はじめに
RIKUPEDIAをご覧の皆様,はじめまして,今年度より筑波大学大学院に進学致しました木村亮太(きむらりょうた)と申します.
専門は長距離で,昨年度まで東京国際大学駅伝部のマネージャーとして活動しておりました.現在は,筑波大学陸上競技部長距離パートのコーチアシスタントを務めております.
自己紹介はここまでにして,今回私が紹介するテーマは「遺伝子と競技パフォーマンス」についてです.
競技パフォーマンスは,どのような要因に影響を受けているのでしょうか.陸上競技を例に,先行研究を概観すると,Steudel-Numbers et al.(2007)は,長い脚と細い下腿が長距離走において効率的な疾走をもたらすと報告しています.さらに,ハムストリングスや内転筋群,大腰筋の横断面積が大きい者ほど短距離走のパフォーマンスが高いこと(狩野,1997),体幹部筋群の横断面積が大きい者ほど投てきパフォーマンスが高いこと(大川ほか,2004)などが報告されています.加えて,ここで挙げられている形態的な特徴や筋肉量は遺伝子によって大きく決定づけられることが示されています(Silventoinen et al.,2003).また,競技パフォーマンスは,トレーニングや栄養摂取状況などの環境的要因による影響も受けますが,遺伝的要因に20-80%決定されることが報告されています.(Daniel and Kathryn.,2007).以上の報告から,競技パフォーマンスには形態的,生理学的な要因が影響を与えていること,形態的,生理学的な要因は遺伝子に大きく影響を受けていることがわかります.ここからは,競技パフォーマンスに関連する遺伝子として注目されている,アクチニン3(以下,「ACTN3」と略す)についてご紹介します.
ACTN3遺伝子Bray et al.(2009)は,運動能力や健康に関連する体力に影響を及ぼす遺伝子多型の候補は,200以上存在していると報告しています.その中でも,昨今注目されているのがACTN3遺伝子です.Niemi and Majamaa(2005)によると,ACTN3は速筋線維に存在するaアクチン3タンパク質(R型)を作るための遺伝子です.そこに変異が生じるとaアクチン3タンパク質は作られません(X型).そしてACTN3の遺伝子型は,上記のR型とX型の組み合わせによって構成されており.RR型,RX型,XX型,以上3つの遺伝型に分類されます.
Yang et al.(2003)は,オーストラリアのトップアスリート(瞬発系と持久系)と一般人を対象として,ACTN3遺伝子と遺伝子の発現について検討した結果,瞬発系アスリート群ではR型を有する選手がX型を有する選手に比べて有意に多く,X型を持つ選手は有意に少ないこと,さらにはオリンピックに出場した瞬発系選手の中に,XX型をもつ選手が一人もいなかったことを報告しています(図).
また,Vincent et al.(2010)は,ヨーロッパ人の若年男性を対象に,最大膝伸展運動を実施した結果,筋損傷の指標である血中クレアチンキナーゼ濃度が,XX型保持者群はRR型保持者群に比較して運動後2倍高くなることを報告しました.このことからXX型を有する者はRR型を有する者よりも筋損傷の程度が大きく,遺伝子型によって運動後の身体のダメージに差があることがわかります.
以上のことから,遺伝子による身体反応は様々であり,それらが競技パフォーマンスに影響を与えていることがうかがえます.疾走における能力や,身体に起こる反応は人それぞれ異なることを考慮すると,チーム単位で課された練習メニューが本当に必要な練習なのか,常日頃考える必要があるのではないでしょうか.これらは運動を遂行する者だけでなく,運動を処方する指導者側も十分に理解しなければいけません.遺伝子とパフォーマンスについての研究が今以上に進めば,いつか遺伝子を元にオーダーメイドされた練習が当たり前になる時代が来るかもしれません.本コラムを参考にしていただきながら,遺伝子の要因もパフォーマンス決定要素の一つと考慮して練習に取り組んで頂ければ幸いです.