走速度が高ければ高いほど無酸素性運動なのか?

DC1 白木駿佑

RIKUPEDIAをご覧のみなさま,今回は,今年度からDCになりました白木が担当致します.今後もよろしくお願い申し上げます.
 さて,今回は筆者自身が修士論文の際に取り組んだ「短時間運動における運動強度とエネルギー供給比率との関係」について紹介したいと思います.前回のコラム(2016.7.4掲載)では,短距離走種目ごとのエネルギー供給比率について紹介しましたが,今回は運動強度に着目して説明していきたいと思います.なお,本コラムではエネルギー代謝を「有酸素性」,「無酸素性」という言葉で便宜的に分類しますが,その是非についてはここでは割愛させていただきます.

運動強度が高ければ高いほど無酸素性運動?
 運動強度ごとのエネルギー供給比率について書物では,強度が高ければ高いほど無酸素性エネルギー供給比が大きくなると考えられています(ホフマン,2011;宮丸・宮丸,1978;尾縣,2007).そのため,一般的には高強度の運動ほど無酸素性の運動になると考えられているようです.一方で,数少ない研究の中では,短時間運動では強度に限らずエネルギー供給比率はほぼ一定の値を示すことが報告されています(Ogita et al.,1999;白木,2017).これらの研究について詳しく紹介していきます.
 Ogita et al.(1999)は,異なる強度で泳運動させた時の運動開始から30秒間,60秒間の有酸素性および無酸素性エネルギー供給比は,強度間において有意差が認められなかったことを報告しています.また,白木(2017)は,30秒間の自転車運動を用いて運動強度ごとのエネルギー供給比率を検討しました.そして,ある強度を超えると異なる運動強度(酸素需要量)であっても,エネルギー供給比率はほぼ一定の値を示すことを報告しています(図1).またこのことは,低強度でも無酸素性エネルギーの貢献は大きく,高強度であっても有酸素性エネルギー供給がなされることを示唆しています.ただし,運動強度が高いほど必要な総エネルギー量は多くなるため,各エネルギー供給量は高まります.つまり,強度が高いほど,有酸素性エネルギー供給量も無酸素性エネルギー供給量も大きくなります.
 エネルギー供給比率が強度によらず一定の値を示すことに関して,荻田(2002)は,有酸素性および無酸素性エネルギー供給機構から規則正しくエネルギー供給が行われるためであると推察しています.運動強度に従い規則正しくエネルギー供給が行われる機序として,有酸素性代謝と無酸素性代謝の連関が考えられます.クレアチンリン酸の増減と酸素摂取量の応答は,規則正しく行われることが分かっています(Wipp et al.,1999).また,酸素摂取量の調節はミトコンドリアで行われており,ミトコンドリアは細胞内の代謝物(クレアチンリン酸,ADP,無機リン酸など)に応答していると考えられています(Korzeniewski and Zoladz.,2004).したがって,酸素摂取量の増加は ATP 再合成の総量および無酸素性代謝に応答しており,このことによりエネルギー供給は2 つの機構から規則正しく行われていると推察できます.これらのことから,泳運動や自転車運動のみならず短時間走運動においても同様に強度に対して規則的にエネルギー供給がなされ,エネルギー供給比率は強度によらず一定である可能性が考えられます.
 以上のことから,短時間運動においては必ずしも強度が高ければ高いほど無酸素性エネルギーの貢献が大きいとは限らず,強度が高いほど有酸素性エネルギー供給量も無酸素性エネルギー供給量もより多く動員されます.そして,高強度短時間運動であっても有酸素性エネルギー代謝は動員され,低〜中強度の運動であっても無酸素性エネルギー代謝の貢献は大きいといえます.

図1.各運動強度ごとの30秒自転車運動におけるエネルギー供給比率
無酸素性エネルギー供給比のみ有意差を注記(*:p<0.05,**:p<0.01)
(白木,2017)をもとに著者作成


エネルギー供給比率は運動時間に依存する
 短時間運動におけるエネルギー供給比率は,強度に依存しないことを紹介しました.では,エネルギー供給比率は何によって変化するのでしょうか.それは運動時間であると考えられます.運動時間とエネルギー供給比率との関係については,多くの研究が報告されており,運動時間の増加に応じて対数関数的に有酸素性エネルギー供給比が高まることがわかっています(Gastin,2001).図2は,様々な時間で疲労困憊に至った運動の有酸素性エネルギー供給比を示しています.このことから,運動時間の長い運動ほど有酸素性の運動になり,短ければそれだけ無酸素性の運動になるといえます.

図2.疲労困憊に至る運動時間と有酸素性エネルギー供給比との関係
Gastin(2001)をもとに著者作成


まとめ
 以上のことから,短時間運動におけるエネルギー供給比率は運動強度ではなく運動時間に依存することがわかりました.しかしながら,運動時間が長い運動はそれだけ運動強度が低く,持続可能な運動時間が長かったということに注意していただきたいと思います.つまり,同じ時間の運動の場合には,強度によらずエネルギー供給比率は一定を示すものの,疲労困憊まで運動を行う場合には,強度が低ければそれだけ持続可能な運動時間が長くなるため,有酸素性エネルギー供給比は高まることになります.一方で,短時間運動中の決まった時間においては低強度であっても無酸素性エネルギー代謝の貢献は大きく,高強度であっても有酸素性エネルギー供給がなされます.これらの知見を活かして各エネルギー代謝に着目した合目的的なトレーニングの立案に役立てていただければ幸いです.



参考論文:
Gastin,P.B.(2001)Energy system interaction and relative contribution during maximal exercise.Sports Med.,31:725-41.
ホフマン:福林徹監訳(2011)スポーツ生理学からみたスポーツトレーニング.大修館書店,pp.33-44.
Korzeniewski,B.and Zoladz,J.A.(2004)Factors determining the oxygen consumption rate (VO2) on-kinetics in skeletal muscles.Biochem.J.,379:703-710.
宮丸凱史・宮丸郁子(1978)短距離競走.金原勇編著,陸上競技のコーチング(Ⅰ).大修館書店,pp.171-298.
尾縣貢(2007)ぐんぐん強くなる陸上競技.ベースボール・マガジン社.
Ogita,F.,Onodera.T.,Tanaka,T.,and Tabata.I.(1999)The relative contribution of aerobic and anaerobic energy release in the first minute of supramaximal swimming.Adv.Exerc.Sports Physiol.,5:133.
白木駿佑(2017)短時間運動における運動強度とエネルギー供給比率との関係およびその決定要因(平成28年度修士論文).筑波大学修士(体育学)学位論文.
Whipp,B.J.,Rossiter,H.B.,Ward,S.A.,Avery,D.,Doyle,V.L.,Howe,F.A.,and Griffiths,J.R.(1999)Simultaneous determination of muscle 31P and O2 uptake kinetics during whole body NMR spectroscopy.J.Appl.Physiol.,86:742-747.

2017年6月12日掲載

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