今回コラムを担当するMC2木村です.長距離走種目は駅伝大会,ロードレースシーズンの最中で,目標の大会に向けて練習に励んでいるところかと思います.さて今回のコラムでは,長距離走の現場で多く用いられる,「持久性パフォーマンスを改善するインターバル走」についてご紹介させて頂きます.
そもそもインターバル走とは?本稿でご紹介するインターバル走は,走運動で行う間欠的高強度トレーニング(High Intensity Interval Training,以下HIIT)のことを指します.Billat (2001)によると,HIITは「強度の高い運動を短期から長期にわたって,休息を交えながら複数回繰り返すこと」と定義されています.つまりインターバル走とは最大努力に近い高強度走運動を,ジョギング等の低強度走運動での回復を挟んで実施するものです.このインターバル走の歴史はとても古く,1920年の当時世界トップクラスの中長距離ランナーであったPaavo Nurmiが既にトレーニングとしてインターバル走を用いていたと記されています(Martin and Paul,2013).その後1950年代に入ると,ヘルシンキオリンピック(1952年)で5000m,10000m,マラソンの三冠に輝いた,チェコスロバキアの英雄,Emil Zátopekが実施しているトレーニングとして世界中に広まり,効果的な持久性トレーニングとして注目を浴びるようになりました.最近では,アメリカスポーツ医学会がその年に注目されたフィットネスランキングとして,インターバル走を含むHIITが第1位であることを発表しました(Thompson, 2017).このことからインターバル走は約一世紀前から前代に至るまで長く注目されているトレーニングの一つです.
これまで様々な長距離ランナーに用いられてきたインターバル走は,運動強度や時間,休息時間,セット数などの様々な変数で構成されており(Buchheit,2005),その設定によって生理的反応や身体能力の適応が異なります.したがって,効果的なトレーニングを実施するためには,各変数を目的に合わせて設定できるよう,それらについて深く理解しておく必要があるでしょう.
ここまで,インターバル走が古くから多くのランナーに用いられてきたことや,様々な変数(運動強度や時間)によって構成されていることを説明させて頂きました.ここからはトレーニングを目的に合わせて効果的に実施するために,考慮すべき変数や運動生理学的指標について説明させて頂きます.
持久性パフォーマンスを改善させるためには,生理学的指標の一つである最大酸素摂取量(VO2max) を向上させることが重要です.Laursen and Jenkins (2002)は,このVO2maxを改善させるためには,酸素摂取量などに関係する呼吸循環器系に最大の刺激を与えることが必要であると述べています.さらに,Wenger and Bell(1986)によると,VO2maxの向上率を最大化するためには,高強度のセッション強度が90%〜100%VO2maxである必要があることを示しており,インターバル走では比較的高い運動強度で実施しなければならないことが分かります.また,Midgley and Naughton (2006)は,VO2maxの向上の為には,90%VO2max以上の酸素摂取量の時間(T@VO2max)を長く獲得することが重要であると述べています.つまり,持久性パフォーマンス改善のためには,呼吸循環器系に最大の刺激を与えるだけではなく,刺激する時間をできるだけ長くする必要があるということです.一般的に運動強度と運動持続時間は負の相関関係であり,運動強度が高すぎると全体の運動時間が短くなり,十分なT@VO2maxを確保することができません.しかし,運動時間を重視し運動強度を低く設定しすぎてしまうと酸素摂取量は最大値(100%~90%VO2max)に達することはなく,呼吸循環器系に十分な刺激を与えることはできません.つまり持久性パフォーマンス改善を目的としてインターバル走を実施する場合,酸素摂取量がVO2maxに達することのできる最低強度で,長い時間運動を持続できることが,効果的なインターバル走と言えます.
本稿を読んで頂いている方の中には定期的にインターバル走を実施している方もいるのかと思います.ではインターバルトレーニングを実施するに際には,どのように休息期間を設けているでしょうか?
HIITにおいて,高強度運動の間にある休息時間や方法が,長いT@VO2maxを獲得するのに重要な変数の一つであることが先行研究で示されています(Thevenet et al.,2008).主に休息の方法としては,強度を低くした同様の運動で次の高強度運動セッションまで繋げる「積極的休息」と,その場で座ったり止まったりして運動を完全に休止する「安静的休息」の,2つに分けられます.こうした休息の方法によって,高強度運動セッション中に起こる生理的反応には,大きな差が生まれることが,これまでの研究によって明らかになっています.先行研究では,疲労困憊になるまで運動を継続できる時間は,積極的休息に比べて,安静的休息で40%〜80%増加することが示されています(Thevenet et al.,2008)(Dupont.,et al 2004).しかしながら,前述した酸素供給システムに注目して,休息期間を50%vVO2maxの積極的休息と,安静的休息に分けてみると,30秒の高強度運動/30秒の休息のインターバル様式では積極的休息の方がT@VO2maxが17%も高いことが分かりました.安静的休養を行うことで、酸素摂取量が下がり,高い酸素摂取量まで立ち上げるのに時間がかかることから,結果的にT@VO2maxを下げてしまう可能性があります.Billat.,et al(2001)はHIITでT@VO2maxを高めるために,休息は70%vVO2maxの強度での運動を推奨しており,持久性パフォーマンスの改善を目的としてHIITを実施する際には,安静的休養よりも,積極的休養でインターバル走を実施した方が,効果的なトレーニングになるかもしれません.しかしこれらの研究は,持久性トレーニングを日頃から実施している者を対象にしているため,日頃運動をしない人は,さらに運動強度を下げるか,安静的に休息にするなど調整が必要です.
ここまで,休息の方法によって持久性パフォーマンス改善に重要な生理学的指標に差が生まれることについてご説明させて頂きました.この他にも,休息の時間や方法によって呼吸循環器系に関連する生理的指標に差が生まれることが先行研究で示されています.さらに,本稿で説明したインターバル走はあくまでも「持久性パフォーマンスの改善」を目的とした場合のもので,神経系や無気的エネルギー代謝の改善を目的とする場合は,それに合わせて運動強度や時間,休息の方法を調整する必要があります.その詳細についてはまた次回のコラムでご紹介できればと思います.
日頃のトレーニング効果を最大限引き出すためには,生理学的指標を理解することが必要不可欠です.本稿を参考にしていただきながらトレーニングについて考えて頂ければと思います.