陸上研コラムをご覧の皆様,こんにちは.DC1の梶谷です.
今回のコラムでは,100m走の加速能力に必要とされる力・パワー発揮能力について,ジャンプ運動に着目して紹介します.
100m走において高いパフォーマンスを達成するためには大きな力やパワー発揮能力が必要とされており,このことは,研究者のみならず現場のコーチや競技者も日々肌で感じている事実だと思います.実際,この能力を高めるためのトレーニング(ウエイト・スプリント・ジャンプなど)はトレーニングの基盤となっています.それでは,この能力を評価するために用いられているジャンプ運動に着目して話を進めていきたいと思います.
・力・パワー発揮能力の評価法
短距離競技者の力・パワー発揮能力の評価には,各種鉛直ジャンプ(図1)を用いて評価されています(Nagahara et al, 2014).これらのジャンプについて簡単に説明すると,SJ・CMJはその場から行う垂直跳,RJは連続ジャンプ(接地時間をできる限り短くして高く跳ぶ),AJは股関節と膝関節を伸展位で固定し,足関節の底屈のみで行う連続ジャンプ(接地時間をできる限り短くして高く跳ぶ)です.本コラムでは,これら4つの鉛直ジャンプ能力と短距離競技者のパフォーマンスとの関係について紹介していきます.
・60m走タイムと各種鉛直ジャンプ能力との関係
まず,表1をご覧ください.こちらの表は60m走タイムと各種鉛直ジャンプの記録との相関関係が示されたものです.60m走タイムとの関係は,SJの跳躍高,CMJの跳躍高,AJのindexと跳躍高との間に有意な負の相関関係が認められています.この結果をみると,
ジャンプの仕方は異なるものの,「高く跳べる」ことは短距離競技者にとって必要な能力であると考えられます.
・1歩ごとの加速度と各種鉛直ジャンプ能力との関係
また,これらのジャンプ能力と加速能力との関係をより詳細に検討するために,60m走の1歩ごとの加速度(1歩で獲得した速度)とSJ・CMJの跳躍高,RJ,AJのindex注1)
も相関関係を検討されています.その結果,6から10歩目の加速度とSJの跳躍高との間に,5から11歩目の加速度とCMJの跳躍高との間に,14から19歩目の加速度とAJのindexとの間にそれぞれ有意な正の相関関係が認められたことが報告されています(Nagahara et al, 2014).また,永原(2015)は,スタートから4歩目(5m付近)までを1次加速局面,4歩から14歩目までを2次加速局面,14歩目から最大速度に達するまでを3次加速局面と定義しています(図2).つまり,SJ,CMJは2次加速局面との関係性が高く,AJは3次加速局面との関係性が高いことになります.
これらのことについてNagahara et al(2014)は,2次加速局面では支持期において膝関節が屈曲した後に伸展すること,さらにこの局面における支持時間は最大速度時と比較して長いことから,2次加速局面における加速度とSJやCMJとの間に正の相関関係が生じたことを報告しています.したがって,ある程度の時間をかけて大きな力を発揮する能力を向上させることで,加速能力を高められる可能性が考えられます.一方,3次加速局面における加速度とAJとの間に有意な相関関係が認められています.このことは,3次加速局面は姿勢が直立に近づいていく局面であり,速度が高まり支持時間が短くなっていきます.そのため,AJのように直立した姿勢で,接地時間の短いジャンプに関係が認められたとされています.
以上のことをまとめると,100m走の加速局面において必要とされる力・パワー発揮能力は加速局面の前半と後半で異なります.したがって,これらのことを理解した上で向上すべき加速区間を把握し,トレーニングを行う必要があると考えられます.
今回紹介したジャンプ運動による力・パワー発揮能力の評価は,実践現場で比較的簡便に測定できることから,体力測定やCT(コントロールテスト)でも広く行われています.
これらを継続して(月1回程度)測定することで,自分のパフォーマンスとの関係を明らかにすることができ,トレーニングの成果を評価する際の目安にもなると思います.是非,この冬の成果をこのような指標から評価してみてください.また,大学やJISS等のトレーニング施設にはこれらを計測する器具がありますが,中学・高校の陸上競技部,個人でトレーニンしている方は器具を利用するのは困難かもしれません.ですが,今ではスマートフォンのアプリでもこれらを測定することができますので,そちらを利用するのもいいかもしれません.
注1 RJ-index(リバウンドジャンプ指数)=跳躍高(m)/接地時間(s)できるだけ短い時間で高く跳ぶ能力