運動前の静的ストレッチは逆効果!?
~動的・静的ストレッチがパフォーマンスに及ぼす影響~
MC1 小倉希望
RIKUPEDIAをご覧の皆さま
こんにちは.MC1小倉です.近年では,ウォーミングアップに静的ストレッチよりも動的ストレッチを取り入れている競技者が多く見受けられるようになりました.皆さんは,それぞれのストレッチをどのように取り入れていますか.本コラムでは,動的・静的ストレッチがパフォーマンスに及ぼす影響について紹介します.まず,動的ストレッチや静的ストレッチは,関節の可動域を広げるとともに,筋肉の柔軟性向上のためによく行われています.
~動的ストレッチ~
動的ストレッチは,目的とする筋群の拮抗筋群を意識的に収縮させ,関節の伸展および屈曲,あるいは回旋等を行うことで相反性抑制を生じさせます(山口・石井,2011).これは,筋および腱を伸張させる方法です.実際のスポーツや身体活動に含まれる動作をシミュレーションして意識的に行うことでその動作にかかわる動的な柔軟性を改善させる方法でもあります(山口・石井,2011).この動的ストレッチは,筋機能,瞬発的な能力および持久的な能力に及ぼす影響が検討されていますが,筋機能(パワー),跳躍能力,走タイムおよび投てき距離などの各種瞬発的な能力の向上が認められています(山口・石井,2011).また,最近では動的ストレッチの適切な方法についても検討されており,Fletcher(2010)は下肢筋群における低速および高速の動的ストレッチを用いて垂直跳びに及ぼす影響を比較した結果,高速な動的ストレッチがよりパフォーマンス向上に有効であると示唆しています.したがって,ウォーミングアップに動的ストレッチを取り入れることは,高いパフォーマンス発揮のために有効であると考えられます.
~静的ストレッチ~
静的ストレッチは,筋機能,瞬発的な能力および持久的な能力のほかに,反応時間(Alpkaya and Koceja ,2007;Arabaci,2008;Behm et al ,,2004;Perrier et al.,2011),筋持久力(Gomes et al.,2011;Nelson et al.,2005)およびバランス能力(Costa et al .,2009;Handrakis et al.,2010)への影響が多く検討されています.このうち反応時間および筋持久力について,静的ストレッチによって低下したことを示した研究(Arabaci, 2008;Behm et al .,2004;Nelson et al ., 2005)がある一方,バランス能力について改善したことを報告した研究(Costa et al .,2009;Handrakis et al .,2010)も存在します.しかしながら,静的ストレッチ後に一般的にスポーツ現場で行われているような専門的なウォーミングアップを加えることで,パフォーマンスが改善した例が示されている(Little and Williams ,2006;McHugh et al .,2008)ものの,現場で利用されているような,一つの筋群に対する静的ストレッチによって,パフォーマンスが改善したことを報告した研究は少ないです(O’Connor et al.,2006).これらのことから,静的ストレッチがウォーミングアップにおいてパフォーマンス発揮への有効な手段かと問われると否定せざるを得ません.「静的ストレッチのパフォーマンスへの阻害効果」について,準備運動前のストレッチは筋力の発揮を阻害するものの,普段の定期的なストレッチは逆に筋力を向上させることが示唆されており,運動前の拮抗筋の静的ストレッチは筋出力を向上させることが明らかになっています(Shrier,2004).また,谷ほか(2014)は静的ストレッチにおける伸張時間の違いによって効果が異なり,目的・用途に合わせて伸張時間を選択する必要があることを示唆しています.このように,静的ストレッチでも,やり方次第でポジティブな効果が得られることが期待できます.
これらのことから,瞬発的な能力が必要とされる競技のウォーミングアップにおいては,動的ストレッチを行うことがパフォーマンスに良い影響を及ぼすと考えられます.さらに,定期的に静的ストレッチを行ったり,拮抗筋の静的ストレッチを行ったりすることによって,筋の出力が向上するかもしれません.シーズンに向け,それぞれの目的に合わせて参考にしてみてください.
参考文献
Aipkaya, U. and Koceja, D.(2007)The effects of acute static stretching on reaction time and force. J. Sports Med. Phys. Fitness, 47(2): 147-150.
Arabaci, R.(2008)Acute effects of pre-event lower limb massage on explosive and high speed motor capacities and flexibility. J. Sports Sci. Med., 7(4): 549-555.
Behm, D. G., Bambury, A., Cahill, F., and Power, K.(2004)Effect of acute static stretching on force, balance, reaction time, and movement time. Med. Sci. Sports Exerc., 36(8): 1397-1402.
Costa, P. B., Graves, B. S., Whitehurst, M., and Jacobs, P. L.(2009)The acute effects of different durations of static stretching on dynamic balance performance. J. Strength Cond. Res., 23(1): 141-147.
Fletcher, I. M.(2010)The effect of different dynamic stretch velocities on jump performance. Eur. J. Appl. Physiol., 109(3): 491-498.
Gomes, T. M., Simao, R., Marques, M. C., Costa, P. B., and da Silva Novaes(2011)Acute effects of two different stretching methods on local muscular endurance performance. J. Strength Cond. Res., 25(3): 745-752.
Handrakis, J.P., Southard, V. N., Abreu, J. M., Aloisa, M., Doyen, M. R., Echevarria, L. M., Hwang, H., Samuels, C., Venegas, S. A., and Douris, P.C.(2010)Static stretching does not impair performance in active middle-aged adults. J. Strength Cond. Res., 24(3): 825-830.
Little, T. A. and Williams, A. G.(2006)Effects of differential stretching protocols during warm-ups on high-speed motor capacities in professional soccer players. J. Strength Cond, Res., 20(1): 203-207.
McHug, M. P., and Nesse, M.(2008)Effect of stretching on strength loss and pain after eccentric exercise. Med. Sci. Sports Exerc., 40(3): 566-573.
Nelson, A. G., Kokkonen, J., and Amall, D. A.(2005)Acute muscle stretching inhibits muscle strength endurance performance. J. Strength Cond. Res., 19(2): 338-343.
O’Connor, D. M, Crowe, M. J., and Spinks, W. L.(2006)Effects of static stretching on leg power during cycling. J. Sports Med. Phys. Fitness, 46(1): 52-56.
Perrier, E. T., Pavol, M. J., and Hoffman, M. A.(2011)The acute effects of a warm-up including static or dynamic stretching on countermovement jump height, reaction time, and flexibility. J. Strength Cond. Res., 25(7): 1925-1931.
Shrier, I.(2004)Does stretching improve performance? A systematic and critical review of the literature. Clin. J. Sport Med., 14(5): 267-273.
谷 澤真・飛永敬志・伊藤俊一(2014)短時間の静的ストレッチングが柔軟性および筋出力に及ぼす影響.理学療法―臨床・研究・教育,21:51-55.
山口太一・石井好二郎(2011)ウォームアップにおける各種ストレッチングがパフォーマンスに及ぼす影響.トレーニング科学,23(3): 233-250.
2018年3月19日掲載