Keto dietの仕組みとそのリスク

MC1 張碩

RIKUPEDIAご覧の皆様,MC1の中国人留学生の張碩と申します.今回はダイエットについての話をさせていただきます.よろしくお願いいたします.

0、はじめに

皆様はダイエットについてどうのような印象を持っていますか?お肉に代表される油っぽいものとご飯に代表される糖質の多いものを少なめに食べると同時に,ジョギングやサイクリングといった有酸素運動を多く取り入れるのがよいという認識を持っている人が多いと思います.しかし,Ketogenic low-carbohydrate diets(keto diet)という油を多めに摂取して行うダイエット方法があるのをご存知でしょうか?Brehm BJら(2003)の研究により,6ヶ月の間に,keto dietをした人は従来行われているような低カロリーダイエットをした人より,体重が2.2倍減少するということが報告されています.では,なぜketo dietを実施している人の方が体重をより減らせるのでしょうか.

1、keto dietとは?

keto dietとは,一日中摂取するカロリーの総量が一日中消耗するのを越えずに、少量な炭水化物(10%総カロリー),適量なタンパク質(20%総カロリー),多量な脂肪(70%総カロリー)という栄養素摂取の構成に基づいて,短期間で行う飲食方法です.

Rudyら(2018)は,keto dietによって,炭水化物の摂取量を最小限に抑え,代わりに脂肪の摂取量を増やし,体が「ケトン状態」に入ることができると報告しています.また,Rudyら(2018)は,ケトン(ketone)状態に入ると,体が脂肪を利用しエネルギーを生産できるようになるということも報告しています.これらの報告から,keto dietでは脂肪を多量に摂取するにもかかわらず,体はその摂取した脂肪を貯蔵するわけではなく,利用するようになることが分かりました.

  2、なぜ脂肪が利用されるのか. 

食事を改善することで,脂肪を利用する体にすることはできるものの,実際,それは簡単に行われることではありません.それではなぜketo dietを実施すると体が脂肪を利用することができるようになるのでしょうか.

(1)インスリンと糖新生(gluconeogenesis)

keto dietを実施する人が脂肪を利用することができるのは,インスリンという膵臓から出て,血糖値を下げる働きをするホルモンが大きく関係しています.师姐ら(2018)の研究により,インスリンは以下の3つの方法を用いて血糖(グルコース)を消費することが分かっています.(グルコースは,糖質が体の中で分解された後の最終産物である.)

①先ずは,グルコースをエネルギー源にする
②グルコースが体に十分なエネルギーを提供し,まだ余った場合,グルコースをグリコーゲンに変えて肝臓か筋肉に貯蔵する
③グルコースが更に余った場合,グルコースを脂肪に変えて脂肪細胞に貯蔵する
これらのことから,糖質の摂取量を十分少なくする場合,インスリンの分泌量が減少し,グルコースは余らずに全部エネルギー源として利用されることが可能であるのが分かります.

また,Silvaら(2009)の研究では,この状態で長時間いれば,体内に貯蔵しているグルコースの量が非常に少なくなり,本来グルコースを利用していた体はエネルギー源を失ったため,グルコースに変わる新しい物質(oxaloacetic acid,アミノ酸,脂肪酸など)を利用することが報告されています.これがいわゆる糖新生ということです.

(2)ケトンの生成とケトン状態(ketogenesis)

师姐ら(2018)がまとめた研究結果によると,グルコースに変えられるoxaloacetic acid,アミノ酸,脂肪酸などの物質もいずれ消耗し尽くされ,体は徹底的にグルコースを生産することができなくなります.また,师姐(2018)は,OAAはクエン酸サイクル(citric cycle,図1)にとって不可欠な物質であり,糖新生によってなくなるため,ATPを生産する役割を果たすべきであったクエン酸サイクルが順調に進めなくなるということを示しました.その結果,脂質の分解後の産物アセチル-CoA(acetyl-CoA)が大量集まり,肝臓に利用され,ケトンに変化することになります.これがいわゆる体がケトン状態に入ったということです.

以上のことから,keto dietを実施することを前提として,体は脂質,acetyl-CoA,ケトンという脂質を燃焼させるルートを形成することが分かりました.

3、ケトン状態に入ると?

体はケトン状態に入ると,様々な変化が起きるということが既に証明されています.
まず,Phinney SDら(1983)の研究により,体がケトン状態に入ると,ケトンはグルコースの代わりに脳や筋肉にエネルギーを提供することができるということが明らかにされています.つまり,体が糖新生をできなくなり,グルコースを生成できなくなっても,エネルギー源がなくなる心配はありません.



図1:citric cycle)
(出典:[生酮理论]生酮减肥的原理,师姐,2018.5をもとに,筆者作成)

次に,Johnstone AMら(2008)は,keto dietを実施している間に,油をたくさん食べるため,満腹感を感じやすくなります.よってカロリー摂取を計算しなくても,痩せられると示唆しました.このことについて,Sumithran.Pら(2013)は,keto dietで体重を減らした人はグレリン(空腹感を生み出すホルモン)の分泌と実際の食欲が減少するということを示しました.また,Gibson AAら(2015)は,エネルギーバランスを維持する低カロリーダイエットより,keto dietをした人の方が飢餓を感じる回数が少なくなり,食べ物への渇望が減少することを報告しました.さらに,Paoli(2013)らは,89人の肥満な人を被験者にし,表1に示したような計画に基づいて研究を行い,keto dietを実施してからの4ヶ月と6ヶ月の間(飲食構成が正常である状態)に,88%の被験者の体重がリバウンドしなかったという結果を報告しています.



表1: 被験者に実施させる1年間のダイエット計画(Paoli,2013)
(出典:Department of Biomedical Sciences, University of Padova, Padova 35131, Italy, Long Term Successful Weight Loss with a Combination Biphasic Ketogenic Mediterranean Diet and Mediterranean Diet Maintenance Protocolを元に、筆者作成)

これらのことから,keto dietによって食欲が抑えられるため,食べすぎることをうまく防ぐことができ,ダイエットを終えて正常な飲食に戻っても,体重がリバウンドしする可能性が低いということが分かりました.

4、keto dietの限界とリスク

keto dietによって,確かに体脂肪を燃焼させやすくし,食欲が減り,体重がリバウンドする可能性も低いというメリットがたくさんありますが,逆に様々なデメリットや限界もあると多数の研究により報告されています.Hartman AL(2007)らは,断食やketo dietなどを長時間実施すると,ケトアシドーシス(ketoacidosis)状態(ケトアシドーシスとは,体がケトン体の生成を上手くコントロールできないため,ケトンが大量集まり,血液のPHが低くなるという症状)になってしまうことがあると報告しました.それについて,Liu YM(2008)らは,MTC(中鎖脂肪酸)を摂取することと普通のLTC(長鎖脂肪酸)を摂取することと比較すると,MTCを摂取した方は体が生成したケトンが少なく,ケトアシドーシスなどの不良反応を起こさず,より安全にケトン状態に入ると示唆しました.つまり,keto dietは脂肪を大量摂取するダイエットですが,脂肪の種類によって体に起こす反応が異なるため,正しい油(MTC,ココナッツアイル,オリーブオイル,乳脂肪,動物の油など)を食べることが重要です.

また,Phinney SDら(1983)の研究により,体がケトン状態に入るとケトンはグルコースの代わりに脳や筋肉にエネルギーを提供することができるということが報告されていますが,松井(2011)らの研究では,血液から提供されるグルコースが足りない場合,脳に貯蔵されているグリコーゲンが脳の働きを維持する重要なエネルギー源となるということが報告されています.つまり,ケトンはグルコースの代わりに,脳のエネルギー源になれるかどうかはまだ検討する必要があります.

さらに,陳柏長(2018)がまとめた研究結果により,ケトン状態に入っている人は脂肪燃焼率が普通の人より高いものの,運動量や運動強度,またはパフォーマンスは低下することが明らかにされています.Amitha Sampath, BA(2007),Groesbeck(2006)の研究により,低確率ですが,keto dietを実施する人(特に青少年の場合)に腎臓結石,骨粗鬆症などの症状が出るリスクがあることが示されています.このことから,keto dietはトレーニング中のアスリートに向かない方法であることが分かりました.そのため,リスクを回避することに必要な知識を蓄えることがketo dietを実施する前に必ず解決すべき課題です.

5、まとめ

keto dietは主に脂質を体のエネルギー源とし,糖質摂取量を最小限に抑えることによって,強制的に体に脂肪を利用しケトンを生成させる食べ方であり、ダイエットにも効果的です.この方法は常識を破り,普通の糖質制限ダイエットを上回ることも言えますが,体はこのダイエットによって大きな変化が現れるため,様々なリスクも存在します.特にトレーニング中のアスリートに不向きであることを注意すべきです.そのため,この方法でダイエットする際に,まずその仕組みとリスクについての知識を身につけ,自分に適合するかどうかを判断したうえ、体の反応を確認しながら実施する必要があると考えられます.



参考文献
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2019年4月9日掲載

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