効果的なクーリングダウンについて考える

MC2 大久保玲美


I.はじめに

 RIKUPEDIAをご覧の皆様,MC2の大久保玲美です.今回のコラムでは「クーリングダウン」をテーマにご紹介させていただきます.よろしくお願いします.
 トレーニングの後にクーリングダウンを行うことは一般的であり,皆さんもトレーニング後は軽いジョギングや体操,ストレッチなどを行っていると思います.競技特性に関わらず,クーリングダウンを行う共通の目的としては疲労回復,外傷・障害予防などが挙げられます.試合はもちろんのこと,日々のトレーニングにおいても,疲労をできるだけ早く回復しケガのリスクを軽減するうえで,運動後に行うクーリングダウンは重要です.その一方で,クーリングダウンは,主運動の質的・量的な問題や,試合結果に左右されて行われたり行われなかったりするケースが多く(池田,2007),ウォーミングアップほど重要視されていない場合があります.また,どのような場面でも単一のパターンのクーリングダウンの方法をとっている場合も多いのではないでしょうか.
そこで,今回はクーリングダウンの種類やその効果,場面に応じてクーリングダウンを使い分ける上での留意点についてご紹介します.


II.クーリングダウンの効果

 池田(2007)は,クーリングダウンの効果を以下の4つにまとめています.
  1.疲労物質除去の促進
  2.筋肉の柔軟性,関節の可動域を取り戻す
  3.めまい,吐き気,失神を防止する
  4.精神的に落ち着くことができる
 クーリングダウンは酷使した部位の疲労回復だけではなく,自律神経系への働きかけによって,全身のリラクセーションや精神的な面にも効果があると述べています.クーリングダウンの方法によって特に優れる効果もそれぞれ異なるので,各方法の効果についてご紹介していきます.


 

III.クーリングダウンの種類

1.アクティブリカバリー
 積極的回復ともいわれ,一般的にジョギングなどの有酸素運動から成ります.血流を促進し,乳酸や他の代謝副産物を除去するため,運動後の疲労回復に効果的といわれます(Halson,2015).
 普段何気なくクーリングダウンとしてジョギングを行っている人も多いと思いますが,その運動強度について考えたことがある人は少ないのではないでしょうか?アクティブリカバリーの最適な運動強度は,運動後の血中乳酸の除去を目的とする場合には,乳酸性作業閾値(lactate threshold:LT)もしくはそれよりもやや低い強度が効果的とされています.Menzies et al.(2010)は最大酸素摂取量の90%で5分間のランニングを行った後に,強度を変えてアクティブリカバリーを実施しました.その結果,アクティブリカバリーの強度は低い強度(LTの0~40%相当)よりも高い強度(LTの60~100%相当)の方がその後の血中乳酸値が低かったと報告しています.岩原ら(2003)も,40秒間の全力でペダリングを行った後,アクティブリカバリーの強度はLTの80~100%の強度で行なった場合が血中乳酸を除去する効果が高かったと報告しています.
 このように,高強度運動を行った後では,血中乳酸を除去することに関して,LTもしくはそれよりもやや低い強度が効果的であることが示唆されています.下の表は運動時の主観的な負担度を数字で表したBorg Scaleですが,13がLTレベルと考えられています(岩本,2007).LTもしくはそれよりもやや低い強度は,主観的には下の表の11「楽である」~13「ややきつい」と感じる強度です.このことから,全力やそれに近いような高強度でのトレーニングを行った後のアクティブリカバリーは,かなり楽だと感じる強度で行うよりも、「これ以上だと少しきつく感じるかな」という強度で行った方が良いと言えそうです.

表1 自覚的運動強度の指標(小野寺,1976をもとに筆者作成)



 ただし,岩原ら(2003)は,クーリングダウンの強度は血中乳酸濃度の回復には影響したものの,パフォーマンスの回復には影響しなかったと報告しており,血中乳酸濃度の回復=パフォーマンスの回復ではない,ということに注意が必要です.

2.水の利用によるリカバリー(水治療法)
 水を利用した方法として広く行われているのは,冷水浴,温水浴,温冷交代浴(熱いお湯と冷たい水に交互に入る方法)などがあります.今回は,冷水浴と温冷交代浴についてご紹介します.
 冷水浴には,浮腫を抑制する効果や,鎮痛効果,炎症を抑える効果があります(Bieuzen,2014).冷水浴がパフォーマンス回復に与える効果について検討した研究(Lane et al.2004)では,その日の運動が終了した後に冷水浴を行うと,翌日もパフォーマンスを維持することができたという報告があります.一方で,1日に運動を反復して行う場合,運動間の休息時に冷水浴を用いることには注意が必要です.Crowe et al.(2007)は,30秒間の全力ペダリングを1時間の間隔を空けて2回行い,運動間のリカバリーとして冷水浴を行った場合と安静にした場合を比較しました.その結果,冷水浴の方が安静よりも2回目のパフォーマンスが下がるという結果になりました.これは,冷水浴をすることで体温が下がり,それによって神経伝達の低下が生じたり,副交感神経が活性されて身体がリラックスした状態になってしまうことが原因と考えられています.このことから,運動間の休憩時間が短い場合に冷水浴を行うと,体が動きづらくなってしまいパフォーマンスが低下すると言えます.冷水浴を行った後,運動を再開するときには再度ウォーミングアップが必要となるでしょう.陸上競技おいては,1日に予選,準決,決勝と複数のレースを行う場合がありますが,冷水浴を行うのであれば,次のレースまでの時間やウォーミングアップが必須であることを考慮する必要があります.
 に,温冷交代浴についてです.温冷交代浴は血流を刺激し,運動で使用した筋の修復や代謝産物を流す効果があります(Bieuzen,2014).Versey et al.(2012)は温冷交代浴の実施時間による効果の違いを検討しました.対象は日常的にトレーニングを行うランナ―で,3000mタイムトライアルと800m×4インターバルを行った後に,温冷交代浴を異なる時間(6分間,12分間,18分間)で実施し,2時間の間隔を開けて3000mのタイムトライアルを行った実験を行いました.その結果,6分間の温冷交代浴では2回目の3000mタイムトライアルのパフォーマンスが増加したものの,12分や18分の条件ではパフォーマンスの改善はみられなかったと報告しています.つまり,温冷交代浴の時間が長ければ長いほど,その効果が大きいというわけではないようです.

  3.マッサージ
 マッサージは主に疲労軽減のために,アスリートの間で広く取り入れられています.マッサージには血液の循環の改善,筋骨格系機能の向上および痛みの軽減,リラクゼーションなどの効果があるとされています(Couturier,2014).
 マッサージを受けることで「すっきりした」「痛みが軽くなった」と感じた経験がある人は多いのではないでしょうか.マッサージは気分的な健康感と精神的感情に影響を与え,痛みを軽減する一助となります(Couturier,2014).一方で,マッサージによる血流や関節可動域への効果は明らかにされておらず,また,反復的な運動パフォーマンスに対する効果もほとんど示されていません.
 このように,マッサージはアスリートに対して心理的効果はあるようですが,生理学的な効果やパフォーマンスへの効果は示されていないため,他のリカバリー方法と組み合わせて行った方が良いと考えられます.

  4.ストレッチング
 ストレッチングには筋の緊張緩和,関節可動域増大,末梢循環の促進による疲労物質の除去などの生理学的効果があります(小柳,2007).容易に実施できることから,マッサージと同様に広く行われている方法です.
 特に遅発性筋痛(いわゆる筋肉痛)に対するストレッチングの効果について様々な報告がされています.Jarmtvedt et al(2010)はストレッチングにより遅発性筋痛を軽減できると示唆していますが,Herbert et al(2011)ではその軽減効果はわずかであると結論づけられています.また,Barnett(2006)のレビュー論文では,リカバリーの方法としてストレッチングの効果はないと結論づけられています.
 このように,ストレッチングの効果には否定的な報告が多いものの,ストレッチングによるケガの予防効果については,Mchgh et al.(2010)は,肉離れの予防にはストレッチングが有効だという報告があります.ストレッチングが直接的に障害予防に関連するというよりも,障害の発生要因である関節可動域の低下を改善するためにストレッチングを行うとよいと考えられます.


 

IV.まとめ

 このようにクーリングダウンには様々な方法があり,それぞれ効果も異なることがわかります.競技や場面に応じて効果的にクーリングダウンの方法を使い分けるための注意点を最後にまとめます.

  1.アクティブリカバリーに関しては,全力やそれに近いような高強度の運動後に,血中乳酸を除去することが目的とするならば,80%~100%のLT強度(主観的に楽であると感じることのできる範囲内で最大負荷強度)が望ましい

2.冷水浴は,1日の運動終了後に行うと翌日のパフォーマンス低下抑制に効果的である.ただし,1日に運動を反復する場合に,休息時に冷水浴を行うとパフォーマンスが下がる可能性がある

3. 温冷交代浴は,やればやるほど効果的というわけではない.6分間の温冷交代浴(1分間交代)で運動再開後のパフォーマンスの増加が認められている

4.マッサージやストレッチングは,他の方法と組み合わせて行うのが望ましい

このコラムが,皆さんがクーリングダウンについて再考するきっかけとなれば幸いです.


参考文献
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Crowe, M., D. O’Connor, D. & Rudd, D. (2007) Cold water recovery reduces anaerobic performance. International Journal of Sports Medicine, 28(12):994-998.
ハルソン・アーガス:禰屋光男訳(2015)持久性トレーニングおよび持久性競技のためのリカバリー.エンデュランストレーニングの科学 持久力向上のための理論と実践.ナップ:東京,pp.57-66
Herbert,R.,de Noronha,M.& Kamper,S.(2011)Stretching to prevent or reduce muscle soreness after exercise. Cochrane Database Syst Rev. 7
池田誠剛(2007)ウォーミングアップとクーリングダウンの方法と実際.公益財団法人スポツ協会,公認アスレティックトレーナー専門科目テキスト第6巻アスレティックリハビリテーション.公益財団法人日本スポーツ協会,pp.273-279.
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Jamtvedt,G.,Herbert,R.,Flottorp,S.,Odgaard-Jensen,J.,Havelsrud,K.,Barratt,A.,Mathieu,E.,Burls,A.& Oxman,D.(2009)A pragmatic randomised trial of stretching before and after physical activity to prevent injury and soreness. British Journal of Sports Medicine. 44(14)1002‒1009.
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小柳好生・和久貴洋(2007)傷害予防を目的としたコンディショニングの方法と実際.
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2020年7月29日掲載

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