RIKUPEDIAをご覧の皆様,はじめまして.DC1の図子あまねです.
近年,65歳以上の人口が増加し,一人暮らしの高齢者が増加しています.それに伴って,高齢者が自立した生活を送ることが課題となり,いつまでも自らの力で歩くことが必要になります.そこで今回は,高齢者の歩行能力を維持・改善するための要因や評価法について“ばね”(SSC運動:第9回コラム参照)に着目し,①高齢者の歩行能力に重要な要因1),②その測定・評価方法2)を検討した研究をご紹介します.よろしくお願いいたします.
まず,①高齢者の歩行能力に重要な要因1) についてご紹介します.
人の歩行能力(歩行速度)は60~70歳を境に歩幅の減少により低下します3).したがって,高齢者の歩行能力には大きな歩幅を獲得する能力が重要になりますが,そのためには何が必要なのでしょうか.そこで,歩行動作を逆振り子型の運動モデル7)(図1:接地足と重心を結んだ線分)として捉え,検討しました.このモデルによって,複雑な歩行動作を単純化して分析できます.その結果,歩行能力の高い高齢者では,逆振り子の振れ幅,脚長の縮みと伸び,地面へ発揮した力(地面反力)が大きいことに対して,歩行能力の低い高齢者は,これらが小さいことが示されました(図1).このように,高齢者が大きな歩幅を獲得するためには,逆振り子を大きく回転させることが必要になりますが,そのためには大きな地面反力を発揮する必要があります.その時下肢は,接地とともに縮むことで着地衝撃を吸収し,その後伸びることで推進力を発揮しており,大きな地面反力の獲得と回転運動を可能としています.このような下肢の運動はまさに,“ばね”の特徴と同じです.これらのことから,高齢者が大きな歩幅を獲得するためには,下肢のばね能力が重要であることが分かります.
次に,②高齢者の“ばね”能力の測定・評価方法2)についてご紹介します.
高齢者の歩行能力を維持・改善するためには,歩行に必要な下肢のばね能力を適切に測定・評価する必要があります.その運動として,これまで子どもやアスリートのばね能力の評価に用いられてきたリバウンドジャンプ4, 6) が挙げられます.しかし,この運動は接地時に体重の何倍もの力が身体に加わるため,高齢者にとっては負荷が高く危険な運動であると考えられます.そこで,足部と地面が常に接地した状態での脚の曲げ伸ばしを,無理のない範囲で素早く行う“はずみ運動(図2)”が有効になる可能性があります.ここでは,はずみ運動の能力と歩行能力の関係性を検討するために,歩行能力の高い高齢者と低い高齢者のはずみ運動を比較しています.その結果,歩行能力の高い高齢者は,下肢の曲げ伸ばしを円滑に行うことで重心が大きく上下動し,大きな地面反力を獲得できますが,一方で歩行能力の低い高齢者は,下肢が円滑に曲げ伸ばしできずに重心の上下動が小さくなり,地面反力も獲得できていないことが分かりました.これらのことから,歩行能力が高い,すなわち歩行時に下肢のばね能力に優れ大きな歩幅を獲得できる高齢者は,はずみ運動でも下肢のばね能力に優れていることが分かります.
以上のことから,高齢者の歩行能力を維持・改善するためには,下肢のばね能力を高めることが重要であると考えられます.これまで,高齢者へばね要素を含まない筋力トレーニングを行わせ,筋力が向上しても歩行能力が改善しなかったという報告5)があります.したがって,高齢者の歩行能力を維持・改善させるためのトレーニングを考えるために,はずみ運動のような下肢のばね能力に着目することは非常に重要であると考えられます.