身長が伸びると足が速くなる?

MC1 水島 淳

RIKUPEDIAをご覧の皆様,こんにちは,MC1水島淳です。前回の裸足ランニングについて紹介後,実際に運動会で裸足になって走られていた方々から多くの共感をいただき,嬉しい次第であります。今回は「身長の伸びと疾走能力発達の関係」について紹介します。

人は2歳前後から走ることが可能になり(八木ら,1982),6〜7歳には成人と同様の走動作が獲得されるといわれています(宮丸,2001;辻野,1972)。
 加藤(2004)は,疾走能力の発達を広くとらえるために,疾走速度,ピッチ,ストライドおよびその身長比についてそれぞれ先行研究(宮丸・加藤,1996;Katoh,2001;斉藤ほか,1981;加藤ほか,1985;加藤ほか,1992;加藤ほか,1994,加藤ほか,1987;加藤ほか,1999;伊藤ほか,1994;佐川ほか,1997)をもとにひとつの図にまとめ(図1参照),以下のように述べています(加藤,2004)注1)

【疾走速度】

  • 男子は加齢に伴って17歳まで増大し,その後停滞傾向を示す。
  • 女子は13歳以降停滞する。
  • 【ストライド】

  • 男女とも疾走速度とほぼ同様の変化を示し,男子では14〜15歳,女子では13〜14歳をピークとしてその後,男女ともに停滞傾向を示す。
  • ストライドは,男女ともに6〜7歳で身長を越え,その後は顕著な変化はみられない。
  • 【ピッチ】

  • 男子では2〜14歳まで加齢に伴う明確な変化はみられないが,15〜17歳にかけて増大した。
  • 女子は2歳から成人まで明確な変化はみられない。
  • これらの結果から,1歳半〜12歳までの疾走速度の増大は,男女ともにピッチよりも,ストライドの増大によるものであると考察しました(加藤,2004)。しかし,男子の15歳〜17歳における疾走速度の増大は,ストライドよりもピッチによるものであるとし,思春期における疾走能力の発達に明確な男女差を見出しています(加藤,2004)。

    次に,年間身長増加量がピークに達する年齢について見てみましょう。

    図2より,身長が一番伸びる時期は,女子は12歳頃,男子は14歳頃であり,身長の増加が見られなくなるのが,女子は14歳頃,男子は16歳頃からであるということが読み取れます。

    上述した【疾走速度】および【ストライド】の考察より,身長を含めたそれぞれの停滞の時期を比較してみてください。被験者が異なるため,一概には言えませんが疾走速度,ストライドの停滞と,身長の停滞のタイミングには関係がありそうです。このことより,疾走能力の発達について考える際に大切な要素として,個人における形態的な発達が挙げられるでしょう注2)

    これらの研究に基づくと,指導現場への示唆として,①急激に身長が伸びる前段階で,ピッチを高めておき,身長の伸びと共にストライドを高める。②身長が急激に伸びることでピッチが低くならないよう維持する。というアプローチが考えられます。

    ②に関して,身長の著しい伸びにより,児童の巧みさが低下してしまうこともあります。この時期には無理に新しいことをどんどん習得させるというよりも,今までできていたことの精度を保つことを心がけるといいかもしれません。

    注1)疾走速度とピッチ・ストライドの関係については,コラム第14回をご参照下さい。
    注2)年間身長増加量がピークに達する年齢(PHV年齢)は,早い児童で12歳,遅い児童では16歳と約4年もの開きがあり,ピーク値も8cm〜14cmと差があります。個人の成長曲線を記録して, PHV年齢を正確に把握することをおすすめします。

    図1.加齢に伴う疾走速度,ピッチ,ストライドおよびその身長比の変化とスプリンターの値
    (宮丸ら,2001をもとに作成)


    図2.年間身長増加量(Peak Height Velocity)(横山ら,2012をもとに作成)
    参考文献:
    伊藤章・斉藤昌久・佐川和則・加藤謙一・森田正利・小木曽一之(1994)世界一流スプリンターの技術分析.佐々木秀幸・小林寛道・阿江通良監,世界一流陸上競技者の技術.ベースボールマガジン社:東京,pp.31-49.
    加藤謙一(2004)走能力の発育発達.金子公有・福永哲夫編,バイオメカニクス-身体運動の科学的基礎-.杏林書院:東京,pp.179-180.
    加藤謙一・関岡康雄・川本和久(1985)中学生の疾走能力の発達に関する縦断的研究.体育の科学,35:858-862.
    加藤謙一・宮丸凱史・宮下憲・阿江通良・中村和彦・麻場一徳(1987)一般学生の疾走能力の発達に関する研究.大学体育研究,9:59-70.
    加藤謙一・山中任広・宮丸凱史・阿江通良(1992)男子高校生の疾走能力および最大酸素パワーの発達.体育学研究,39:291-304.
    加藤謙一・宮丸凱史・阿江通良(1994)女子高校生の疾走能力および最大無酸素パワーの発達.体育学研究,39:13-27.
    加藤謙一・宮丸凱史・松元剛・秋間広(1999)ジュニアスプリンターの疾走能力の発達に関する縦断的研究.体育学研究,44:360-371.
    宮丸凱史・加藤謙一(1996)走運動の始まりに関する運動形態学的考察.体育科学,24:89-96.
    宮丸凱史編(2001)疾走能力の発達.杏林書院:東京,pp.3
    斉藤昌久・宮丸凱史・湯浅景元・三宅一郎・浅川正一(1981)2—11歳児の走運動における脚の動作様式.体育の科学,31:357-361.
    佐川和則・伊藤章・伊藤道郎・斉藤昌久・加藤謙一(1997)アジア男子トップスプリンターの中間疾走フォーム.佐々木秀幸・小林寛道・阿江通良監,アジア一流陸上競技者の技術.創文企画:東京,pp.33-48.
    辻野昭他(1972)幼児期における走跳投動作の特性. 日本体育学会第24回大会号, p418.
    横山徹爾・加藤則子・瀧本秀美・多田裕・増谷進・田中敏章・板橋家頭夫・田中政信・松田義雄・山縣然太朗(2012)乳幼児身体発育評価マニュアル.厚生労働科学研究費補助金 成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業,「乳幼児身体発育調査の統計学的解析とその手法及び利活用に関する研究」,pp.67
    八木規夫,水谷四郎,脇田裕久,長井健二(1982)「児童の走運動能力に関する研究」第一報 低学年児童について.三重大学教育学部研究紀要.自然科学, 33:133-142.
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