今回のテーマは「ターンが速ければ円盤の投てき距離は伸びる?」です.円盤投をやったことがある方,あるいは指導したことがある方なら,“ターンを速くすれば,もっと遠くに投げられるのではないか”と一度は考えたことがあると思います.
そこで今回は,円盤投の動作時間と投てき距離の関係についての研究を紹介しつつ,「ターンが速ければ円盤の投てき距離は伸びる?」ということについて考えていきます.
本題に入る前に,円盤投動作の局面分けについて説明します. Dapena(1993)は円盤投の動作を5つの局面(第一両脚支持局面,第一片脚支持局面,空中局面,第二片脚支持局面,第二両脚支持局面(投げ局面))に分けることができると報告しています(図参照).実際の動作では,第一両脚支持局面の前に準備動作,投げ局面の後にリカバリー動作(リバースなど)を行いますが,今回はDapena(1993)の定義する局面分けを用いて説明していきます.
田内ほか(2007)は,投てき動作全体の動作時間が短い競技者ほど投てき距離が大きかったと報告しています(対象:69名,記録の範囲:28.06m-63.79m).また動作時間の平均は1.61秒であり,各局面の動作時間は第一両脚支持局面でトータル時間の68.8%(1.11±0.22秒),空中局面が5.8%(0.09±0.03秒),第二片脚支持局面および投げ局面が25.3%(0.41±0.05秒)であったとしています(田内ほか,2007).加えて,局面ごとの動作時間と投てき距離の関係については,第一両脚支持局面,第二片脚支持局面,投げ局面の動作時間が短い競技者ほど投てき距離が大きかったと述べています.
これらの結果は『投てき距離の大きな競技者は,投てき動作全体の時間が短く,さらに言えば第一両脚支持局面,第二片脚支持局面,そして投げ局面の動作時間が短い』と言い換えることができます.
ということは...『円盤を遠くに投げるには,投げの時間を短くすればいいのか!』と考えてしまいそうですね.しかし,ここで気をつけなければならないことがあります.“動作時間が短い=動作が速い”というわけではないということです.同じ速度でターンを行っても,動きが小さくなれば動作時間は短くなり,動きの大きさが同じであっても,速度が上がれば動作時間は短くなります.『投げの時間を短く…』となると,速く動こうとすることを意識しすぎて,動きが小さくなってしまう可能性があります.そのため,『動きを小さくせずに,速い動作を』ということを常に念頭に置く必要があると考えられます.
ここでの“動きが大きい・小さい”とは,具体的には回転半径の大小を表し,“動きが速い・動きが遅い”とは角速度(回転の速さ)の大小を表していると言えます.
Dapena(1993)や宮西ほか(1998)は,バイオメカニクス的な観点から,パフォーマンス(≒リリース時の初速)に大きな影響を与えるのは,角運動量であると報告しています.
角運動量は以下の式で表すことができます.
また慣性モーメントは以下の式で表すことができます.
円盤投に当てはめると,
I:回転のしにくさ,ω:回転の速さ,m:円盤+投てき者の質量,
r:円盤+投てき者系の回転半径
となります.
これら関係から,円盤投のパフォーマンスには角速度,回転半径も大きな影響を与えることがわかります.
少し話が難しくなりましたが,ここまでの内容をまとめると以下のようなことが言えます.
すなわち,投てき距離が大きい競技者は,大きい動作を速く行った結果,動作時間が短くなっていると考えられます.体格的に不利とされている日本人円盤投競技者が,国際大会で活躍するためには,身体の大きな海外の選手よりも速い動作を行い,且つ自分の身体を最大限に大きく動かす必要があると言えます.しかし,上記の式を考慮した上で,角運動量の獲得に着目してみると,角運動量には回転半径の2乗の値が関わってくるため,速い動作を行うよりは大きい動作を行うことを優先してトレーニングに取り組むことが,パフォーマンスの向上によりつながると考えられます.この角運動量の獲得,転移,伝達といった内容に関して,次回以降のコラムで考えていきたいと思います.