円盤投競技者に求められる体力とは?

MC2 前田 奎

筑波大学陸上競技研究室院生コラムをご覧の皆様,久しぶりの登場となりました,MC2の前田です.忘れた方もいらっしゃるかと思いますが,前田といえば...?
そうです.円盤投です.

今回も懲りずに円盤投に関するテーマにさせていただきました.

今回は「円盤投競技者に求められる体力とは?」です.

さて,みなさんは“円盤投競技者”と聞くと,誰を思い浮かべますか?

     M島「やっぱ世界選手権3連覇してるRobert Harting選手やな!」

     Hアン「そこは円盤皇帝Lars Riedel選手でしょ!」

     M田「いやいや40歳で70m投げたVirgilijus Alekna選手もおるで!」

...このようにたくさん名前が出てきますが,名前が挙がっている競技者は皆,身長が高く,手足も長く,非常に大きな体格であると言えます.(例:世界選手権モスクワ大会優勝時のRobert Harting選手:身長201cm;体重126kg,月刊陸上競技,2013).

石河ほか(1977)は,身長がパフォーマンスに影響を与える競技として,投てき競技を挙げています.投てき競技の場合,できるだけ大きいエネルギーを発生させ,投てき物に伝える必要があり,投てき物を遠くに投げるためには,身長や体重などの体格の大きい競技者の方が有利であると報告されています(石河ほか,1977).このことから,世界のトップで活躍する円盤投競技者の体格が大きいことは当然であると言えます.

先述のような体格の大きな世界レベルの円盤投競技者と比べて,身体の小さな日本人円盤投競技者が,国際大会で活躍するためには,技術を洗練させることに加え,体力を向上させることが不可欠であると考えられます.

そこで今回のコラムでは,円盤投競技者の「体力」に着目して,話を進めていきます.
なお,今回取り上げる「体力」とは,いわゆる「一般的体力」と呼ばれるものです.その「一般的体力」を向上させるトレーニングのひとつである「ウエイトトレーニング」の目的を踏まえた上で,円盤投競技者に求められる体力について考えていきます.

原ほか(1994)は,77名の円盤投競技者(記録平均:43.02±5.53m)を対象に,体格・体力に関するアンケートを行いました.その結果,原ほか(1994)は,大腿囲と50m走を除く全ての項目で有意な相関関係が認められ,中でも筋力系の項目(ベンチプレス,フルスクワットなど)やジャンプ系の項目(立幅跳,立五段跳など),投てき系の種目(砲丸フロント投げ,バック投げなど)で強い相関関係が認められたと報告しています.

さらに,原ほか(1994)は対象の競技者を,上位群(47m以上:n=17),中位群(40m以上〜47m未満:n=34),下位群(40m未満:n=46)の3群に分け,競技レベルに応じた体力・運動能力の特性について検討しました.その結果,原ほか(1994)は,ほとんどの項目において上位群,中位群,下位群の順に平均値が高く,各群間の有意差もより多く認められたと述べています.特に上位群は投てき系の項目はもちろんのこと,ベンチプレスやフルスクワットなどの筋力系の項目や立幅跳において中位群,下位群を大きく上回っており,競技レベルの高い競技者の体格・体力的優位性を示していました(原ほか,1994).

筋力系の項目では,ベンチプレス,フルスクワットの差が大きく,ジャーク,クリーン,スナッチと比較すると中位群から上位群の差が顕著に大きかったと報告されています(原ほか,1994).原ほか(1994)の研究における,ウエイトトレーニングに関連する項目についての結果を表1に示しました.

シュモリンスキー(1982)は,円盤投競技者の競技力向上には,爆発的な筋力が必要であり,中でも最大筋力が決定的な因子であるのひとつであると述べています.このことからも円盤投競技者にとって最大筋力を向上させることを目的としたウエイトトレーニングが,重要なトレーニングとなっていることがうかがえます.

また畑山ほか(2011)は,国内上位競技者5名(記録平均:55.34±3.70m)と中位競技者8名(記録平均:44.12±2.87m)を対象に円盤投競技者の体力を測定し,競技力との関連性について検討しました.畑山ほか(2011)の測定したウエイトトレーニングに関連する項目と結果を表2に示しています.

畑山ほか(2011)は,ベンチプレス,スクワット,クリーンの3項目について,両群間に有意差は認められなかったと報告しています.しかし,全被験者を対象に相関関係について検討した場合,競技力とクリーンとの間に有意な正の相関関係が認められたと報告しています.このことについて,畑山ほか(2011)は,クリーンの種目特性上,挙上にはより高い速度での爆発的な力発揮が要求されることが,円盤投のパフォーマンスに関連していると推察しています.このことに関して,Bartnietz(1994)は,より大きなパワーを獲得するためには,可能な限り素早く動作を遂行する能力が欠かせないとし,ウエイトトレーニングの動作速度の重要性について述べています.これらのことから,畑山ほか(2011)は,原ほか(1994)やシュモリンスキー(1994)が述べている最大筋力も重要ではあるが,円盤投動作に対応した,より高い動作速度における力発揮についての評価を重視すべきであると述べています.

ここまでの話を整理すると…


・ 円盤投は,体格の大きな人が有利である.

・ 円盤投のパフォーマンス向上には,爆発的な力発揮,中でも最大筋力が重要であり,それらを獲得するためにウエイトトレーニングは重要なツールである.

・ 最大筋力だけでなく,円盤投動作に対応した,より高い動作速度での力発揮も重視すべきである.

と言えます.

つまり,ただ重たい重量を挙上することだけが重要なのではなく,重たい重量を挙上する場合にも,高い速度で動作を行うことを意識する必要があるということです(軽い重量を挙上する場合に,高い速度で動作を行うことももちろん重要です!).おそらくこの“速い動作を行う”ということに関しては,多くの円盤投競技者のみなさんが常々意識していることだとは思いますが…今後も忘れないでいただきたいです.

さて,今回は円盤投競技者の体力について,ウエイトトレーニングを中心に話を進めてきましたが,いかがでしたか?ウエイトトレーニングは,パフォーマンスを向上させるためのひとつのツールです.投てき競技を専門とする我々にとって最も重要なのは,投てき物の初速度を高めることができるようになること(≒投てき物を遠くに投げられるようになること)です.

トレーニングを積めば,ある程度挙上可能な重量も増加し,すぐに伸びたことが実感できるウエイトトレーニングですが,ウエイトそのものが目的になってしまわないように,頭を使って,そして何より楽しんで,自身の競技を追求してほしいと思います.


表1 原ほか(1994)による
ウエイトトレーニングに関連する項目の平均値(全体および競技レベル別),
記録との相関係数および群間の差(原ほか,1994をもとに前田作成)



表2 畑山ほか(2011)による
ウエイトトレーニングに関連する項目の平均値(全体および競技レベル別),
記録との相関係数および群間の差(畑山ほか,2011をもとに前田作成)
*:p<0.05;n.s.:not significant(有意差なし).
参考文献:
Bartonietz,K.B.(1994)Training of technique and specific power in throwing events.Modern Athlete and Coach,32(1):10-16.
G.シュモリンスキー:成田十次郎・関岡康雄訳(1982)ドイツ民主共和国の陸上競技教程.ベースボールマガジン社:東京,pp.411-424.
畑山茂雄・高梨雄太・佐々木大志(2011)円盤投競技者の体力特性と競技力の関連性.陸上競技研究,87(4):17−26.
原信一・有吉正博・繁田進(1994)円盤投競技者の体力に関する調査研究.陸上競技研究,46(2):36-39.
石河利寛(1977)日本人体力とスポーツ体力.杏林書院:278-295.
月刊陸上競技(2013)10月号.講談社/陸上競技社:東京.

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