RIKUPEDIAをご覧の皆様,こんにちは,MC1の梶谷です.
2015年がスタートしたわけですが,本年は世界選手権が開催されること,翌年にはリオ五輪が控えていることから選手・コーチは冬期トレーニングにより一層気合いが入っていることと思います.
さて,前回のコラムでは加速局面に必要な能力について説明しました.ですが,「色々言っているけど結局どうすれば良いの?」と思う選手も多いのではないでしょうか.そこで今回は,数あるトレーニングの中から加速局面に着目した具体的なトレーニングとして,レジステッドトレーニングについて紹介します.
一般的にスプリント走に用いられるレジステッドトレーニングとして,そり牽引走,上り坂走,ウエイトベスト走などが挙げられます(John, 2006).特に,そり牽引走と上り坂走は,スプリント走における加速局面の動作(体幹の角度,接地時間,水平方向への力発揮)と類似している所が多いことが報告されています(John,2006).その中から,今回のコラムではそり牽引走について見ていきます.
*レジステッドトレーニングについては第34回のコラムをご参照ください.
そり牽引走はその名の通りそりを引くトレーニングであり,タイヤ引き走で代用される場合もあります.また,このような“重りを引く”トレーニングは,多くのスポーツでスプリント能力を向上させるための方法として広く適用されています(Forstreuter,1996).
それでは,そり牽引走がスプリント能力に与える影響について見ていきましょう.Zafeiridis et al.(2005)は,そり牽引走により,5kgの負荷あり群と負荷なし群に分け,2ヶ月間のトレーニング実験を行いました.その結果,負荷をかけた群において加速局面(0-20m)の疾走速度の増加が見られ,特に0-10m区間の疾走速度が顕著に増加したとしています.
その要因として,膝関節・股関節伸筋の筋力の増加及び体幹の前傾や支持期の時間の増加が挙げられています(Zafeiridis,2005).実は,そり牽引走時の膝関節・股関節の伸筋のEMG(筋電図)では,大腿部広筋と大殿筋で大きな活動が見られ,技術的にも体幹の前傾や支持期の時間の増加も見られ,加速局面におけるスプリント動作と類似していたのです.
では実際にそり牽引走をするときに,負荷設定はどのようにすれば良いのでしょうか.具体的な負荷設定として,Cissik(2005)は,自体重の10%未満,Kafer(1993)は,15%未満に設定するのが好ましいとしています.
先ほど紹介したZafeiridis et al.(2005)は,負荷の重さを5kgでしか検証していませんでした.その理由として負荷が大きすぎた場合,全力疾走時のキネマティクス的特徴から大きく逸脱してしまうこと,筋力の発揮速度が遅いため,キネティクス的にもネガティブな影響を与えてしまうことを挙げています(Zafeiridis,2005).同様の理由で,Lockie et al.(2003)も軽い負荷でのトレーニングを推奨しています.
また,私の経験では,実際のトレーニング現場でより重い負荷設定でトレーニングをする意識が強いのではと思うことがあります.特に中学生・高校生にはそのような傾向が強くあると感じています.このようなスプリント動作を含むトレーニングを行う場合は,上述したようなネガティブな影響は避けたいです.したがって,選手のスプリント動作が崩れない範囲で負荷を設定し,段階を経て負荷を調節していく必要がありそうです.
以上のように,そり牽引走は加速局面のスプリント能力向上に役立つ可能性が示唆されています.そして,そり牽引走はスプリントトレーニングと筋力トレーニングの両方の役割を担っていることから,利便性の高いトレーニングと考えられます.負荷設定に気をつけて,是非冬期トレーニングに取り入れてみてください.