ハンマー投の歴史,用具の進化

MC1 田中義也

 こんにちは.今回,コラムを担当させていただきます.MC1年の田中義也です.筑波大学体育専門学群のスポーツ社会学研究室を経て,院生となった今年から陸上競技研究室でお世話になっています.専門種目はハンマー投を行っています.今回は,ハンマー投の歴史に関するコラムを書きたいと思います.

 現在におけるハンマー投とは総重量が一般男子7.26kg,一般女子が4kgの金属製頭部(ヘッド),ワイヤー,ハンドルからなるハンマーを投げ,その飛距離を競う種目です.直径2.135mのサークルの中心から34.92度の間隔で引かれているラインの内側に落ちたもののみが有効試技となります(日本陸上競技連盟,2016).ハンマー投はどのような変遷を遂げ,現在皆さんが目にするような形になったのでしょうか.岡尾(1996)の文献をもとに紹介していきます.

ハンマー投の誕生と変遷
 ハンマー投の起源は古く,紀元前1829年アイルランドのタラ村で行われた「ティルティンのゲーム」における車輪投げ(車軸に片方の車輪がついたものを回転して投げ飛ばすもの)として記録されているものが起源となったとされています.それ以降も,各地でさまざまな形でハンマー投の元となる形の競技が行われているが行われています.(鍛冶屋のハンマーや農耕具を投げあうようなもの)中世になると,「石投げ」や「棒投げ」「釣り糸のおもり投げ」といったハンマー投に近い競技が王や王子の教育手段として推奨されていたとされています.現在でも,そのなごりを残した競技がスコットランドにおけるハイランド・ゲームス内で行われています.私の先輩がスコットランドに留学した際に,その様子を撮影してきてくださったので動画を掲載します.現在のハンマー投との違いを感じていただければ幸いです.(https://www.youtube.com/watch?v=sah-DkP4x_U&feature=youtu.be)
 その後,一度は下火となったハンマー投の起源となるスポーツは19世紀後半になり,パブリックスクールや大学の陸上競技大会に採用され,再び盛んに行われるようになりました.当時はさまざまな重さのハンマーが使われていましたが,次第に16ポンド(7.26kg)の現在の規格が一般的になってきました.また1866年に,陸上競技愛好家が「アマチュア・アスレティック・クラブ(AAC)」を結成し「選手権大会」を開催しましたが,その中にも「ハンマー投」は正式種目として採用されていました.その大会ではハンマーの重量は16ポンドと現在のものと重さは変わりませんが,柄の長さは選手の好みで決めることができ,投てきのための予備動作は計測ラインを超えさえしなければ距離は無制限というものでした.大半の選手はハンマーを振り回しながら3.5~4.5mの距離を助走して投げるという技術を採用していました.
 その後,イギリスにおいて1880年に各地にできた陸上競技のクラブを地区ごとに組織し,それを統括する組織として「英国陸連(AAA=Amateur Athletic Association)」が結成され,「全英選手権大会」が開催されるようになりました.そのときにできたハンマー投の競技規則が
1) ハンマーは直径7フィート(=2.13m)のサークルから投げる.
2) ハンマーの「柄」と頭部の総重量は16ポンド(=7.26kg)とする.
3) ハンマーの頭部は鉄製の球形で,柄は木製であること.
4) ハンマーの頭部の先端から柄の端までは,4フィート(1.22m)より長くないものとする.
と,現在の規格と近いものとなり,1900年には近代オリンピック第2回大会であるパリ大会においてハンマー投が正式種目となり,第4回大会である1908年のロンドン大会時には現在のハンマー投のルールの基礎が確立しました.

用具の変遷
 用具においても変化が見られました.ハンマーの頭部と柄の接合部にベアリングが用いられるようになり,ハンマーのスイングが行いやすくなりました.柄も木製のものを直接握っていたものから,金属製のピアノ線となり,それに三角形のハンドルが付けられハンマーに力を加えやすくなりました.このように,用具も変化し現在に近いものとなりました.用具の変化によって,ただハンマーを握り,力任せに振り回したり助走したりして投げるかつての技術から,現在のようなスイングとターンが用いられるようになりました.用具や技術の変化に伴って記録も向上するようになり,1908年に確立した現在のハンマー投のルールに加え,危険防止のためにサークルの周辺のフェンスや投てき有効角度のルールについても整備されるようになりました.その後も1957年以降はサークルが芝生や土製であったものから,コンクリートやアスファルト製となりました.これにより,それまでスパイクで行われていた競技が,ゴム底の現在のようなスローイングシューズへと変化し,スムースな回転が行えるようになったことも現在の技術の誕生に貢献していることも見落としてはなりません.

終わりに
 今回のコラムでは,ハンマー投の歴史や用具の変遷について書かせていただきました.今回のことに加え,上述したようにハンマー投は用具やルールの変化に伴ってスイングとターンという新しい技術が誕生し,記録も飛躍的に向上しました.それについての具体的な話は,またの機会に説明していきたいです.最後まで読んでいただき,ありがとうございました.







参考文献:
日本陸上競技連盟(2016)フィールド競技.陸上競技ルールブック2016年度版.日本陸上競技連盟,pp.212-259.
岡尾恵市(1996)ハンマー投の歴史.陸上競技のルーツをさぐる.文理閣,pp191-199.
2016年10月13日掲載

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