コンディショニングとパフォーマンスとの関係とは?
~ジャンプ運動に着目して~

MC1 小倉希望

RIKUPEDIAをご覧の皆様,はじめまして.今回コラムを担当します,MC1小倉です.専門種目は,十種競技をしています.宜しくお願いします.
 今回は,ジャンプを用いたコンディショニングおよびパフォーマンスとの関係性について検討された研究を紹介したいと思います.

コンディショニング
 まず,コンディショニングについて概観していきます.一般的にコンディショニングのねらいは,日々のトレーニングによって蓄積された疲労を取り除き,身体をリフレッシュさせることと言われています(新畑,1996).小林(1995)は,「コンディショニングとは,心身の自律的な諸機能の調整を図るとともに,目的に向かって心身の状態をより好ましい方向に整えるため,栄養,休養,リラクゼーション,比較的軽負荷および中強度までの身体活動などを含む,総合的で短期的または継続的な対象者自身への働きかけ」と定義しています.そして,一般的に行われているコンディショニングチェックには,体調や疲労感,心理状態,遅発性筋肉痛(Delayed Onset Muscle Soreness:DOMS)などを数値化して記録した主観的指標を利用する場合と,体重や起床時心拍数,血液検査,握力,筋硬度などの客観的指標を利用する場合があります(根本,1997;山本,1990).川原(1994)は,客観的指標は主観的指標と比較して早期に疲労の反応が観察されることを報告していることから,主観的指標と客観的指標とではその変化に時間的な相違があると考えられます,客観的指標には経済性の問題から頻繁に測定することが困難なものが多く,いずれもの指標も,決定的な指標というには不十分なものが多いと報告されています(新畑,1996).より適切な評価を行うこと,そしてより簡単に評価を行うためには,様々な指標を用いて,主観的指標・客観的指標の相違点や共通点を見出しておく必要があるが,コンディショニングは個人によって異なるため,規則性を見出すことは非常に困難であると示唆されています.
 一方で,コンディショニングにジャンプ運動を用いて評価したものもあります.ここで一つ例にあげてみると,長距離走者のコンディショニング状態を把握するためには,呼吸・循環器系およびホルモン・免疫系に関する指標が一般的に用いられています(図子,1997).図子ほか(1997)は,それらに加えて,下肢の神経・筋・腱系の機能性を評価できるリバウンドドロップジャンプ指数(RDJ 指数)を用いることによって,長距離走者のコンディショニング状態と競技成績との関連性について検討しました,結果,試合当日のRDJ指数と競技記録の変化パターンは4 回の試合を通して類似しており,さらに,レース前日のRDJ 指数が高いほど,その試合の記録は高い達成率を示すことが認められました.このことから,呼吸・循環器系およびホルモン・免疫系とともに,下肢の神経・筋・腱系の機能性を評価することは,長距離走者のコンディショニングを考える場合には極めて重要であり,RDJ指数が有益な方法の一つであることが示唆されました.なお,これらの結果が得られた背景については ,神経・筋・ 腱系の機能性が高い場合には弾性エネルギーの利用が円滑に進み,そのために典型的な伸張一短縮サイクル運動であるランニング時の運動効率も高くなることなどが推察できます.

 下肢における伸張‐短縮サイクル運動の遂行能力に関する測定方法には,一般的にはリバウンドジャンプやリバウンドドロップジャンプが用いられています(遠藤ほか,2007;木越ほか,2004;木越ほか,2005;図子ほか,1993;図子・高松,1995).これらのテストでは,その場で垂直方向に,できるだけ短い接地時間で高く跳ぶことを指示したジャ ンプを実施し,その際の接地時間と滞空時間をもとにして,踏切中の平均パワー(Rebound Jump power もしくは Rebound Jump index 以下「RJ power」と略す)を算出し,その値を成績として 評価診断がなされます.また,各種スポーツのパフォーマンスとの関係についての検討もなされており,バリスティックな伸張‐短縮サイクル運動の遂行能力が要求されるスポーツ種目の選手は高いRJ powerを示すこと,競技水準が高いほどRJ power も高いことなどが認められています.プライオメトリックトレーニングの効果に関する評価診断やタレントの発掘にRJ power を用いることの有効性が明らかにされています(遠藤ほか,2007;木越ほか,2005;大宮ほか,2009;図子ほか,1993;図子・高松,1995).実践現場におけるこのテストの利用について概観すると,リバウンドジャンプテストは日本陸上競技連盟の跳躍部門における選手強化のための体力・運動能力テストの中に導入されているとともに,多くの球技スポーツ種目においても利用されるようになりつつあるのが現状です.そこで,陸上競技者におけるジャンプ運動とパフォーマンスとの関係性をみてみます.

ジャンプ(RDJ)とパフォーマンス
 岩竹ほか(2002‐05)は,伸張-短縮サイクル(SCC)による発揮パワーから,スプリントパフォーマンスを規定する体力因子について検討しました.被検者には,60mの全力スプリントを行わせ,6回のリバウンドジャンプを行わせました.接地時間と滞空時間から発揮パワーの最高値を求めた結果,加速局面および速度維持局面におけるスプリント能力の評価指標としたスプリントランニングパワーおよび最高疾走速度は,ともにリバウンドジャンプパワーとの間に有意な相関関係が認められました.このことから,スプリントパフォーマンスを規定する体力因子のひとつとしてリバウンドジャンプに代表されるSSCによる発揮パワーの重要性が示唆されました.スプリントパフォーマンスの向上には,より短い接地時間で大きな筋出力を発揮するトレーニングが重要であると考えられます.
 図子ほか(2016)は,国内トップレベルを含む男子跳躍選手を対象にリバウンドジャンプテストを実施させ,リバウンドジャンプ指数(以下, RJ指数とする),接地時間, 跳躍高に加えて下肢3関節の仕事を用いて,競技力とパフォーマンス変数および仕事量の関係を明らかにするとともに,接地時間と跳躍高の2つの要因から分類したタイプごとの特性を示すことで,リバウンドジャンプにおける下肢の筋力・パワー発揮特性について検討しました.その結果、IAAF scoreに変換した競技力とリバウンドジャンプのパフォーマンス変数との関係についてみると,競技力と接地時間との間には有意な相関関係は認められなかったものの,RJ指数および跳躍高との間には有意な正の相関関係が認められました.これらのことから,優れた跳躍選手ほどリバウンドジャンプテストにおいて跳躍高を獲得する能力が高いことが示唆されました.

     

これらのことから,下肢の神経・筋・腱系の機能性を評価できるリバウンドドロップジャンプ(RDJ 指数)を用いて,コンディショニング状態と競技成績,およびパフォーマンスとの関係性を検討できると考えます.普段からのトレーニングやコンディション評価にRDJを用いてみてはいかがでしょうか.



図1 陸上競技選手のリバウンドジャンプにおける発揮パワーとスプリントパフォーマンスとの関係  (岩竹ほか,2002-05をもとに著者作成)


図2 リバウンドジャンプテストを用いた跳躍選手の専門的な下肢筋力・パワーに関する評価 (図子ほか,2016をもとに著者作成)




参考論文:
新畑茂充・和田正信・金丸キミエ・宮広重夫・三宅勝次・川村 毅(1996)陸上競技選手のコンディショニングに関する研究‐主に血漿CKP活性値の変動から‐.臨床スポーツ医学,13(10):1179‐1185.
小林寛道(1995)コンディショニングとは.トレーニング科学研究会編 コンディショニングの科学,朝倉書店:東京1‐9.
根本 勇(1997)コンディショニングの管理・評価法.トレーニングジャーナル,19(5):42‐47.
山本勝昭(1990)オーバートレーニングの指標としてのPOMSについて.臨床スポーツ医学,7(5):561‐565.
川原 貴(1994)オーバートレーニングとは何か?その予防策は?コーチングクリニック,(8):6-10.
岩竹 淳・鈴木朋美・中村夏実・小田宏行・永澤健・岩壁達男(2002‐05)陸上競技選手のリバウンドジャンプにおける発揮パワーとスプリントパフォーマンスとの関係.体育学研究 ,47(3):253‐261.
図子浩二・平田文夫(1997)下腿の神経・筋・腱系の機能からみた長距離競技者のコンディショニング.体力科学研究,46(6):743.
図子あまね・苅山 靖・図子浩二(2017)リバウンドジャンプテストを用いた跳躍選手の専門的な下肢筋力・パワーに関する評価.体力科学研究,66(1):79‐86.
遠藤俊典・田内健二・木越清信・尾縣 貢(2007‐03)リバウンドジャンプと垂直跳の遂行能力の発達に関する横断的研究.体育学研究,52(2):149-159.
木越清信・岩井浩一・島田一志・尾縣 貢(2004)ドロップジャンプにおける姿勢が下肢関節Kineticsおよびジャンプパフォーマンスに及ぼす影響.体育学研究,49:435‐445.
図子浩二・高松 薫・古藤高良(1993)各種スポーツ競技者における下肢の筋力およびパワー発揮に関する特性.体育学研究,38:265‐278.
大宮真一・木越清信・尾縣 貢(2009)リバウンドジャンプ能力が走り幅跳び能力に及ぼす影響:小学校6年生を対象として.体育学研究,(1):55‐66.
木越清信・小坂真貴子・佐々木博(2005)小学校における走り幅跳の跳躍距離とバリスティックな跳躍能力との関係.愛知教育大学研究紀要,30:21‐26.

2017年10月18日掲載

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