Rikupediaをご覧の皆さま,こんにちは.MC2の関です.
前回(第24回)のコラムでは中長距離走の疾走動作を考える上での前提条件について紹介しました.今回はこれまでに行われてきた中長距離走の疾走動作に関する研究の中から,2つの研究を中心に効率の良い疾走動作を紹介したいと思います.
まず,始めに紹介したいのは,Williams and Cavanagh(1987)の研究です.Williams and Cavanagh(1987)は31名の長距離ランナーを対象にRunning Economy(第4回参照)の測定と疾走動作の分析を行い,Running Economyの高い者に共通する動作を明らかにしました.その結果, Running Economyが高い者は,接地時に下腿がより後傾し,体幹はより前傾し,離地時の足関節の底屈が小さく,支持期中に膝関節がより屈曲し,手首の軌跡が短く,そして,重心の上下動が小さいことが明らかになりました(Williams and Cavanagh,1987).また,Williams and Cavanagh(1987)はセグメント間での力学的エネルギーの伝達量が大きいことも報告しています.
次に,前回も紹介した榎本ほか(1999)の研究を紹介します.榎本ほか(1999)はEIを用いて効率的な疾走動作を明らかにすることを試みました(方法については第24回参照).その結果,EIの高い者は身体部分間での力学的エネルギーの伝達量が多く,中でも両脚間の力学的エネルギーの伝達がEIに大きく影響していることを明らかにしました(榎本ほか,1999).そして,EIが高い者の特徴から,EIを高めるためには,支持脚が大きく屈曲しないこと,回復脚のリカバリーを早めて左右の大腿を前後ではさみ込むような動作を強調して疾走することが役立つことを示唆しています(榎本ほか,1999).この左右の大腿を前後ではさみ込むような動作はシザース動作と言われ,中長距離走のみならず,短距離走においても有効な動作であるとされており,この動作は両脚間のエネルギーの流れを促進するとも言われています(阿江,2001;阿江,2002).疾走中の力学的エネルギーは接地期後半から回復期前半においては体幹から足に,回復期後半では足から体幹に向かって伝達され,右脚のエネルギーが増加するときは左脚のエネルギーが減少し,左脚のエネルギーが増加するときは右脚のエネルギーが減少するというように,左右の脚の間でエネルギーを伝達し合っていることがわかっています(窪,2013).このエネルギー伝達を大きくするためには,下肢が垂直位に近い状態で角速度を生じさせることが有効であり,それは両脚をはさみ込むような動作であるシザース動作のようなイメージであると言われています(窪,2013).このように,シザース動作はEIとの間の相関関係に加えて,窪(2013)の報告からも効率の良い動作であることがわかります.
これらの研究の他にも,効率の良い疾走動作を明らかにしようとする試みがなされ,効率が良いとされる動作が示唆されてきました.前回(第24回)のコラムでも紹介したように,中長距離走の動作を検討する際にはいくつかの問題点も見受けられます.また,中長距離走では最大酸素摂取量と乳酸性作業域値(LT),そしてRunning Economyの3つでパフォーマンスの約70%が説明できるという報告(Midgley et al., 2007)もあるように,疾走動作以外の要因の影響が大きいため,疾走動作を改善することがパフォーマンス向上のための最短ルートでないこともあります.しかしながら,このような研究成果を参考に自身の疾走フォームを見直してみることは自身のパフォーマンスを考える上で重要なことではないでしょうか.