コンディショニングについて

MC1 伊藤明子

RRIKUPEDIAをご覧の皆様

初めまして,今回のコラムを担当させていただきますMC1年の伊藤明子です.七種競技と400mHを専門としています.よろしくお願いいたします.

皆さんは,日々のコンディショニングをどのような方法で行っていますか?コンディショニングには,目的とする試合に向けた期間での調整(ピーキング)と,栄養や休養などへの配慮によって日々のトレーニングをよりよい状態で効果的に継続していくためのはたらきがあり,アスリートにとって重要です.

村木(1994)は「トレーニング効果は,負荷とそれに対する十分な回復期間とによって成立し,負荷と休養はトレーニングの両輪となる」と述べています.このようにトレーニング効果を得るためには,負荷だけでなく休養を十分に取り入れることでコンディションを維持する必要があります.しかしPedersen et al.(1994) は「中等度の運動は免疫機能を促進し,高強度の長時間運動は回復期において一時的に免疫機能を低下させる」というオープンウインドウ説を提唱しています.このことは,日常的に高強度運動を行っているアスリートが高い体力を有する反面,免疫力が低下しやすいことを示しています(谷村,2009). 皆さんも「試合や強化練習の後は風邪を引きやすいなぁ・・・」と感じたことはありませんか?(筆者はほぼ毎試合後風邪をひきます.明らかなオープンウインドウ状態!)

ではどのようにコンディショニングを行っていくことが好ましいのでしょうか?

体重・起床時体温・安静時心拍数・握力などの客観的指標やHoopers score・POMS・CPS・TPRなどの主観的指標といった様々な指標を日々測定し,自身のコンディション変動の特徴をつかむことはより良いコンディショニングの為の方法のひとつです.しかしこれら全てが全員の疲労の状態を繊細に反映することはできないため,自身のコンディションを反映しやすい個別の指標を見つける必要があります.Plews et al.(2012) はトライアスロン選手を対象とした研究の中で,主観的指標はコーチからの評価ような外的な要因の影響を受けるため,客観的な指標と併せて評価する必要があると述べています.そこで客観的指標に関して最後に,心拍変動という興味深い指標があるのでそちらを紹介したいと思います.

【心拍変動(Heart Rate Variability)】

心拍変動とは,心臓の拍動と拍動の間隔(R-R間隔)の変化のことです.R-R間隔は通常,呼吸や血圧の影響を受けてゆらいでおり安静時でも一定ではありません.これを呼吸性変動と言います.この呼吸性変動に加えR-R間隔は,自律神経の影響を受けて変化するため,近年,この心拍変動(以下HRV)から算出される自律神経活動指標が,アスリートのコンディション評価に有用であるとして,様々な競技種目で用いられるようになってきています.特に最近ではスマートフォンとHRモニターを用いることで簡単に測定が行えるようになり,現場でも使用しやすい仕様になっています.HRVの分析方法には,時間領域分析や周波数領域分析といった方法ありますが,その中でも副交感神経調節を表し,時間領域分析の指標であるrMSSD (root mean square of successive differences: 隣り合うR-R間隔の差の二乗の和の平均の平方根)という指標がアスリートを対象とした多くの研究で用いられています.


図1 心拍変動とは

rMSSDを用いたコンディショニングに関する研究は,長距離,トライアスロン,ボート等の持久系種目で多くあります(Flatt et al.,2014;Prew et al.,2012;Prew et al.,2017).これらの研究ではrMSSDが高い時にパフォーマンスがよいといった報告があります.つまり,rMSSDの低下は疲労の蓄積により交感神経の活動が高まり,先述した「オープンウインドウ」な状態にある可能性が考えられ,注意が必要です.

しかし自律神経活動は時期による影響も大きく受けるため,解釈に注意が必要です.例えば試合前,私たちは戦闘モードに入り「いつでも戦える状態(Readiness to perform)」になります.このような状態のときは疲労の蓄積に関わらず交感神経の働きが高まる,すなわちrMSSDが低くなる場合があります(試合の朝と休日の朝の心持ちの違いを想像していただけるとわかりやすいかと思います).

このように解釈に注意が必要ですがrMSSDを継続的に測定・記録し分析することで,自律神経調節の視点からもコンディション評価を行うことができます.

今まで「なんとなく」でコンディショニングを行っていた方,なかなか自分に合った項目が見つからない…という方は,トレーニング負荷や主観的指標と併せてHRVを使ったコンディション評価を試してみてはいかがでしょうか?



参考文献
Flatt AA. & Esco MR. (2014) Endurance performance relates to resting heart rate and its variability: A case study of a collegiate male cross-country athlete.Journal of Australian Strength and Conditioning, 22:39-45
Al Haddad H., Laursen P B., Chollet D., Ahmaidi S., Buchheit M. (2011) Reliability of Resting and Postexercise Heart Rate Measures. International Sports medicine,32 : 598-604
谷村裕子 (2009) 高強度運動によるリンパ数減少に対する酸化ストレス及びリンパ球数アポートシスの関与.筑波大学大学院人間総合科学研究科スポーツ医学専攻平成20年度博士論文
村木征人(1994) スポーツトレーニング理論 : 52,164
Nieman DC. (1994) Exercise, upper respiratory tract infection, and the immune system. Medical & Science in Sports & exercise, 26 : 128-139
Pedersen BK., Ullum H. (1994) NK cell response to physical activity: possible mechanisms of action. Medical & science in sports & exercise, 26 : 140-146 
Plews DJ., Laursen PB., Kilding AE., Buchheit M. (2012) Heart rate variability in elite triathletes, is variation in variability the key to effective training?A case comparison. European journal of applied Physiology, 112 : 3729-3741
Sadan Y., Mehmet Y. (2016) Impact of Menstrual Cycle on cardiac autonomic function assessed by heart rate variability and heart rate recovery. Medical principles and practice, 25 : 374-377
2018年6月28日掲載

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