七種競技のパフォーマンス向上要因

DC1 村山凌一

「RIKUPEDIA」をご覧の皆様,はじめまして.今回コラムを担当いたします,今年度より筑波大学大学院博士後期課程に入学しました,村山凌一と申します.今後とも,どうぞよろしくお願いいたします.

さて,さっそく七種競技パフォーマンス向上について考えていきたいのですが,今回扱う七種競技は,オリンピック種目である女子七種競技についてであることをご理解いただけると幸いです.女子七種競技は1日目に100mH,走高跳,砲丸投,200mを行い,2日目に走幅跳,やり投,800mを行う競技です.昨今の日本七種競技のレベルは向上しており,2018年4月に行われた日本グランプリにおいても宇都宮絵莉選手が日本歴代3位の記録をマークしました.これにより,日本歴代1位から4位までの選手が現役で競技しているという非常に盛り上がっているのが現状です.しかしながら,これまで七種競技でオリンピックに出場した選手は,2004年アテネ五輪代表の中田有紀選手ただ一人です.まだまだ世界とは差のある種目ではありますが,男子の十種競技とは異なり,七種競技は高校生より取り組みが行われることから,長い時間をかけて競技力向上させることができます.今回は七種競技のパフォーマンスを向上させる取り組みや,要因についてまとめていきたいと思います.高校生から七種競技を始める皆さん、その指導に当たる方々の一助になれば幸いです.

七種競技のトレーニングを考える

七種競技のパフォーマンスを向上させるトレーニングの在り方について触れてみます。七種競技(混成競技)のトレーニング計画を立てる際には,図1のように段階を踏んでいくことが好ましいとされています(尾縣,1991).

混成競技に取り組むうえで,初めに取り組むべきは,すべての種目の技術トレーニングを重点的に行うことです.これにより,最低限必要な体力要素も獲得できるといわれています(尾縣,1991).さらに,その中で自分に適性のある種目を見つけ,次の段階で強化すべき種目を明確にする必要があります.最後の段階では,すべてが高いレベルに達することが望ましく,このように混成競技のトレーニングは計画を持ってして行うべきです.

しかしながら,7種目分のトレーニングを行わなければいけない事を考えると,時間的や身体的に厳しいのではないか,と思われる方々もいらっしゃるのではないでしょうか.トレーニング過多による障害発生やバーンアウト,トレーニング時間の確保は,大きな課題になるかと思われます.こういった問題を解決するためにも,混成競技のトレーニングは効率的に行う必要があり,できる限り少ないトレーニング種目で様々な効果を得ることが望ましいと考えられます.

効率の良いトレーニングとは?

マイネル(1981)は「すべての種目の中で,環界と対峙しているのが人間であるから,どんな特殊性や異種性の中でも一致や類似が存在していることは明らかである」と述べています.つまり,種目は違えども人間がこの世界で行っている運動には,一致や類似がある.という解釈ができるのではないでしょうか.実際に七種競技の種目である100mHと走幅跳の記録の間には有意な相関関係が認められています.(山田ら,1992).

この100mHと走幅跳の類似性に着目し,陸上競技の経験がない女子学生にハードルのトレーニングを行わせることで,走幅跳の動作改善が行われたという報告があります(山田ら,1994).コントロールテストと各種目の記録との相関関係を検討した研究では,バック投げと100mH(p<0.01),走幅跳(p<0.05)の両方で有意な相関関係が認められています(鈴木ら,1997).また,七種競技者の体格を,各専門の競技者と比較した際に,200mと走幅跳の競技者と類似した体格であったという報告もあります(鈴木ら,1997).

七種競技の体力に関する研究

七種競技の体力特性に関してさらに深く掘り下げてみましょう.七種競技において800mを除く6種目がパワー・スピード系になり,エネルギー供給機構で考えてもATP-CP系といわれる短い時間での力発揮を必要とする種目が5種目(200m,800m以外)と大半を占めている形になります(尾縣,1991).このことからもパワー・スピード系のトレーニングが重要になることは明らかです.前述したように,バック投げと競技種目の関係性は認められており,加えて下肢筋力と総合得点の間に有意な相関関係が認められています(高本ら,2005).さらに脚伸展パワーは記録上位群と下位群で比較した際に有意な差が認められており(p<0.05)(高畠ら,2005),総合得点と関連のある体力の検討をした際に垂直跳びとリバウンドドロップジャンプの数値が非常に重要であることが明らかになっています(高畠ら,2011).

このことから七種競技者は下肢の筋力強化をすることや,パワー発揮ができるようなトレーニングをしていくことが欠かせないものであると考えられます.

七種競技の体格に関する研究

先ほども述べたように七種競技競技者は200mや走幅跳の専門競技者と類似した体格であったという報告があります(鈴木ら,1997).体格に関してはトレーニングによって変えられる部分は多くはないですが,総合得点と体脂肪率との間には有意な負の相関関係(p<0.05)が認められていることから(鈴木ら,1997),体脂肪は多すぎないほうがいいということがわかります.もちろん少なすぎては健康問題が起きるので,適度が良いでしょう.1994年の日本ランキング40傑を対象にしたアンケートにおいては日本の七種競技者における平均身長は165.1㎝,体重は55.6kgであったことが報告されています(鈴木ら,1997).

このことから七種競技者は走って,跳べる体型を目指すべきであり,体脂肪は余分にあってはいけません.またタレント発掘や種目間トランスファーの際にも,このような体格の競技者に七種競技を勧めることもできますね.

まとめ

七種競技のトレーニングは,まんべんなく行う必要がありますが,共通した体力要素を目的としていくことで効率的なトレーニングになるでしょう.その一例として,ハードルトレーニングは走幅跳の動作改善や専門体力向上に役立つことが挙げられます.また、下肢筋力を向上させ、垂直跳を指標に体力を評価していくことや,形態や,体脂肪率を測定して評価していくことが重要であると考えられます.

しかしながら,村木ら(1983)は100mH,走高跳,やり投げは高度な技術性を要求される種目である.と述べており,これらの種目に対しては,技術的なアプローチをそれぞれの競技者に合わせて指導していくことが必要になってくると思います.現場での課題を見つけていくことも大切ですね.



参考文献
K.マイネル:金子明友訳(1981)スポーツ運動学.大修館書店.
村木柾人・加藤昭・室伏重信(1983)現代スポーツ実践講座2陸上競技(フィールド).ぎょうせい
尾縣貢(1991)混成競技の指導を考える.陸上競技紀要4:24-29
鈴木恵・繁田進・有吉正博・高丸功(1997)七種競技者の体力と体格に関する調査研究.陸上競技紀要10:19-24
高本恵美・尾縣貢(2005)国内一流女子七種競技者の形態的・体力的特徴に関する事例研究.大阪体育大学紀要,36:95-101.
高畠瑠衣・本道慎吾・持田尚・有吉正博・繁田進(2011)七種競技における競技成績と体力的要因との関係.陸上競技研究,86:26-33.
高畠瑠衣・繁田進・有吉正博・上野裕紀子・持田尚(2005)七種競技における体力と競技成績との関係.東京学芸大学紀要芸術・スポーツ科学系,57:187-191.
山田めぐみ・山西哲郎(1992)女子競技者における走幅跳と100mHに関する比較的研究.日本体育学会予稿集,43:778.
山田めぐみ・山西哲郎(1994)陸上競技における種目間の相乗的指導効果について-障害走と走幅跳の関係.群馬大学教育学部紀要芸術・技術・体育・生活科学編,第29巻:85-94.
2018年5月28日掲載

戻る