200mを制するために200mを知る

MC1 齋藤仁志


はじめに
 RIKUPEDIAをご覧の皆様,こんにちは.M1の齋藤です.朝の寒さは身にしみるものの,日だまりの温かさには春の到来を感じております.冬季トレーニングも終盤に差し掛かり,大切なシーズンを前にする期待や不安で満ちていることと心中察しますが,自身で行なってきたことに自信を持ち,恐れず初戦に向かって漸進して欲しいと思います.

 さて,前回のコラムに書きましたが,今後は持久系または耐乳酸系のトレーニングからコンセプトを徐々にシフトし,スピードトレーニングに加えて,専門種目に応じた技術練習を導入していきましょう.100m走を専門としている競技者は,絶対的なスピードの向上を目的としたスピードトレーニングや,スタート練習などの技術練習を多めに行なうべきですが,200m走を専門としている競技者は,そのようなトレーニングに加えて,曲走路における走技術トレーニングを意欲的に行なうべきです.レースの半分以上が曲走路である200m走において,曲走路を速く,かつ効率的に走ることが,パフォーマンスを高める上で重要とされます.200m走競技者は「コーナーを制する者は,200m走を制する」というテーマを念頭に置き,トレーニングして頂きたいと思います.しかしながら,曲走路での疾走技術はもとより,200m走に関する知識を得ている方は多くないと思います.ですので,今回は200m走に関して先行研究から明らかにされているポイントを,①200m走の疾走動態(疾走速度,ピッチ,ストライドなど),②曲走路での左右脚の働き,の2点から紹介していこうと思います.


200m走における疾走動態
 2011年大邱世界陸上における男子200m走において,上位3選手の疾走速度,ピッチ,ストライド等の疾走動態の関係性は表1のようになります(髙橋ほか,2012).多くの競技者は60m〜80m区間で最大疾走速度に達しています.最大疾走速度の出現後,フィニッシュまで速度が減少していきますが,疾走速度の構成要素であるストライドは20m〜40m区間まで増加した後,フィニッシュまで大きく変化しません.すなわち,200m走後半における疾走速度の減少はピッチの低下に大きく依存しており,200m走後半の疾走速度の減少を抑える為には,ピッチを落とさず200mを走りきるようなトレーニングを導入するべきであると考えられます.また,パフォーマンスの高い競技者ほど最大疾走速度が高い傾向にあり,この点は100m走における特徴と酷似しています.表1のように,55m〜80m区間での接地時間および滞空時間の左右差はほとんどありませんが,ピッチは右足で,ストライドは左足で顕著に大きい値を示しています.
 指導現場において,「コーナー出口で速度を上げる意識で」という指導者の言葉を耳にします.しかしながら,実際はスタートから約60mで最大疾走速度に達した後は,疾走速度が減少の一途を辿ります.広野ほか(2014)は,曲走路出口付近の速度減少量と競技パフォーマンスに正の相関関係があると報告しており,曲走路出口付近で疾走速度を維持することが,競技パフォーマンス向上に有効であると考えられます.曲走路から直走路への移行区間にポイントを置き,トレーニングに励むとよいでしょう.





曲走路疾走中の接地期の左右脚比較
 みなさんは曲走路を走る際,どのような点に意識を置いて走っていますか.三者三様の内在意識があると思いますが,曲走路を走る際に走者はレーンに沿って進行方向を微調整しながら,身体の向きを変えていかなければなりません。曲走路を疾走時,走者は遠心力という慣性力を感じます.それ故,身体を曲走路内側へ傾け,求心力を生み出さなければいけません.求心力は,F(求心力)=m(身体質量)・v(身体重心速度)^2/R曲走路半径で求めることができ,200m走や400mリレーの第1走者や第3走者のような疾走速度が高い種目ではより大きな求心力が必要となります.この求心力が作用する点が,直走路疾走のメカニズムと大きく異なります.曲走路疾走時,走者は接地期において求心力を生み出す必要があり,同時に進行方向の調整も行なわなければなりません.何故なら,滞空期において進行方向を変更することが不可能であるためです.これらのことから,曲走路疾走時の接地期は非常に重要な局面であると考えることができ,接地期における左右脚の働きを知ることが,曲走路をより速く走る鍵となります.石村ほか(2011)は,曲走路を最大努力で疾走時の接地期における左右脚を比較し,曲走路疾走時の左右脚の特徴を明らかにしました.表2は,曲走路疾走時の左右脚それぞれにおける身体重心速度・求心力・接地時間・身体重心移動距離・内傾角度・股関節屈曲−伸展角度・股関節内−外転角度・股関節内−外旋角度・膝関節角度を示しています。また,この報告で用いられた内傾角度はIshimura and Sakurai(2010)が定義したものであり,それを図2に示しました.それらを踏まえた上で,重要となるポイントを記します.

〈曲走路における接地期の左右脚比較〉

上記の内容から,曲走路において左右脚それぞれにおいて役割が異なることが推測できます.しかしながら,この研究の被験者は主に100m走自己記録が10秒6〜9の競技者となっており,200m走が専門の競技者ではありません. 今後,19秒台もしくは20秒前半で走ることのできる一流競技者の曲走路での特徴を明らかにする必要性があるように感じます.



最後に
 「200mを速く走るためにはどうしたらいいでしょうか」と,このような質問を受けることが多くあります.先行研究を元に考えると,曲走路における最大疾走速度を高めるトレーニングや,レース後半でピッチを落とさずに疾走速度を維持するトレーニングが求められます.具体的なトレーニングメニューとしては,曲走路での加速走(10m加速付きの30m走)や,220mや250mのオーバーディスタンストレーニングなどを行なうと良いでしょう.200m走という種目の特性を熟知した上で,コーチと相談しトレーニングメニューを決めていって欲しいと思います.
 200m走は曲走路の撮影や分析の困難性や,同じショートスプリントに分類される100m走との関係から割愛されてきた種目であり,深く研究されてきておりません.私は中学で陸上競技を始め,200m走という種目に一目惚れし,現在も競技を継続して行なっていますが,未だに分からないことも多く,謎多き種目だと思います.私自身,修士論文にて,200m走におけるパフォーマンス決定要因を探求する予定でいますので,またお話できる機会を頂けましたら,200m走という魅力ある種目を徐々に紐解いていければと思います.




参考文献:
広野泰子・清水悠・藤井範久(2014)陸上競技200m走におけるレースパターン分析.日本体育学会大会予稿集, 65: 278.
Shimura, K. and Sakurai, S.(2010)Comparison of inside contact phase and outside    contact phase in curved sprinting. Proceedings of 28th Congress of the International Society of Biomechanics in Sports.
石村和博・桜井伸二(2011)陸上競技場曲走路における最大努力走時の接地期の左右比較.中京大学体育学論叢, 52: 7−12.
髙橋恭平・松尾彰文・広川龍太郎・柳谷登志雄・貴嶋考太・松林武生・山本真帆・綿谷貴志・渡辺圭佑(2012)2011年世界および日本トップスプリンターの200mにおける走パフォーマンス分析.陸上競技研究紀要,8: 25–34.
2016年2月29日掲載

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