観察的動作評価法について

MC2 岡室憲明

RIKUPEDIAをご覧の皆さま,こんにちは.MC2の岡室憲明です.今回は,観察的動作評価法についてご紹介したいと思います.観察的動作評価法とは,簡単にいうと運動観察から動作の良し悪しを評価する方法です.このテーマに至った経緯としては,陸上競技に関する研究は,動作を評価する方法としてバイオメカニクス的手法が主に用いられています.一方,観察によって動作を評価した研究はかなり少ないです.その理由としては,おそらく,観察的動作評価法は人の目で見ているため主観が入ってしまい客観性を担保するのが難しいことが原因と考えられます.しかし,多くのメリットもあります.また,研究においては客観性を高める方法もいくつかあります.
今回は,動作を評価する1つの方法としてバイオメカニクス的手法以外もあるぞ!ということを研究者に知ってもらうとともに,観察的動作評価法で作成された動作の評価規準を指導現場に活用していただきたいと思いこのテーマにしました.

動作評価について
 まず,動作評価とはスポーツや運動の指導において,学習者・競技者の運動の結果や動作の観察から得られた情報を元に,その優れた点のみでなく,短所・問題点・欠点・弱点などを明らかにすることを言います(日本体育学会,2006).動作を評価する研究として,量的研究と質的研究に分けられます.量的研究は,実験室で行われる測定や質問紙法,その他のいわゆる客観的な手段を用いてデータを収集するというプロセスを必ず歩む研究です(Thomas and Nelson,2004).質的研究は,研究対象に対する非計量的データを採取し,科学的な手続きで分析して結論を得る研究です(大谷,2008).観察的動作評価法を用いる研究は,動作様式の質的な変容過程を観察的に評価する方法であると述べられていることから(中村ほか,2011),質的研究と言えます.しかし,質的研究であっても,量的研究で用いられる統計手法を用いることがあります(Thomas and Nelson,2004).
 ここまで,観察的動作評価法という難しそうな言葉を使ってきましたが,指導者は指導現場で競技者の動きを観察し,その動きを評価し問題点を競技者に指摘しています.まさに,競技者の動きを観察し評価することが観察的動作評価法と言えます.よって,観察的動作評価法は難しいように聞こえますが指導者であれば日常的に行なっている方法であると言え決して難しい方法ではありません.

観察的動作評価法のメリット
 ここでは,観察的動作評価法を研究で用いるメリットについて述べたいと思います.
 一つ目は,データの収集が容易であることが挙げられます.まず,量的動作評価の代表として,三次元及び二次元映像解析法について述べます.三次元及び二次元映像解析法とは,運動中における身体部位の関節角度や速度を算出するための方法です.この方法ではまず映像の座標を決定するためのキャリブレーションを行い,対象の動作を複数台のハイスピードカメラで撮影します.その映像を高価なソフトウェアを用いデジタイズという各関節を点と点で繋ぐ作業を手動または自動で行うことでスティックピクチャー(棒人間)を作成します(図1).棒人間を作成した後に関節の角度や各身体部位の速度などを算出することで選手の動作を評価します.今まさに手動のデジタイズで砲丸投を分析しているY氏に伺ったところ砲丸投のデジタイズには,1投当たり4〜5時間かかるそうです.1秒間に何コマで撮影したかにもよりますが,一人を分析するまでにかなり多くの時間を費やすことになります.一方,観察的動作評価法を用いている研究では,多くがハイスピード撮影ではなく通常モードで撮影が行われており(鈴木ほか,2016;高本ほか,2003),デジタイズを行わないため高価なソフトウェアも必要としません.加えて,評価にかかる時間については小野ほか(2014)は円盤投を37個の項目で評価するのにかかった時間は20〜30分と報告しています.比較している種目は異なりますが,観察的動作評価法はバイオメカニクス的手法を用いるよりもはるかに早く競技者にフィードバックできます.また,YouTube等の動画共有サイトに投稿されている動画でも画質や映像の出どころが確認できる動画であれば分析し評価することが可能であり,そのため世界トップレベルの競技者などの幅広いデータを収集することができると言えます.
 二つ目は,前述しましたがより現場で使われている方法に近い方法で動作を評価しているため,その結果が指導現場に生かしやすいということが挙げられます.観察的動作評価法を用いた研究では,走・跳・投動作などの基礎的動作の習熟度を評価するための評価規準(動作がどれくらいできるかを評価する規準)の作成を目的とした研究が数多くなされています(金・松浦,1988;油野ほか,1995:高木ほか,2003,鈴木ほか,2016).参考までに鈴木ほか(2016)の疾走動作の観察的動作評価基準を表1に示しました.陸上競技では,疾走動作の他に走高跳(はさみ跳び)や円盤投,やり投などについて研究されていますが(藤田ほか,2010;小野ほか,2014;宮口ほか,1994),その数は多くはありません.
しかし,観察的動作評価法によって作成された評価規準は,指導者が適切に指導をする際に役立つツールになり得るものであると考えられるため,これからこの分野でより多くの研究が行われることが望まれます.
 このように,観察的動作評価法には大きくこの二つのメリットがあります.

観察的動作評価の留意点
 留意点としては,観察的動作評価法は評価者の主観によって評価することから(日本体育学会,2006),対象者の体格,人種などの動作以外の情報が評価者の目に入り動作評価に影響を及ぼす可能性が挙げられます(小野ほか,2014).つまり,「人が観て判断しているのに信用できるの?評価の規準は経験などに左右されるのでは?」ということです.
 この点について,高本ほか(2003)は,観察的動作評価規準を作成する過程で規準が有効であるかを検討するために客観性,妥当性,信頼性を以下の方法で検証しています.

客観性:同じ映像を複数の評価者で評価し,その評価の一致度で検討.
妥当性:ある動作ができていたら1点できていなかったら0点とした時の評価規準の合計 得点と記録(100m走であればタイム)の関係を検討.
信頼性:同じ評価者が同じ対象者の動作の評価を一定期間開けた後に2回行い,その評価の一致度で検討.
 これらの3つの手続きをクリアすることで観察的動作評価法によって作成された評価規準は有効である規準と判断しています.
 しかし,客観性を検討する上で分析者の選定には注意する必要があります.例えば,客観性を検討する上で複数いる分析者の中に同じ大学陸上競技部員が含まれていた場合,同じ指導者に指導されている集団内で評価者が選定されてしまうため,観察眼が偏ってしまうことで客観性を適切に検討できない場合が考えられます.よって,評価者には異なる集団に所属する者を選ぶべきであると言えます.

     

まとめ
 今回のコラムを整理すると観察的動作評価法のメリットと使用する際の留意点は,以下の通りです.
 
 メリット
・データの収集が比較的容易で,また分析と評価が短時間で低費用である.
・指導者が競技者や学習者に対して指導現場で用いている方法に近いため,その結果が指導現場で生かしやすい.


留意点
・人の目で評価しているため主観的にならざるを得ない.
・様々な集団に所属する評価者を用いること.

 最後に,観察的動作評価法は理学療法の分野では多く用いられており,星(2017)は,理学療法士が動作を分析する際の観察のポイントを共有化することを推進すべきであると述べています.これは,スポーツの分野でも同じでしょう.観察ポイントの共有化を推進するためには様々なスポーツで観察的動作評価法を用いて評価規準を作成する研究が多く行われる必要があります.よって,研究者の方々には,観察的動作評価法を研究の手法として用いてみようかなと思っていいただけると嬉しいです.また,指導者の皆さんは評価規準を指導に役立てていただくとともに,指導者の観察眼は,この分野を発展させるためには不可欠であることから,現場で培った観察眼を生かして研究者として自分が専門とする競技の発展に貢献してみてはいかがでしょうか?



図1 立幅跳のスティックピクチャー



表1 小学5・6年生を対象とした疾走動作の観察的評価基準(鈴木ほか,2016をもとに著者作成)



参考論文:
油野利博・尾縣 貢・関岡康雄・永井 純・清水茂幸(1995)成人女性の投運動の観察的評価法に関する研究.スポーツ教育学研究,15(1):15-24.
Duane V.Knudson and Craig S.Morrison著 阿江通良 監訳(2007)体育・スポーツ指導のための動きの質的分析入門.ナップ.
藤田育郎・池田延行・陳 洋明・武田泰之(2010)走り高跳び(はさみ跳び)の目標記録への到達率からみた教科内容構成の検討:観察的評価基準の作成と小学校高学年を対象とした縦断的実践.体育学研究,55:539-552.
星 文彦(2017)観察的動作分析と意義と役割.理学療法,34.4-9.
Jerry R. Thomas and Jack K. Nelson著 田中喜代次,西嶋尚彦 監訳(2004)身体活動科学における研究方法.ナップ.
金 善鷹・松浦義行(1988)幼児及び児童における基礎運動技能の量的変化と質的変化に関する研究:走,跳,投動作を中心に.体育学研究,33:27-38.
宮口和義・出村慎一・宮口尚義・前田正登(1994)やり投げ動作の観察的評価法の検討.日本体育学会大会号,45:512.
日本体育学会(2006)最新スポーツ科学事典.平凡社.pp.169.
大谷 尚(2008)質的研究とは何か-教育テクノロジー研究のいっそうの拡張をめざして.教育システム情報学会誌,25:340-354.
鈴木康介・友添秀則・吉永武史・梶 将徳・平山公紀(2016)疾走動作の観察的動作評価法に関する研究―小学5・6年生を分析対象とした評価基準の検討―.体育科教育学研究,32(1):1-20.
高本恵美・出井雄二・尾縣 貢(2003)小学校児童における走, 跳および投動作の発達: 全学年を対象として.スポーツ教育学研究,23:1-15.

2017年10月6日掲載

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