RIKUPEDIAをご覧の皆さん,こんにちは.DC1の佐藤高嶺です.今回のコラムでは,私の修士論文テーマの一つである,アライメント異常とスポーツ傷害の関係について取り上げてみます.
そもそもアライメントって何?
アライメントとは,骨・関節の配列のことであり(山本,2004),静止時の静的(スタティック)アライメントと動作中の動的(ダイナミック)アライメントの二種類があります(竹村・柴田,2015).人体の構造には湾曲やねじれが存在し(山本,2004),正常なアライメントから大きく偏位している状態をアライメント異常(マルアライメント)と言います(竹村・柴田,2015).代表的なものとしては,下肢におけるO脚・X脚,足部における回内足・回外足が挙げられます(川野,1988).また,足部におけるハイアーチ(凹足)や扁平足もアライメント異常として取り上げられています(Ekstrand et al.,1990).
アライメント異常は,スポーツ傷害発生の要因の一つとされており(竹村・柴田,2015),骨形態の歪みは運動効率を低下させ,筋腱への負担を大きくするとされています(山本,2004).そのため,単純で軽い負荷であったとしてもアライメント異常がある場合には,同じ動作が繰り返されることにより,ストレスが積み重なって傷害を引き起こす可能性があります(山本,2004).実際に,ランニングの研究においては,スポーツ傷害とアライメント異常との関係が多数報告されています(James et al.,1978;Messier et al.,1991;山本,2004).加えて,アライメント異常は急激なストップやターン,転倒時などに関節に不利な肢位で負荷がかかりやすく,外傷を起こしやすいともされています(山本,2004).
アライメント異常とスポーツ傷害
1.O脚・X脚O脚とは,足を揃えて膝をまっすぐにして立った状態で,過度に膝の内側に隙間ができるものを言い,(山本,2004).一般的には,膝関節の内側上顆間の距離が指幅2本分以上の場合が判断の目安となります(増島,1999).
O脚の度合いが強い場合には,膝の外側の張力が増すため,ランニングのような膝の屈伸運動を繰り返すと,腸脛靭帯と大腿骨外側上顆との過度な摩擦が生じ,腸脛靭帯炎を起こしやすくなります(山本,2004).増島(1982)は腸脛靭帯炎と診断された16症例(男性13例,女性3例)を対象に下肢のアライメント測定を行ったところ,11例が内側上顆間に指幅2本分以上の距離を示していたと報告しており,O脚と腸脛靭帯炎との関係性がうかがえます.
また,藤原(1974)は欧米の文献と比較すると日本人のほうがO脚の傾向にあり,21〜40歳の青壮年期においては男性が同じ時期の女性と比べてO脚に近い形態をしていること,逆に女性は同じ時期に男性よりもX脚であることを報告しています.さらに,増島(1982)は,腸脛靭帯炎と診断された87例のうち69例が男性,18例が女性と,男性に腸脛靭帯炎が多いことを報告しています.これらのことを踏まえると,日本人は欧米人に比べてO脚の傾向にあり,欧米人よりも腸脛靭帯炎を起こしやすく,青壮年期においては特に男性に起こりやすい可能性があります.加えて,国内の競歩競技者や水泳競技者を対象にアライメント計測を行った文献(佐藤,2018;浦辺,1995)によると,計測対象者の約半数にO脚や膝の内反が認められており,O脚を有するものがスポーツ競技者においても少なくないことがうかがえます.
次に,X脚とは足関節の内側に隙間ができるもののことを言い(山本,2004),O脚と同様に隙間の大きさによって簡易的に度合いを知ることもできますが,一般的にはX線像によって評価されます(古賀,1999).X脚では膝関節の外側に圧力がかかり,半月板損傷,膝蓋大腿関節症などを生じやすくなります(山本,2004).逆に膝の内側においては伸張ストレスがかかりやすいため,膝内側に集まる筋の付着部である鵞足部の炎症を生じやすいとされています(山本,2004).
2.回内足・回外足一般に足底部が外側を向く動きを回内,内側を向く動きを回外と呼びますが,これらが過度に起こる足をそれぞれ回内足,回外足と言います(横江,1999).ランニング時には,着地直前に回外が起こり,その後着地とともに回内が生じて足部アーチが緩み,着地の衝撃を吸収します.そして,重心が前方に移動するにつれて再び回外が起きて蹴り出しが行われています(横江,1992).
また,その足部は足関節,膝関節,股関節を介して胴体につながっており,下肢全体が1つの単位となって協調した運動を行っています(横江,1999).そのため,足部の動きが上に伝わったり,反対に上の動きが足部に伝わったりすることにより,足部が回内すると下腿・大腿部が内旋し,膝関節の外反が強まるということが起きます(横江,1992).また,反対に足部が回外した場合には,下腿・大腿部は外旋し,膝関節の内反が強まります(横江,1992).山本(2004)は,過度の回内は下肢全体のねじれの動きを強め,下腿や膝のランニング障害を生じさせる原因となるとしています.加えて,O脚が足部の回内を助長するということも言われており(ブルークナー,2009),O脚によって下肢全体のねじれの助長につながる可能性もあります.
扁平足とは足の縦アーチの低下が著しい足を言い,反対にハイアーチはアーチが高すぎる足のことを言います(山本,2004).この足部アーチの働きはランニングやジャンプ運動における荷重時の衝撃の緩和や体重移動に重要であるとされています(山本,2004).
足部アーチの支持に関しては,後脛骨筋,長・短腓骨筋,長母指屈筋,長指屈筋,母趾内転筋などが関与しており,これらの筋群の脆弱化によってアーチの低下を招くとされています(草木ほか,2006).そして,アーチの低下は扁平足障害として足底腱膜へのストレスを高めます(草木ほか,2006).反対にハイアーチでは,足部の剛性が高まり,柔軟性が低下することによって衝撃緩衝機能が低下し,扁平足と同様に足底腱膜へのストレスを上昇させ,足底腱膜炎などを招く可能性があります(木下ほか,1997;草木,2006).また,衝撃緩衝機能が低下することにより,疲労骨折につながるとも考えられています(鳥居ほか,1991).
鳥居ほか(1991)は,陸上競技競技者の足部アーチ形態と回内度について調査を行い,一部のデータにおいて,足部アーチ形態と回内度の間には関係があり,扁平足の場合に回内度が大きく,ハイアーチにおいて小さかったことを報告しています.そして,既往疾患との関係を見ると,シンスプリント(過労により生じる脛部痛)を経験した人はその他の疾患を経験した人よりも回内度が大きい傾向にありました. これはMessier and Pittala(1988)の,走行中の最大回内角が傷害の既往歴のない群に比べ,シンスプリント経験群において大きかったという報告に一致しています.横江(2008)はシンスプリントの発生の要因の一つとして足関節底屈筋群,特にヒラメ筋の過剰な牽引力を挙げており,これらのことを踏まえると,扁平足の場合には回内度が大きくなり,足関節底屈筋群に過剰な牽引力が生じてシンスプリントの発生につながると考えられます.
最後に
ここまで各アライメント異常についてまとめてきましたが,それぞれのアライメント異常は記述の中にもあるように,単独で傷害につながる場合だけでなく,それらが関わり合いながら傷害を生じさせる場合もあります.その一つの例となるモデルを図1に示しました.
また,佐藤(2018)は,競歩競技者を対象にアライメント調査をおこない,競歩競技者の場合には歩行中に膝関節を完全伸展させた状態で着地動作を行うため,膝の屈筋群が引き伸ばされた状態で,足部回内による下腿の内旋が起こり,膝周りの腱や靭帯の傷害につながるのではないかと考察しています.このようにその競技特有の肢位によってアライメント異常による骨や関節,腱などに対する影響が異なる場合も考えられます.そのため,その競技への適性の有無を確認する視点としてもアライメントは有用ではないかと考えられます.