RIKUPEDIAをご覧の皆様,はじめまして.DC2の戸邉直人です.今回のコラムでは様々なスポーツのパフォーマンスに影響を与える身体の「ばね」の評価法について検討した論文を中心に紹介させていただきます.
「あの選手はばねがある」といったように,競技の現場で「ばね」という言葉を聞いたり,使ったりしたことがある方は多いのではないかと思います.では,そもそも「ばね」とは一体どういったものなのでしょうか?重力環境下に生きる人間が重力に抗して走ったり,跳んだりする時には自分の体重を受け止め,屈曲した身体を元に戻す,ばねのような動きが必要となり,この動きが上手く,よく弾んだり,素早い切り返しを行うことができたりする選手を総じて「ばねがある」と表現します.そして,この「ばね」は持久力や筋力といった体力の一要因が示すものではなく,体力,技術,精神力などの諸要因が渾然一体となって形成される1つのシステムとしての能力を意味しています(図子ら,1996).
この「ばね」が要求される運動の代表であるスプリント走や跳躍,フットワークなどでは,0.2秒以下という極めて短い時間で大きな力を発揮することが要求され,このような特性を有する運動はバリスティック運動と呼ばれています(Desmedt and Godaux,1977).また,この時の下肢の動作はストレッチショートニングサイクル運動(以下,SSC運動)の典型であるために,各種の跳躍やフットワークの能力を向上させるためには,バリスティック運動とSSC運動の2つを遂行する能力が必要とされます.すなわち,バリスティックなSSC運動の遂行能力こそが,「ばね」の正体であると考えられます.そして,この能力を,だれでも,いつでも,どこでも,簡単に評価するための手段として,台から跳び下りて即座に跳び上がるリバウンドドロップジャンプ運動(以下,RDJ)におけるRDJ-index(=跳躍高/接地時間,どれだけ短い時間でどれだけ高く跳ぶことができたかを示す指数)が開発されました(図子,1993).やがて,この指数はその場での連続ジャンプ(リバウンドジャンプ運動: RJ)にも応用され,現在では様々な競技実践場面で用いられています.
また,種々の競技スポーツにおいては,パフォーマンス構造や動作様式の相違などから,高いパフォーマンスを獲得するための下肢の力発揮特性は異なることが考えられます.そこで,14種目のスポーツ選手にRDJ,垂直跳,スクワット姿勢での最大脚伸展力測定という異なる運動を行わせ,専門とするスポーツ種目の違いによる下肢の力発揮特性の相違について検討が行われました.これらの運動は筋の収縮様式や力発揮時間が異なることで,力発揮のための神経・生理学的メカニズムが異なる運動です(米田,1989).なお,ここでは下肢の能力として,RDJ-indexを0.2秒以下で遂行されるバリスティックなSSC運動の遂行能力,垂直跳の跳躍高(以下,CMJ-h)を0.5~0.8秒で遂行される低強度のSSC運動,スクワット姿勢での最大脚伸展力を力発揮時間に関わらない下肢の等尺性筋力の指標としました.その結果,RDJ-index,CMJ-h,脚伸展力の順に高い値を示すA群,脚伸展力,CMJ-h,RDJ-indexの順に高い値を示すB群,それぞれの指標に顕著な差がないC群の3つのグループに分類できることが認められました(図1).
以上のことから,スポーツ種目によって必要となる下肢の力発揮能力は異なり,陸上競技の跳躍・短距離や球技などの高度に「ばね」が要求される競技種目における選手の特性を測定・評価するためには RDJ-indexが有効であると考えられます.トレーニングを合理的・合目的的に実施するためには,トレーニング効果の適切な評価・診断が欠かせません.「ばね」を高めたいアスリートの皆さんはぜひ,RDJ-indexをトレーニング評価に取り入れてみてください.