RFDを用いた瞬発力の評価について

MC1 図子浩太佑

RIKUPEDIAをご覧の皆さま,はじめまして.修士1年の図子浩太佑と申します.
 スポーツの実践現場では,「あの選手は瞬発力がある」というように、→,爆発的な筋力発揮が必要な種目において大きな力を瞬間的に発揮する能力が注目されます.この能力は,力の立ち上がり能力として呼ばれ,力の立ち上がり率 (Rate of force development: RFD) として短時間での力発揮を評価する指標として用いられています.今回そのRFDについてご紹介します.

 

 まず,時間の制限なく大きな力を発揮する能力と,できるだけ短時間で大きな力を発揮する能力は,どのように異なるのでしょうか.ザチオルスキー(1972)は,大学生100名を対象に,最大筋力と最大筋力の50%に到達するまでの時間との関係について検討し,両者の間に有意な相関関係は認められなかったことを報告しています.つまり,大きな力を発揮できる者が,必ずしも素早く筋力を発揮することができるわけではないと考えられます.さらに,初期の筋力は最大筋力より個人差の大きいことが報告されています ( Folland et al., 2014 ).これらの例として,力発揮が始まってから最大筋力を発揮するまでを曲線で示すと図のようになります.この図から,力の最大値はAが優れていることに対して,短時間で大きな力を発揮する能力はBが優れていることが分かります.最大筋力のみでは,「Aが筋力に優れている」という非常に限定的な捉え方しかできません.しかし,力に発揮の過程という時間の概念を加えることで,筋力や力を少し違う面から捉えることができます.さらに,時間の制限なく大きな力(最大筋力)を発揮する能力と,できるだけ短時間で大きな力を発揮する能力は,互いに異なる能力として捉える必要があることが分かります.

 
図1 力の立ち上がり


 

次に,RFDはその他の運動能力と関係があることが報告されています(Vittesalo and Komi, 1984; Young et al., 1996).例えば,走高跳の競技記録と膝伸展の最大筋力およびRFDを縦断的に測定した結果,競技記録と膝伸展の最大筋力の2ヶ月ごとの変化は対応していなかったことに対して,競技記録と膝伸展のRFDには対応関係が見られました( Vittesalo and Komi, 1984 ).つまり,競技種目と異なる運動で測定したRFDであっても,その値と競技記録の変化は対応することが分かりました.これらのことから,膝伸展といった簡単な運動から測定したRFDを用いて,競技パフォーマンスに関わる力発揮能力を適切に評価することができる可能性があります.

大きな力を短時間に発揮することができることが良いとは一概には言えませんが,一気に大きな力を発揮する方がいいのか,ゆっくりでもいいので大きな力を発揮する方がいいのか,またそのときの筋力発揮が可能な時間はどのくらいあるのか,というように力の出し方や時間に関するそれぞれの種目特性を考慮して,筋力を捉えることが,筋力発揮能力をパフォーマンス向上につなげるために必要不可欠です.以上のことから,最大筋力と区別してRFDの能力を測定することで,競技者の筋力やパフォーマンス水準をより適切に評価すること,筋力発揮能力に関する種目特性をより詳細に明らかにすることができる可能性があると考えられます.






参考論文:
Folland J. P, Buckthorpe M. W., Hannah R. (2014) Human capacity for explosive force production: neural and contractile determinants, Scand. J. Med. Sci. Sports 24: 894–906.
Vittasalo, J. T., Komi, O. (1984) Seasonal fluctuations of force production in high jump, Can. J. Spt. Sci., 9(4): 209-213.
Young W., Mclean B., Ardagna J., (1995) Relationship between strength qualities and sprinting performance, J. Sports Med. Phys. Fitness, 35: 9-13.
ザチオルスキー:渡辺謙訳・猪飼道夫校閲 (1972) 人間の運動能力としての筋力の形態.スポーツマンと体力-トレーニングの理論と方法-.ベースボール・マガジン社,pp. 29−33.

2017年11月16日掲載

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