幼児期の「な・げ・る」

MC2 小倉希望

RIKUPEDIAをご覧の皆様,こんにちは.MC2年の小倉です.現在,小学生を対象とした陸上教室に携わっています.指導していく中で,「投げる」動作を経験していない,してこなかったという声をよく耳にします.そこで今回は,子供の「投げる」に関して考えていきます.

なぜ,投げる能力が低下しているのか??

近年,子どもの投げる能力が低下しています.文部科学省(2010)の新体力テストのソフトボール投げのデータでは,平成22 年度の小学生の平均値が,男女共に親世代である昭和60 年度よりも低下していることが報告されています.しかし,男女の身長と体重は,親世代よりも増加しています(文部科学省2010).体格が良いとリリースポイントが高くなるなどの利点があり,投げに有利に働くと考えられますが,子どもの投能力は低下しています.子どもの投動作の発達についてWild(1938)や宮丸(1980)は,各年齢の子どもの動作を分類しています.両者は,成人が投げるように投げ手と反対側の足を踏み込み,体重移動や体のひねりを使って投げることができるのは,小学校低学年(6歳-7歳以降)であると報告しています.このことから,子どもの生活環境や経験が減少していることが,投能力が低下した原因の一つとして考えられます.

投能力の低下を防ぐには・・・

投能力の低下は,子どもの生活環境や遊びの形態が変化し,ボールを用いた外遊びから屋内遊びが中心となり,日常生活の中で投げることの経験が減少していることが原因の一つと考えられます.そのため,投げる機会が減少している中,子どもたちの投能力を向上させるために,学校体育でのより効率的な学習が求められています.中山ほか(2014)は,短時間での投運動の指導効果について,30 分程度の指導でも遠投力を向上させることができ,もともと遠投力の低い児童は顕著に向上したと報告しています.このことから,子どもは短時間の指導や練習であっても動きや能力の改善が期待でき,体育授業の短時間でも技能の低下を防ぐことができると考えられます.それでは,具体的にはどのように指導をする必要があるのでしょうか.桜井(1992)は,投能力は実質的に投射速度や投射角度で決まるものの,「足の踏み出し」や「体のひねり」がないとボールのスピードが半分に落ちてしまうことを指摘しています.これは,投能力の向上には「足の踏み出し」と「体のひねり」を習得させる必要があることを示しています.さらに,桜井(1992)はこれらの動作を習得させるために,紙鉄砲などの遊びの重要性について主張しています.また,尾縣ほか(2001)は,小学校低学年の子どもにオーバーハンドスロー能力を改善するための一つの方法として,横向き姿勢で足を上げ,足を振り下ろすという体重移動を意識した投げを行わせた結果,記録の向上が認められたことを報告しています.
以上のことから,紙鉄砲のような遊びも取り入れて,上半身中心の指導だけでなく,下半身の動きにも着目することで,より良い投動作が身に付いていくことが期待できます.「投げる」ことは,子供の運動機能を高めるためにも大切な遊びです.最初はうまく投げられなくても,適切な動きを教えることによって,徐々に真ん中に投げられるようになり,投げられる距離も伸びていくと考えられます.「投げる」運動を通して,そういった成長を実感できるのも嬉しいですね.

参考文献
文部科学省(2010)全国体力・運動能力・運動習慣等調査 集計結果(2015/2/28 取得)全国体力・運動能力,運動習慣等調査.(スポーツ・青少年局 体育参事官付事業係) http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/kodomo/zencyo/1266482.htm (参照日平成9月25日)
宮丸凱史(1980)投げの動作の発達.体育の科学,30(7):464-472.
中山正剛・三浦裕典・田原亮二(2014)児童の投運動における短時間指導の効果に関する研究-小学4年生を対象として-.別府大学短期大学部紀要,33:39-47.
尾縣 貢・高橋健夫・高本恵美(2001)オーバーハンドスロー能力改善のための学習プログラムの作成-小学校2・3年生を対象として-.体育学研究,46:281-294.
桜井伸二(1992)投げる動きを教える-格好良く投げるためには-.体育の科学,42(8):627-630.
Wild,M.R.(1938) The behavior pattern of throwing and some observations concerning its course of development in children.Research Quarterly,9:20-24.
2018年10月10日掲載

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