前回は走高跳スパイクシューズの傾斜について紹介しました.「高跳び選手でも知らないやついるだろ」や「マニアックな内容でいいね」など反響があり,執筆者として嬉しく思います.という訳で,今回も「なぜそんな細かいところに注目する?」と言われそうなマニアックな内容を紹介します.
図1は,ランニング接地時における足を後方から撮影したものです.着地後(3〜4),踵がやや内側に倒れながら変形しているのが見て取れます.この動作は足の回内(プロネーション)と呼ばれ,着地の衝撃を緩衝しようとする足本来の機能です(西脇,2013).しかし,回内運動が行き過ぎると,足関節だけでなく,脛骨疲労性骨膜炎(シンスプリント症候群)や膝蓋大腿関節症など下腿や膝関節の障害発症の危険性も高まると指摘されています(Stergiou,1996).
Gheluweら(1999)およびStacoffら(2000)は,足部回内の低減を目的とし,装具(サポーター)やシューズに工夫を施し,ランニング接地時における足部変形を調査しました.Gheluweらは,「(ⅰ)ヒールカウンター(図2参照)を狭めること,(ⅱ)特注の装具(図2参照)を搭載すること,による踵周辺の余分なスペースの排除」に着目しました.ヒール幅の広いシューズを2足(A,B)と,それよりも幅が5mm狭いシューズ2足(C,D)を準備し,BとDに装具を搭載しました.これらのシューズを着用した被験者をトレッドミル(ランニングマシーン)上で走らせ,その動作を後方から撮影し,踵骨の傾きとヒールカウンターの傾きを算出しました.
その結果,(ⅰ)ヒールカウンターの狭いシューズが広いシューズよりも踵骨の傾きが1.1°少なく,また(ⅱ)ヒール幅が広いシューズでは装具の搭載により1.5°抑えられたことが明らかになりました.一方,狭いシューズでは装具の効果は得られませんでした.
Gheluweらは,ヒールカウンターの硬度に関する研究(Gheluweら, 1995)と兼ねて,「硬質なヒールカウンターを搭載したランニングシューズが後足部制御の改善を提供し,密接な踵フィットでのみ障害のリスクを軽減する」と結論づけています.
Stacoffら(2000)も装具に工夫を施し,足部変形を測定しました.Gheluweらは得られた値を平均しましたが,Stacoffらは個人差にも着目しました.その結果,装具着用による効果(1-4°)よりも個人差(10°)の方が大きく,足部回内の変形量,また装具の効果は個人差によるところが大きいという結論に至りました.
以上をまとめると,
・ ヒールカウンターが踵にフィットするシューズを履くと足部回内を軽減できる
・ 硬質なヒールカウンターは後足部の安定性を向上させる
= 間違ってもヒールカウンターを踏むような履き方をしてはならない
・ 装具は足部回内を減少させるが,効果には個人差がある
となります.シューズは私たちの足を守るために様々な工夫が施されています.シューズを選ぶ際,色や軽量性を優先されることが多いと思いますが,今後,踵のフィット性や安定性に着目してみてはいかがでしょうか.