こんにちは,博士前期課程1年ハンマー投専門の保坂雄志郎が担当させていただきます. 今年も残すところあとわずかとなりました.皆さんは今年1年どんな年だったでしょうか?トラックシーズンも終わり,皆さん来年に向けての計画を立てていらっしゃると思います.冬期トレーニングの内容は,今年の課題や来年の目標設定を基に考えている方は多いと思います.そもそも課題や目標は最高成績を出す時期を長期的に見据えた上で設定する必要があります. そこで,今回はハンマー投を例とし,年齢という1つのキーワードに着目し,最高記録を出すための長期的な視点についてお話させていただきます.
まず,生理学的な視点で見ていくことにしましょう.トレーニングには至適年齢(金子,1989)というものがあります.至適年齢には開始年齢(トレーニング効果を最大限に得ることができる年齢)と最適年齢(トレーニング効果が最も高く現れる年齢)があります.よく男性の体力のピークは30歳前後といわれますが,これは筋の発育・発達が大きく関係しているといわれています.男性の場合,筋肥大を促進する上で重要なテストステロンの分泌が20~30歳に向けて高まる(ヘティンガー,1972)ことなどから,筋力トレーニングの最適年齢も30歳前後と考えられています(金子,1989).また,マトグェイエフ(1985)が「スポーツでは,最高記録を出す時期は年齢的前提条件に依存する」と述べていることからも,トレーニングの至適年齢について注目する必要があります.
皆さんそれぞれの競技は違えども,スポーツ選手には「脂が乗る時期」というものがあると思います.私の専門種目であるハンマー投の選手の場合,それはいつの時期になるのかを見ていきましょう.表1は日本のハンマー投選手で70mを超えた選手6人が,何歳で自己記録(2014年12月現在まで)を投げたのかを示した表です.これを見ても,30歳前後で自己記録に到達していることが分かります.世界の選手を見てみると,2012年のロンドンオリンピックにおける入賞者の平均年齢は32.5歳.翌年の2013年モスクワ世界選手権の入賞者を見ても31.9歳でした.入賞している選手が重なっているという事もありますが,ハンマー投は30歳を超えた選手が世界の第一線で活躍することができる競技と言えるでしょう.アテネオリンピックで金メダルを獲得した室伏広治選手の父親である室伏重信氏は,なんと39歳でご自身の持つ日本記録を更新しています.ちなみに広治選手も2011年テグ世界選手権において世界大会における最年長優勝(36歳と325日)を果たしております.ハンマー投で使用するハンマーの重さは7.26kgであり,これはボーリング競技の最重量球である16ポンドと同じ重さにあたります.そのため,強い筋力が必要であると思われる方も少なくないと思います.しかし,重信氏のように筋力のピークが過ぎた30歳台後半に記録を伸ばしているというこの事実から,ハンマー投はただ力任せで投げればよいのではなく,競技経験を重ね,熟練した技術を作り上げていくことが必要であることが窺えます.このことから,ハンマー投という競技は大成するまでに非常に時間がかかる種目であると言えるでしょう.
さて,今回は選手の年齢というキーワードに着目してお話をさせていただきました,生理学的な発達条件や競技の専門性を考慮した上で長期的な目標設定をしていくことが非常に重要になることがお分かりいただけたと思います.ハンマー投に限らず,競技を継続できる環境を見つけることが難しいのが事実でありますが,まずは選手として夢をもって長期的な計画を立ててみることが大切ではないでしょうか.