関係が認められています.したがって,コントロールテスト項目の中でも特に,両手砲丸投げ,立幅跳,デプス三段跳,加速付き30mホッピングに取り組むことで,効果的・効率的に競技パフォーマンスを高めること,または維持することが可能になるものと考えられます.したがって,もし運動をする場所が確保できれば,バウンディング系運動や両手での砲丸投に取り組むことが有効だと言えます.そもそもバウンディング系運動が有効であることに,疑問をいだく人は少ないと思います.したがって,バウンディングの有効性については割愛したいと思います.ここで詳しく触れたいのは,両手での砲丸投です.
両手での砲丸投の運動形態は,ウエイトトレーニングで用いられるクリーンやスナッチに代表される全身でのリフティング運動と類似しています.主に動員している筋群は,広背筋や脊柱起立筋,殿筋群,および脚伸展筋群などです.一方,負荷重量は,クリーンやスナッチと比較すると軽量であるために,パワー発揮能力の向上を目的とするトレーニングと言えると思います.また,より大きな負荷がかかる局面は,切り返しのところになります.林ほか(2016)によれば,床からプル動作を開始するクリーンにおいて,プル局面と比較してキャッチ局面で負荷が大きくなるようです.これは,この局面が,短い時間で速度が切り替わるためであると推察されます.このことを両手砲丸投げに当てはめると,降ろしてきた砲丸を受け止めてプル動作に入る切り返しの局面がこれにあたると言えます.したがって,この切り返し局面でゆっくりと切り返すのではなく,即座に切り返すことでより負荷を大きくすることができそうです.
ただ,さすがにMy砲丸を持っている人は少ないと思いますので,メディシンボールで代用すると良いと思います.それでも,3kgや5kgのメディシンボールを投げることのできる場所は限られていますし,外出自粛要請が出ている状況では,そもそも困難だと推察します.そこで,以下に示したような運動ではどうでしょうか?ケトルベル・スウィングをメディシンボールでやってみました.
メディシンボールを代用したケトルベル・スウィング(前から見た図)
メディシンボールを代用したケトルベル・スウィング(横から見た図)
このように,トレーニング種目の優先順位を考える際に,コントロールテストにおいて採用され,しかも競技パフォーマンスとの間に有意な関係が認められる種目を選択するという方法も有効かもしれません.ぜひ,検討してください.
参考文献
林陵平,苅山靖,吉田拓矢,図子浩二(2016)クリーンエクササイズのキャッチ動作をトレーニング手段に用いる場合の負荷特性:主要局面であるプル局面との比較を通じて.体育学研究,61(2),575-587.
稲岡純史,村木征人,国土将平(1993)コントロールテストからみた跳躍競技の種目特性および競技パフォーマンスとの関係.スポーツ方法学研究,6(1),41-48.
図子浩二(2013)コーチングモデルと体育系大学で行うべき一般コーチング学の内容.コーチング学研究149-161.
2020年4月25日掲載