シーズン開幕まであと少しとなりました.準備はいかがでしょうか,試合のシミュレーションはできているでしょうか.そこで,今回はシーズン前にピッタリ(?) のテーマ「エナジードリンクの効果」について紹介します!
エナジードリンク(栄養ドリンク)とは,疲労時の栄養補給などを目的に販売されている飲料のことであり,近年Red Bull®やMONSTER ENERGY®,burn®など様々な種類が市場に出回っています.これらのエナジードリンクは,試合前や長時間の運転,テスト前の一夜漬けなど「気合いを入れるとき」また「寝てる場合じゃないとき」に飲むことが多いと思います.
幾度となく助けられた人(助けられなかった人?)がいると思いますが,気になることはやはり“効果があるのか”だと思います.今回は,これまで行われてきた検証実験を基にその効果をひも解いていきます.
(1) ウィンゲートサイクルテストおよびベンチプレスの筋持久力における効果 Forbesほか(2007)は,Red Bullがウィンゲートサイクルテスト※1およびベンチプレスの試技に及ぼす影響を調査しました.被験者は,健康な男女16名(男性12名,女性4名;24±6歳)でした.Red Bull(カフェイン2.0mg/kg)とプラセボ飲料※2(マウンテンデュー+レモン汁+水;ノンカフェイン)を準備し,被験者に中身を教えず与えました.飲用後,ウィンゲートサイクルテストとベンチプレス(最大挙上重量の70%を限界まで×3セット)を行わせました.その結果,ウィンゲートサイクルテストのピークパワー(図1)では効果が得られませんでしたが,ベンチプレス3セット合計(図2)では,Red Bull飲用の方が有意に回数が多く,Red Bullの効果が得られたと報告しています.
(2) 低用量のカフェイン補給が早朝の砲丸投パフォーマンスに及ぼす影響 Bellerほか(2012)は,低用量のカフェイン補給※3が早朝の砲丸投パフォーマンスに及ぼす影響を調査しました.被験者は学生砲丸投競技者9名(男性4名,女性5名;それぞれ20.5±2.1,19.6±1.9歳)でした.実験前に,カフェイン入りのガムとプラセボガムを被験者に中身を教えず与え,5分間服用させた後,砲丸投を6投(男性7.26kg,女性4.0kg)行わせました.この実験を2度行い,記録の変動を調査しました.その結果,カフェイン服用の場合は,プラセボの場合よりも1投目から3投目に3.1〜6.1%の記録向上を示しました(図3).このことから,カフェインの服用は,投てき距離を増加させ,また早朝のパフォーマンス向上に効果的であったと結論づけています. しかし,4投目から6投目では記録が向上していないことから,その効果を断定するのは難しいと考えられます.
(3) 眠い運転手に与える有益な効果 Horne and Reyner(2000)は,自動車シミュレーター(Car simulator)を用いて,長距離運転に対する効果を検証しました.被験者は,健康な大学院生12名(男性6名,女性6名,24±2歳)でした.実験の36時間前からアルコールとカフェインの飲用を禁止し,前日の睡眠時間を5時間に制限しました.エナジードリンクとプラセボ飲料(ノンカフェイン)を準備し,被験者に中身を教えず与えました.実験試技は,運転中に鳴る電子音に対する反応時間としました.その結果,エナジードリンク飲用の場合は,プラセボの場合よりも反応時間の短縮が見られました(図4).このことから,エナジードリンクの飲用は,眠い運転手に対し有益な効果があると報告しています. しかし,プラセボ飲用においても反応時間の短縮が見られ,また,飲用前からエナジードリンクの方が短い反応速度を示しています.そのため,「得られた効果すべてがエナジードリンクによるもの」とは断言できないと考えられます.
エナジードリンクやカフェインの服用に関する研究は,数多くありますが,紙面の関係上3つに絞りました.そのため,似たような結果だけを選択し,効果に関する総論を示せていない可能性があるためご注意ください.
今回紹介した先行研究の結果と考察には,いくつか疑問に感じる点がありました.そのため,エナジードリンクが「パフォーマンスの向上に効果がある」と言い切るのは難しいと考えられます.しかし,いずれの研究も服用による効果が得られているため,試合前のルーティンやテンションの向上として用いた結果,パフォーマンス向上に結びつく可能性はあるのかも知れません.