円盤投動作の研究は,ターンの開始から投げまでの動作を,足の接地及び離地の6回のの瞬間によって5つの局面に分けて分析や考察が行われています(図1).そして,先行研究では最終的な投げの局面である投げ局面がパフォーマンスに大きな影響を与えていることを報告しています.この投げ局面の円盤の速度は,リリース速度の62% (Schluter and Nixdorf,1984)~73%(Schollhorn,1989)の貢献があるとされており,パフォーマンスの高い選手ほどより高い速度を示すとされています.円盤が投げ出される瞬間の速度であるリリース速度は,さまざまな重回帰分析の結果から,パフォーマンスに最も大きな影響を与える要因として報告されている(Hay,1985,Hay and Yu,1995)ことからも,大きな円盤の加速が行われるこの投げ局面の重要性が伺えます.
では,円盤投において重要だと考えられている投げ局面について,どのような動作が良いとされているかを過去の研究を基に紹介していきたいと思います.
まず,Susanka et al.(1988)は円盤の加速軌道を増加させるために,素早く第二両足支持局面を作り,円盤を肩の後方へ残し,左足が接地する前に重心を右足上に置くことを推奨しました.加えて,Lindsay(1991)とKinicker(1990)はリリース時,腰の回転を十分に利用するために,肩よりも腰を先行させることを推奨しました.日本国内においても,投げ局面を作る右・左の足の接地を素早く行うという指導が一般的に行われています.これは,足の接地を素早く行うことで,腰が肩を追い越すことを目的として行われている指導であると考えられます.
次に,Susanka et al.(1988)は投げ局面中の動作の安定のために足の配置を幅広く,よりスタンスを開くことが重要であるとし,リリース時の足の配置が狭く,投てき方向に対して閉じていると体幹筋群の最適な予備緊張が妨げられることが明らかにされています.個人によって適した幅や位置があるとは思いますが,より円盤に力を加えられ足の配置を見つけるということは,パフォーマンスの向上に重要なことなのかもしれません.
そして,Gregor et al.(1985)は投げ局面の男女の動作の違いを報告しました.それは,男性競技者はより大きな垂直方向の力を発揮するために足が地面を離れるリバース投を用いるが,多くの女性競技者は左脚のブロック動作が早すぎることにより腰が止まるノンリバース投げになるという違いです.この動作の違いにより,リリース高に差が生じるとされています.このように他にも多くの先行研究において男女の動作の違いが報告されています.
これらのことが男女両方に当てはまるとは限りませんが,腰の先行を生むために左右の足の接地を素早く行う,安定した投げ動作を行うために適した足のスタンスや配置を探るといった指導は,国内の指導現場でも以前から取り入れられています.
今回は,投げ局面の技術について紹介させていただきました.「大きく速く下肢を動かす」というような一見矛盾した見解にも感じられますが,投げ動作を安定して行うには広いスタンスが重要であり,より高いパフォーマンスのためには素早い動作が重要です.どちらを優先してトレーニングを行うかはタイプによって個人で異なりますが,上手く釣り合いがとれて,自分に合うスタイルを見つけていくことが重要であると思います.
国内で一般的に行われている指導は経験的に代々受け継がれてきたものも多いと思います.このような経験に基づく指導がパフォーマンスに与える影響について,研究によって裏付けされていくということは,より効果的な練習や指導に繋がっていくのだと思います.日本国内における円盤投の競技力向上のために,円盤投の研究成果を少しでも国内の指導現場に取り入れていくことが重要であると思います.