力の立ち上がり速度のトレーニング

DC2 図子浩太佑



 RIKUPEDIAをご覧のみなさま,こんにちは.
 DC2年の図子です.今回は,「力の立ち上がり速度」について書きたいと思います.


陸上競技のパフォーマンスと力
 短距離や跳躍,投てきのいずれにおいてもパフォーマンスにとって高い速度を獲得することが重要になります.そして,力発揮能力を改善し,高い速度を獲得するための1手段として,レジスタンストレーニング(スクワットやクリーン、レッグプレス)やプライオメトリックスは実施されます.では,なぜ力発揮能力の向上にとって高い速度を獲得することができるのでしょうか?
 力と速度の関係は以下の式に示すことができます.

力 × 力を加えた時間 (∫ 力 Δ 時間) =質量 × 速度の変化

 この式での質量は,陸上競技における身体や投てき物の質量になります.この式から,一定の質量を持つ身体や投てき物の速度が増加するには,それらの物体を支える以上の力を一定時間発揮する必要があります.つまり,速度の増加は,力と力の持続時間で決まることがわかります.これを力−時間曲線の図で示すと,運動においてより大きく速度を増加させることができたほど灰色で示した領域の面積が大きくなります(図1).


力発揮能力を向上させるための筋力トレーニング
 運動中に大きな力を発揮するために,高速での筋力発揮(以下、動的筋力) と筋力の立ち上がり速度(Muscular rate of force development,以下、RFD)が重要な役割を果たしています.そして,これら能力の上限値として最大筋力が位置づくと考えられています(Zatsiorsky and Kraemer, 2006).つまり,最大筋力を基礎した上で,動的筋力とRFDのトレーニングを運動中の力発揮能力を向上させるための2本柱としています.また,陸上競技ではありませんが,筋力や運動中の力発揮能力(以下,専門的な力発揮能力)を向上させるためのトレーニング過程の基本概念を示した Alexandre et al., (2019)では,筋力トレーニングを実施していくための基礎を養成した後の筋力トレーニングに関して,まず最大筋力の向上,次にRFDの向上,最後にスポーツに特異的なパワー発揮能力の向上の順番で段階的に実施することを示しています.ここでは,最大筋力向上の効果が動的筋力やパワー発揮能力へ効果的に転移するようにRFD向上のステップを組み込んでいると考えられます.いずれの場合においても,RFDの向上は,最大筋力の適応が専門的な力発揮能力の向上対してプラスの影響を与えるようにするために必要であると考えられます.


 

筋力の立ち上がり速度のトレーニング
 では,どのようなトレーニングがRFDの向上に効果的なのでしょうか.Blazebich(2020)は、過去の介入実験を集めてメタ分析を行いレジスタンストレーニング時の運動速度がRFD向上に与える影響を検討しました.その結果,小さい重量(最大値の60%以下)による運動速度の高いトレーニング運動(以下,低重量,高速のトレーニング)を用いた場合,大きい重量と低い速度を用いたトレーニング(以下,高重量,低速のトレーニング)よりもRFDを向上させることが示されました.また,高重量,低速のトレーニングでも,爆発的な力発揮を意図した運動を行うことがRFDの改善に効果のある可能性があることが示唆されています.Zatsiorsky and Kraemer(2006)では,低重量,高速のトレーニングを用いることによって,力–速度関係(反比例的な関係) から大きなRFDを発揮することができるため,高重量,低速の運動をRFDのトレーニングの例に挙げています.また,大きな力を発揮することができる条件(エキセントリックな力発揮や伸張–短縮サイクル運動)を用いると,RFDだけではなく最大筋力が向上すること(Häkkinen et al., 1985; Oliveira et al., 2016),プライオメトリックスや競技の運動に近い条件設定によって,動的筋力や専門的な力発揮能力と合わせてRFDを向上させることができる可能性もあります.これらを踏まえると,RFDのトレーニングは,競技者の動的筋力や最大筋力,専門的な力発揮能力のレベルなどに応じて,主観的努力度100%かつできる限り短い時間で運動を遂行することできるトレーニング運動や重量を設定することが重要になります.特にアイソメトリックな力発揮以外を用いたトレーニング時には,特に動作時間に注目して「できるだけ短時間に」という運動課題が重要になります.なぜなら,主観的努力度は,力発揮時間や動作範囲などの要因が影響を受けるために,主観的努力度と実際に発揮されている力の大きさやRFDとの間にはズレが生じ(大築, 2017),主観的努力度100%であっても運動が高いRFDで実行されていない場合があるからです.逆に,運動時間を短くしようとすることで動作範囲が小さくなったり,動きが悪くなったりする場合があることにも注意が必要です.運動時間を短くしようとしたことに対する弊害は,コーチや動画でチェックする必要があるでしょう.


参考文献
Alexandre, D., Julien, P., Bertand, M., Mathieu, L. (2019) Integrating strength and power development in the long-term athletic development of young rugby union players: Methodological and practical applications. Strength Cond J, 41(4): 18-33.
Blazebich, A. J., Wilson, C. J., Alcaraz, P. E., Rubio-Arias, J. A. (2020) Effects of resistance training movement pattern and velocity on isometric muscular rate of force development: A systematic review with meta-analysis and meta-regression. Sport med, 50: 943-963.
Häkkinen, K., Komi, P. V., Alen, M. (1985) Effect of explosive type strength training on isometric force and relaxation-time, electromyographic and muscle fiber characteristic of leg extensor muscles. Acta Physiol Scand, 125: 587-600.
Oliveira, A. S., Corvino, R. B., Caputo, F., Aagaard, P., Denadai, B. S. (2016) Effects of fast-velocity eccentric resistance training on early and late rate of force development. Eur J Sports Sci, 16: 199-205.
大築立志 (2017) 筋出力の随意調節.大築立志ほか編,筋力発揮の脳・神経科学−その基礎から臨床まで−.市村出版:東京,pp. 17-33.
Zatiorsky, M. V., Kraemer, J. W. (2006) Goal-specific strength training, Power performance. In: Science and practice of strength training. (2nd ed.), Human Kinetics, USA, pp.156-160.
2020年6月29日掲載

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