女性アスリートの月経とコンディショニング

MC1 土江真央

RIKUPEDIAをご覧の皆さん,こんにちは.MC1の土江です.今回のコラムでは,女性アスリートの月経とコンディショニングについてまとめてみたいと思います.

1.月経とは
 月経とは,約1ヶ月の間隔で起こり,限られた日数で自然に止まる子宮内膜からの周期的出血のことを言います.子宮の内側の子宮内膜は,薄い状態だとうまく着床できないので,受精卵を迎えるために厚くなっていきます.受精卵が着床しなかった場合,排卵から約2週間後に厚くなった子宮内膜を子宮の外へ捨てて,次の排卵,着床へ向けて着床の準備が成されます.この厚くなった子宮内膜を子宮の外へ捨てる時に出血が伴います.
 月経の初日から,次回月経の前日までの日数を月経周期といい,この周期の変動が6日以内であるとき,月経周期は正常であると言えます.日本人の初経(初めての月経)平均年齢は12.3歳で,性成熟に伴って卵巣から分泌されるエストロゲンとプレゲステロン(黄体ホルモン)は,月経周期の調整をする働きを持っています(目崎1997).

2.女性アスリートの月経周期異常の現状
 能瀬(2012)は,2011年4月から12年5月にかけて,女性アスリートを対象に,ロンドン五輪参加選手156名を含む各競技団体の強化指定選手計683名(年齢21.5±4.6歳)を対象に月経に関する調査を行い,18歳になっても初経が来ない原発性無月経が1.5%,第二次性徴が見られない思春期遅発症1.0%,これまであった月経が3ヶ月以上こない続発性無月経が5.3%,規則正しく月経が来ない月経不順が32.9%と約40%に月経周期異常が認められ,治療が必要な月経困難症は23.6%に見られたことを報告しています.また,競技別では,体操,新体操,フィギアスケート,陸上競技長距離の選手に無月経の割合が高かったことを示しています.
 そして,土肥(2013)は,月経が正常なアスリートと比較し,無月経のアスリートでは疲労骨折のリスクが有意に高く(p=0.00004),無月経は低エストロゲン状態をもたらし,カルシウムが骨に取り込まれず,骨密度が低下,最終的に疲労骨折の原因になると述べています.桜庭(2013)も,大学中距離選手14名を対象に,骨密度と骨代謝マーカーと,練習量,疲労骨折,生涯予測因子などについて調査し,月経周期異常群と疲労骨折群は,骨密度,骨代謝マーカーに有意な差が見られということを報告しています.

3. 無月経の原因
 従来,アスリートの無月経の原因は,体脂肪減少によるステロイドホルモン合成代謝障害,身体的精神的ストレスの副腎機能への影響,急性負荷による内分泌的変化の慢性化により,視床下部から分泌されるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の律動的収縮が失われることによると考えられてきました(越野ら,1996).そして近年においては,難波(2013)は,運動の直接的ストレスよりもenergy availability(摂取エネルギーから消費エネルギーを引いたエネルギーの余裕度ともいうべき指標)が,無月経の原因であると示しています.これに基づけば,適切に摂取エネルギーを増量すれば無月経は予防可能ということになります(難波,2013).
 一方,多くの無月経アスリートにおいては,激しいトレーニングを休止した後に,摂食量の増加,体重の増加,練習量の減少などによって排卵が回復していくということが多いと示されています(難波,2013).難波(2013)が行った元実業団長距離ランナー71名を対象にした調査によると,引退時点で無月経だった16名は,8名が1~2ヶ月で月経を再開,3~6ヶ月で11名が,1年以内で12名,1~2年で13名,2~3年で14名が再開,月経が再開しなかったのは,引退後10年を過ぎた1名でした.月経再開までの体重増加は平均5.8㎏であり,月経再開は体重増加が大きく関与していることが示されました.

4.指導者,保護者の月経異常や疲労骨折に関する知識の現状
 無月経と疲労骨折の関係について,10代の選手に日々指導している指導者1045名を対象に行われた調査(NHK,2014)によって,回答者640名によって以下の結果が得られました(図1,図2).




 また,島根県下の体育主任 409 名,スポーツ指導者 239 名,雲南市の保護者 2636名を対象に行われた子どものスポーツ障害に関する意識調査(門脇ら,2014)では,以下のような結果が得られました(表1).



5. 月経周期とコンディションの自覚について
 能瀬(2012)の女性アスリート683名を対象にアスリートのコンディションの自覚について調査し,91.0%(573名)が月経周期とコンディションの変化を自覚していることが示され,さらに,「コンディショニングが良い時期はいつですか?」という問いに対して,以下のような結果が得られました(図3).


 しかしながら,コンディション目的の月経周期調整について,以下のような結果が得られました(図4).


  これらより,多くのアスリートが月経によるコンディショニングの変化を感じているにも関わらず,周期を調整することに対して意識を向けていないということが現状として示唆されました.能瀬(2012)はこれを問題視しており,重要試合のピーキングに月経周期調整を行う必要があるのではないかと指摘しています.

6. 低用量ピルの使用について
 欧米の女性アスリートにおいて,ピルの使用は,2008年の報告によると83%の欧米アスリートが使用しているという報告があり(Rechichiら,2008),日本はそれに比較しまだまだ使用率は低いです.また低用量ピルの副作用が怖いと思っている人もいるかとは思いますが,実際,低用量ピルの内服によってこれまでと異なるホルモンバランスとなり,使い始めには不正性器出血が起こったり,吐き気を感じたりする人もいますが,たいてい時間経過とともに治まるということが報告されています(小林,2013).
 そして,女性アスリートと低用量ピルについて,国立スポーツ科学センタースポーツ科学研究部 女性競技者研究プロジェクト(2013)の報告によると,低用量ピルの服用は,敏捷性や,筋力,無酸素性作業能力,間欠性運動には影響しないようですが,ジャンプ力,最大酸素摂取量や持久力パフォーマンスが低下するという影響を及ぼす可能性があるようです.しかし,これまでの研究では,対象者が少ない,ピルの種類が異なること,運動プロトコルが一致していないなど方法に差異があるので,ピルの使用と運動パフォーマンスの関係についてはまだまだ詳細な検討が必要であるとされています.

 女性アスリートの月経とコンディショニングの現状についてまとめてみましたがいかがでしたでしょうか.消費エネルギーに対して見合った食事を取らないことは無月経や思春期遅発症を招くことにつながり,また,無月経になると女性ホルモンの分泌が低下し骨密度も下がるということが分かっていただけたかと思います.能瀬(2012)は,特に10代は骨の形成に大切な時期で,この間に十分な骨量を蓄えておかないと,年を取ってからの骨粗しょう症や骨折につながる可能性があり,また骨の問題ばかりでなく,無月経による不妊症のリスクが高まると述べており,ジュニア期のアスリート,その家族,またそれだけでなく指導者においても,しっかりと知識を身に着ける必要があると思います.
 競技者としてより高いパフォーマンスを達成する為にも,選手として心身ともに不安なく月経とうまく付き合っていくことが求められると考えます.


参考文献:
C. Rechichi,B. Dawson,C. Goodman(2008)Oral Contraceptive Phase Has no Effect on Endurance Test.International Journal of Sports Medicine 29,277-281
土肥美智子(2013)4.女性アスリートサポートの立場から.日本臨床スポーツ医学会誌 Vol.21 No.3
独立行政法人 国立スポーツ科学センター スポーツ科学研究部 女性競技者研究プロジェクト(2013)女性アスリートのためのコンディショニングブック
越野立夫,武藤芳照,定本朋子編(1996)女性のスポーツ医学.南江堂.55
門脇俊,熊橋伸之,山本宗一郎(2014)島根県における学校運動器検診を通した成長期スポーツ傷害予防の取り組み(特別シンポジウム 地域における小児スポーツ障害の予防の取り組み : 日本小児整形外科学会との共同シンポジウム).日本臨床スポーツ医学会誌 22(3), 391-394
小林真美子(2013)「低用量ピル」の3大効用と使用法 女性ホルモンをコントロールする「低用量ピル」の基礎知識.日経ヘルス 1月号
目崎登(1997)女性スポーツの医学.文光堂
難波聡(2013)4.無月経への対策.日本臨床スポーツ医学会誌 Vol.21 No.3
NHKクローズアップ現代「無月経,疲労骨折・・・10代女子選手の危機」<http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3484/1.html>(2017/3/3アクセス)
能瀬さやか,土肥美智子,難波聡,秋守惠子,目崎登,小松裕,赤間高雄,川原貴(2012)女性トップアスリートの低用量ピル使用率とこれからの課題.日本臨床スポーツ医学会誌 Vol.22 No.1
桜庭景植,若松健太,窪田敦之,藤田真平,山澤文裕(2013)5.女子長距離ランナーと骨粗鬆症・疲労骨折~骨代謝マーカーおよび骨質関連マーカーを中心に~.日本臨床スポーツ医学会誌 Vol.21 No.3
2017年3月07日掲載