コーチは如何にして学び続けられるか

DC1 水島 淳

RIKUPEDIAをご覧の皆さま,こんにちは。DC1年の水島淳です。今年度から博士課程に在籍をしながら,某スポーツメーカーの新入社員として社会人生活を送っています。研究と仕事がお互いに良い影響を及ぼすことができるように,日々多くを学んでいます。

さて,今回のコラムでは,「コーチの学び」に関して考えていきます。

選手がスポーツを実施する目的は多種多様であり,それぞれがもつ目標も様々です。文部科学省(2013)では,競技者やチームを育成し,目標達成のために最大限のサポートをする活動全体がコーチングであると述べており,それ故,コーチは様々な要求に応えられるように学び続ける必要があると言えます。以下では,OECD(2011)による「学び」の場の分類から,「コーチは,如何にして学び続けていけるか」に迫ります。

1)フォーマル学習
フォーマル学習は,「組織化され,構造化された環境において発生し,明らかに(目標設定,時間,リソースの観点から)学習としてデザインされている学習」と定義されています(OECD,2011)。例えば,コーチ資格プログラム,大学のコーチングに関連する教育プログラムは,このフォーマル学習に分類されます。

2)ノンフォーマル学習
ノンフォーマル学習は,「学習(学習目標,学習時間,もしくは学習支援の観点から)としては明瞭にデザインされていないが,計画された活動に埋め込まれた学習」と定義されています(OECD,2011)。例えば,コーチングカンファレンスあるいはクリニックなどは,このノンフォーマル学習に分類されます。

3)インフォーマル学習
インフォーマル学習は「仕事,家庭生活,余暇に関連した日常の活動の結果としての学習」と定義されています(OECD,2011)。例えば,選手経験,コーチング実戦経験,他のコーチとの相互作用など,他者との経験を通じて学ぶことは,このインフォーマル学習に分類されます。また,インターネット検索やコーチングマニュアル,書籍,あるいは「RIKUPEDIA」などを通じて自ら学ぶことも同様に,インフォーマル学習に分類されます。

一般的に「学び」といえば,フォーマル学習・ノンフォーマル学習が真っ先に思い浮かぶかもしれません。しかしながら,先行研究(Lyle.,2002;Mallett et al.,2010)によると,実はコーチの学びにとってインフォーマル学習が重要視されています。つまり,コーチは自らのコーチング実戦経験や他のコーチとの相互作用など,日常の事柄や出来事を通じた「学び」に重きを置いているということです。しかしながら,ただ単にそれらの経験を積むだけで「学び」となるわけではありません。「学び」は,経験を省察することで得られるとされています(Schön,1983)。すなわち,コーチは偶発的に生じる事柄や出来事でさえも振り返り,省察することで,自らの「学び」にすることができるということです。

また,コーチの学びは,コーチになってから初めて起こるものではなく,選手時代にすでに始まっています。Werthner and Trudel(2006)によると,選手としての経験やコーチから受けているコーチングは,自らが描くコーチ像やコーチング能力に影響し得るとされています。陸上競技コーチ,あるいは将来陸上競技コーチを志している選手の皆さま,あらゆる経験を学習機会として捉え,コーチング日誌,練習日誌を活用し,今一度自らの「学び」を振り返ってみてはいかがでしょうか。

※日本陸上競技連盟も積極的にコーチの育成に取り組んでおり(尾縣,2016),JAAF公認ジュニアコーチ・公認コーチ養成講習会を開催しています。それらは,実技やディスカッションの時間も多く,とても充実した内容となっています。人数の制限や参加の条件等ございますが,是非積極的にご参加頂きたいと思います。

d50h60@gmail.com 水島 淳



参考文献
Lyle,J(2002)Sports coaching concepts.A framework for coaches’ behavior.London.Routledge.
Mallett,C(2010)High performance coachs’ careers and communities.In Lyle,J.and Cushion,C.J.(Eds.),Sports Coaching:Professonalisation and Practice.Elsevier:London.
文部科学省(2013)スポーツ指導者の資質能力向上のための有識者会議(タスクフォース)報告書.http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/sports/017/toushin/__icsFiles/afieldfile/2014/06/12/1337250_01.pdf
OECD:山形大学教育企画室監訳,松田岳士訳(2011)学習成果の認証と評価—働くための知識・スキル・能力の可視化.明石書店:東京.
尾縣 貢(2016)コーチの資質・能力の向上に関する政策動向:東京オリンピックの強化へと関連づけて.陸上競技学会誌.14,47-52.
Schön,D.A(1983)The reflective practitioner:how professionals think in action.Temple Smith:London.
Werthner,P.,and Trudel,P(2006)A New Theoretical Perspective for Understanding How Coaches Learn to Coach.The Sports Psychologists,20:198–212.
2018年5月14日掲載

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