アファメーションで夢やイメージを実現する

DC3 白木駿佑


RIKUPEDIAをご覧の皆様

あけましておめでとうございます.本年も陸上競技研究室をよろしくお願い致します.皆さんは,書き初めはしましたか? していない方も夢や目標をノートに書き出したり,初詣で祈った方は多いと思います.さて,その夢や目標はどうすれば叶えられるでしょうか.今回のコラムでは,夢やイメージの実現を手助けする方法『アファメーション』について紹介したいと思います.


アファメーションとは

アファメーション(Affirmation:確言,確約)は,心理学者のルー・タイスが目標実現プログラムの1つとして提唱した方法です.簡単に説明すると,アファメーションとは,自分の達成したい目標とその方法を一人称的視点で言葉にすることであり(白石,2009),理想のイメージを何度も想起することによって,「自分にはできない」を「自分にはできる」に変える自己変革の手法です(苫米地,2013).
   ビジネスや教育の場で用いられることのほうが多いようですが,スポーツ選手では競泳のマイケル・フェルプス,ゴルファーのタイガー・ウッズが用いていました(ルー,2011).日本のスポーツ選手でもプロ野球選手やバスケットボールの日本代表選手が用いていたようです(白石,2009).そして,白石はアファメーションを書き出したもの(アファメーションシート)を「自己暗示の確認書」として,自身の著書で紹介しております(白石,2009).


アファメーションの一般的方法    

アファメーションの一般的方法について,ルー・タイスの著書と白石氏の著書を用いて紹介したいと思います(ルー,2011;白石,2009;白石,2013).ルー(2011)は,アファメーションを「潜在意識(その人の持つ潜在的な固定観念や信念)の変容によって目標達成を目指す自身への建設的な語りかけ」としており,白石(2013)は,「具体的な目標や手法を書き出して,イメージとともに自身へ語りかける方法」としています.つまり,語りかけによって理想とするイメージを何度も想起することによって,その人の持つ潜在的意識が変わり,行動が変容し目標達成に近づきます.そして,その語りかけをするために書き出したものがアファメーションシートになります.図1は,元プロ野球選手の白井一幸氏が実際に用いていた内容のアファメーションシートです.まず,《目標》,そして自分にとっての目標の《価値》,その後には目標を達成するための《具体的な方法》が続き,最後にもう一度《目標》を読み上げて終わりです.目標については,具体的で測定可能で,頑張れば達成できそうで,現実的で,期間が限定されていることがポイントになります(白石,2009).そして,作成したシートを毎日複数回音読します.ここで,ルー(2011)は,アファメーションの内容を目標達成まで他人に対し秘密にしておくことを注意点として挙げています.人に話すことの欠点として,ルー(2011)は,「口にしたからには,やるしかない」という意識が生じ目標自体やそれに至る方法の変更に対する柔軟性が低下してしまうこと,また,批判などに対する無用なストレスを生んでしまう可能性を挙げています.つまり,実施者は他人の目を気にせず自分のなりたい姿を思い切って創造し,その過程の途中でも具体的方法を変更することが可能です.それが適切に行えれば,期限が近づくにつれて目標は定まっていき,方法は洗練されていくと考えられます.

図1 白井一幸氏の用いたアファメーションシート(白石,2009を元に著者改変)


アファメーションの研究

ところでアファメーションは,Yahoo!やGoogleの検索エンジンで検索すればたくさんのまとめサイトや個人ブログが見つかります.しかしながら,アファメーションに関する研究はほぼ皆無のようです.アファメーション自体が主体的に行うものなので研究として非常に扱いにくいからだと考えられます.また,目標達成まで内容を秘密にしておくといったルールも影響しているかもしれません.そこで,私は自身の過去の取り組みを事例として研究し,アファメーションの運用方法に関する論文が昨年掲載されました.(白木・木越,2019,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcoaching/32/2/32_253/_pdf/-char/en).この論文では,400m走のレースパターン(ペース配分)をアファメーションによって改善を試みた事例を検討し,アファメーションの活用方法などについて言及しています.元々アファメーション自体が競技スポーツに特化したものではないことから,図1のようなアファメーションシートとは異なる形に改善されていき,約4ヶ月の取り組みを経て目標が達成されました.アファメーションシートの最終形を図2に示しました.図1と比較して,具体的方法がなくなり,目標達成のためのレースイメージが中心に記述されています.分量の減少により何度も読むことが容易になったこと,そして,レースイメージに絞った記述によって,イメージの定着が促進されたことが考察されています.つまり,このアファメーションシートの改善によって,アファメーションの量(イメージ想起の回数)と質(イメージの具体性)の向上をもたらしたといえます.一方で,完成度の高いアファメーションシートの作成には試行錯誤にかかる時間と経験などが必要になることなどが示唆されました.また,個々の想像力や表現力などによっても効果は変わってきます(ルー,2011)


図2 白木・木越(2019)で用いられた
アファメーションシートの最終形
(白木・木越,2019を元に著者改変)

おわりに  

今回のコラムでは,目標達成に役立つアファメーションという方法について紹介しました.アファメーションという言葉は聞き慣れないかもしれませんが,実は誰でも簡易的にはやったことはあるのです.書き初めもそうですし,目標を自分の部屋に貼るのもそうです.その効果を最大化させるものが,アファメーションの技術になります.図1は白石氏が紹介している方法ですが,ルー・タイス氏はアファメーションシートの構成について特に指定しておりません.図2のような形式でももちろん大丈夫です.潜在意識を変えるためには,継続が容易で鮮明なイメージが想起できる文章を用いることが重要になると思います.今回のコラムや書籍,論文などを参考に試行錯誤しながら取り組んでみてください.


     
参考文献
ルー:田口未和訳・苫米地英人監(2011)アファメーション.フォレスト出版.
白石 豊(2009)本番に強くなる メンタルコーチが教えるプレッシャー克服法.筑摩書房.
白石 豊(2013)夢をかなえるコツ.水王舎.
白木駿佑・木越清信(2019)ある男子400m走競技者を対象としたアファメーションによるレースパターン変容の試み:-実践過程で生じる課題の呈示と解決策の提案-.コーチング学研究,32(2):253−264.
苫米地英人・マークシューベルト監(2013)「言葉」があなたの人生を決める.フォレスト出版
2020年1月14日掲載

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