投てき競技における成功試技と失敗試技について

MC1 河合郁実

RRIKUPEDIAをご覧の皆様,こんにちは,MC1河合郁実です.

投てき種目では,出場者全員3投ずつ投げた後,その中で上位8人のみがさらに3投投げることができます.試技数が限られているため,上位8人に入るために,ある程度良い記録をはじめの3投のうちに投げる必要があります.そのため,失敗はできる限り避ける必要があるのですが,試合になると,緊張していつもとは違う動きをしてしまい,うまくいかない競技者がいます.そこで,今回は砲丸投とやり投の成功試技・失敗試技の比較を行った研究を中心に見ていくことで,失敗投てきにつながる動きについて紹介していきたいと思います.

まず砲丸投では,佐々木(2003)が,砲丸投・円盤投を専門に行っている競技者を対象とした成功試技と失敗試技の比較をしました.その結果,成功試技では,パワーポジションからリリースまでの間の砲丸の移動距離が大きいほど記録が高かったと報告されています(佐々木,2003).その要因として,より前方でリリースすることが投てき距離に大きな影響を与えていたと考えられます(佐々木,2003).また,リリース時の前腕の方向ベクトルと砲丸の速度ベクトルとのなす角度(図1)が,先行研究と一致していたことから,先述の角度が小さいほど投てき距離が大きく,大きいほど投てき距離が小さくなる負の相関関係が認められました(佐々木,2003).


図 前腕の方向ベクトルと砲丸の速度ベクトルとのなす角度
佐々木(2003)をもとに作図

さらに,成功試技に比べて失敗試技では,パワーポジションの構えから砲丸のリリースにかけて肩関節角度の増加(投げ腕の右方向の開き)が大きく,リリース時の肘の伸展は不十分であったと報告されています(佐々木,2003).そして成功試技では,骨盤の回転や骨盤に対する上体の捻り戻しを利用できており,失敗試技では上体の捻り戻しが十分に行われずにリリースに至っていたことが明らかとなりました(佐々木,2003).これらのことから,失敗試技では上体を捻り戻す前に砲丸を押し切れずに手から離れてしまったと考えられます(佐々木,2003).

次にやり投では,村上ほか(2008)が,世界トップレベルのやり投競技者1名を対象に成功試技と失敗試技の比較を行いました.その結果,失敗試技では,ラストクロス後の右足接地時に,成功試技と比べて右足を重心位置から4cm右側に接地したことが,リリース直前での早期の体幹の左回旋を促していたと考えられます(村上ほか,2008).また村上ほか(2008)は,ラストクロス後の右足接地時に下肢から上肢へのエネルギー伝達が不十分となり,上肢の不適切な運動連鎖によって,やりを成功試技ほど大きく加速させられなかったと述べています.そして右足をより右側に接地したことにより,左足接地時にオーバーストライドとなり,その後の左膝の屈曲へとつながったと考えられます(村上ほか,2008).さらに,先述の動作は,指導現場では「開きが早い」とされており,失敗動作の典型的なパターンとして認識されています.この状態では,左足接地後のやりの加速距離が短くなってしまい,結果としてやりを含めた末端部分の速度を高められなかったと考えられます(村上ほか,2008).

以上のことから,砲丸投では「パワーポジションからリリースの直前までに捻った上体を捻り戻しながら砲丸を長く押すこと」,やり投では「ラストクロス後の右足接地を重心に近い位置で行うこと」によって,成功試技につながる可能性が高くなるかもしれません.
 2種目に共通することは,いずれも投げ局面の前での準備動作におけるわずかな動作のずれが,つづく投げ出し局面の動作に大きく影響を及ぼしたと考えられます.投てき競技者のみなさんは,競技会で失敗しないための1つとしてぜひ参考にしてみてください.




参考文献:
村上幸史・田内健二・本道慎吾(2008) 国内一流男子やり投競技者における成功試技と失敗試技との投てき動作の比較.陸上競技研究 75 (4):pp21-28.
佐々木大志(2003) 砲丸投の回転投法における投げ動作に関する事例的研究--成功試技と失敗試技の比較.陸上競技研究53(2):pp19-25.
2016年2月1日掲載

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