音楽を聴くとパフォーマンスは向上するのか?

MC1 岡室憲明

RIKUPEDIAをご覧の皆様.こんにちは.今回のコラムはMC1年の岡室が担当させていただきます.
さて,皆さんは音楽を聴きながらトレーニングやウォーミングアップをしたことがありませんか?多くの人が音楽を聴きながら,または音楽が流れている環境で運動したことがあると思います.また,テレビでオリンピックや世界大会を見ていると,選手のウォーミングアップしている姿が映され,音楽を聴きながらウォーミングアップを行っている姿を見たことがあるのではないでしょうか.トップレベルの選手から市民ランナーレベルのアスリートにいたるまで音楽を聞きながら体を動かしていることを考えるとスポーツと音楽は何か関係性がありそうに思えます.そこで今回は,音楽とパフォーマンスとの関係について紹介したいと思います.

1,音楽の身体への影響
 まず,音楽を聴くことによる身体への影響について述べたいと思います.音楽の身体への影響についての研究は,速いテンポの音楽と遅いテンポの音楽,自分が好きな音楽に分けて述べられることが多いです(Juslin and Sloboda, 2011 ; Baumgartner et al., 2006 ; Juslin and Sloboda, 2011 ; Savan, 1999 ; Conrad et al., 2007 ; Fukui, 2001).それらの研究で明らかになった音楽が与える身体への影響について以下にまとめました.


 このように,音楽を聴くだけで私たちの身体には様々な影響があることが研究によって明らかにされています.

2,音楽を聴くことによる運動への影響
 次に音楽を聴くことによる運動への影響について述べたいと思います.ここでは,ジョギングやサイクリングなどの低強度運動と疲労困憊に陥るような高強度運動に分けて述べていきたいと思います.

低強度運動と音楽
 低強度運動を対象とした研究では,運動中に音楽を聴きながら効果を検証したものが多く,Yamashita et al.(2006)は,最大酸素摂取量の40%にあたる強度の運動中に音楽を聴いた場合と聴かなかった場合の主観的運動強度をボルグのスケール(RPE)を用い,その数値を比較したところ,音楽を聴いた場合の方がRPEが有意に低い値を示したことを報告しています(値が低いほど疲労感が少ない).しかし,心拍数には有意差が認められなかったことも報告しています.つまり,同じ運動強度でも音楽を聴きながら運動した場合は音楽を聴かずに運動した場合よりも疲れを感じにくいことが示されています.また,Elliott et al.(2004)はRPEが13の運動強度(ややきついと思うくらいの運動強度)で12分間自転車エルゴメータを漕ぐ運動の音楽を聴く場合と音楽を聴かない場合の走行距離を比較したところ,音楽を聴いた場合の方が走行距離が増加したことを報告しています.このように疲労感の軽減や走行距離が増加する理由の一つとして,音楽のテンポに自分の動きを合わせることでペースを一定に保つことができ,無駄なペースの乱れを抑えることが出来るためであるとBacon et al.(2012)は述べています.これらのことから,低強度運動では音楽を聴くことは運動へ影響を与える可能性があるといえます.

高強度運動と音楽
  高強度の運動においては,Young et al. (2009)が,疲労困憊になるまで行うランニングテストにおいて,音楽を聴く場合と聴かない場合の走行距離とRPEには差が認められなかったことを報告しています.また,Bharani et al. (2004)は,トレッドミルを用いて低い運動強度から徐々に運動強度を高め疲労困憊まで行うテストにおいて各運動強度でのRPEを音楽を聴く場合と聴かない場合の2条件で測定したところ,低い運動強度では音楽を聴く場合の方がRPEは低い値だったが,疲労困憊の状態に近づくにつれ音楽を聴かなかった条件下でのRPEの値に近づいたことを報告しています.これらのことから,疲労困憊に陥るほどの運動では音楽の影響は少ないといえるでしょう.この原因としてKarageorghis and Priest(2012)は,高強度運動では音楽による刺激よりも運動による身体への刺激の方が強くなることを挙げています.つまり,運動強度が高くなると音楽を聴いている場合ではなくなり影響が出づらくなるということです.
これらの研究は,どれも疲労困憊まで追い込む運動で行われた研究です.しかし,疲労困憊まで達しないが100%の力を発揮する運動ではどうでしょうか?
まず,握力について扱った研究ではテンポの速い曲を聴いた後の方が音楽を聴かなかった場合よりも握力の値が高いことが報告されています(Karageorghis at el., 1996).また,Hall and Erickson(1995)は,テンポの速い曲を聞いた後の方が音楽を聴かなかった場合よりも60m走のタイムが向上したことを報告しています.これらの事から,高強度運動の中でも疲労困憊に陥ることなく終了する運動であれば音楽の効果は期待できそうです.また上記の握力と60m走の研究は,運動前に音楽を聴いてから運動を行った上でそのような結果が得られています.よって,ウォーミングアップ中に音楽を聴くことはパフォーマンスの向上につながる可能性があるといえるでしょう.

3,最後に
 今回紹介した論文によると,音楽による影響が期待できる運動と期待できない運動があるようです.また,パフォーマンスに良い影響を与えるとされているのは自分の好きな音楽や速いテンポの音楽という事でしたが,速いテンポの音楽は研究によって異なります.しかし,パフォーマンスへ良い影響を与えることが認められた研究でテンポの記載があるものを調査すると1分間に120-140回のテンポを刻む音楽が使われていました(Elliott et al., 2004=134 ; Bacon CJ et al., 2012=123~137 ; Karageorghis et al., 1996=134).よって,この範囲のテンポの音楽は運動に良い影響があるといえるでしょう.参考までに,私の好みもありますが約1分間120-140回テンポを刻む音楽を記載しておきます.
最後に注意点として,音楽を聴きながら運動すると周りの音が聞こえず,それが原因で怪我をしたり,事故を起こしてしまうことも考えられますので,音楽を聴きながら運動する時には十分周りに気をつけて運動してください.









参考文献:
Bacon CJ, Myers TR, Karageorghis CI.(2012)Effect of music-movement synchrony on exercise oxygen consumption. J Sports Med Phys Fitness. 52(4) : 359-365.
Baumgartner T, Esslen M, Jäncke L.(2006)From emotion perception to emotion experience: Emotions evoked by pictures and classical music. Int J Psychophysiology60(1) : 34-43.
Nagahara R., Naito H., Miyashiro K., Morin J. B and Zushi K.(2014)Traditional and ankle-specific vertical jumps as strength-power indicators for maximal sprintacceration. J. Sports Med. Phys. Fitness,54(6): 691-699.
Bernardi L, Porta C, and Sleight P(2006)Cardiovascular, cerebrovascular, and respiratory changes induced by different types of music in musicians and non‐musicians: the importance of silence. Heart92(4) : 445–452.
Bharani A., Sahu A. and Mathew V.(2004)Effect of passive distraction on treadmill exercise test performance in healthy males using music. International Journal of Cardiology97 : 305-306.
Conrad C, Niess H, Jauch KW, Bruns CJ, Hartl W, Welker L(2007)Overture for growth hormone: requiem for interleukin-6? Crit Care Med35(12) : 2709-2713.
Costas I. Karageorghis and David-Lee Priest(2012)Music in the exercise domain: a review and synthesis (Part I). International Review of Sport and Exercise Psychology5(1) : 44-66.
Elliott D., Carr S. and Savage D.(2004)Effects of motivational music on work output and affective responses during sub-maximal cycling of a standardized perceived intensity. Journal of Sport Behavior27 : 134-147.
Fukui H.(2001)Music and testosterone. A new hypothesis for the origin and function of music. Ann N Y Acad Sci.930 : 448-451.
Hall K.G. and Erickson B.(1995)The effects of preparatory arousal on sixty-meter dash performance. The Applied Research in Coaching and Athletics Annual10 : 70-79.
Jane W. Cassidy and Jayne M.(1995)StandleyThe Effect of Music Listening on Physiological Responses of Premature Infants in the NICU. J Music Therapy32(4) : 208-227.
Karageorghis C.I., Drew K.M. and Terry P.C.(1996)Effects of pretest stimulative and sedative music on grip strength. Perceptual and Motor Skills83 : 1347-1352.
Michel W. and Wanner H. U.(1973)Effect of music on sports performance. Schweizerische Zeitschrift fur Sportmedizine23 : 141 – 159.
Patrik N Juslin and John Sloboda(2011)Handbook of Music and Emotion Theory, Research, Applications. Oxford University Press.
Rejeski W.J.(1985)Perceived exertion: An active or passive process? Journal of Sport Psychology75 : 371-378.
Savan A(1999)The Effect of Background Music on Learning. Psychology of Music27(2) : 138-146.
Yamashita S, Iwai K, Akimoto T, Sugawara J, Kono I(2006)Effects of music during exercise on RPE, heart rate and the autonomic nervous system. Journal of Sports Medicine and Physical Fitness46(3):425-430
Young S.C., Sands C.D. and Jung A.P.(2009)Effect of music in female college soccer players during a maximal treadmill test. International Journal of Fitness5 : 31-36.
2016年12月20日掲載
2017年1月27日訂正

戻る