「あがり」について

MC1 河合郁実

RIKUPEDIAをご覧の皆様,はじめまして,MC1河合郁実です.私は,投てき種目の中の1つである円盤投を専門種目としています.
 世界陸上も終わり,自己ベストに近い記録を出す選手もいれば,思うように力が発揮できず,記録を残せなかった選手もいましたね.改めて大きな舞台で自分の実力を発揮することの難しさを感じました.私自身も,競技会で緊張してしまい,パフォーマンスをうまく発揮できないことが多くあります.みなさんもそういう経験はあるのではないでしょうか.
 そこで今回は,「あがり」について蓑内ほか(2009)の文献をもとに紹介していきます.

まず「あがり」とは「過度の興奮のために予期した通りにプレーができず,記録が低下状態」と定義されています(日本体育協会スポーツ科学研究委員会,1960).つまり,試合において緊張や不安が強い場合に,競技遂行の困難性や成績の低下,競技場面への不適応などを伴った様々な心理的・生理学的現象であります(蓑内ほか,2009).日常生活でも観察される現象でありますが,試合場面において,選手が「あがった」時に,本人が自覚したり,他人によって観察されたりする徴候には様々なものがあります(蓑内ほか,2009).市村(1964)は,「あがり」を構成する5つの因子を明らかにしました.


⒈自律神経系,特に交感神経系の緊張の因子
 「のどが詰まったような感じがする」「胸がどきどきする」などの特性によって規定される
⒉心的緊張力の低下の因子
 「注意力が散漫になる」「落ち着こうとしてかえって焦る」といった状態である
⒊運動技能の混乱の因子
 「手足が思うように動かなくなる」「不必要な動作に力が入りすぎる」などの状態である
⒋不安感情の因子
 「失敗はしないかと気になる」「何となく不安を案じる」といった状態である
⒌劣等感情の因子
 「相手がいやに落ち着いているようにみえる」などの状態である

さらに,松井(1998)は,どのような時にあがるのかという主な要因を以下のようにしています.


⒈観衆に関する要因
 観衆の人数の多少,相手・味方の応援などが影響を与える.
⒉競技相手の認知に関する要因
 競技相手が強敵,自分と同等の力を持つ相手と戦う場合などである.
⒊周囲からの期待に関する要因
 母校,郷土,マスコミなどの過度な期待がある場合に「あがり」が起きる.
⒋試合の質に関する要因
 自分やチームにとって大事な試合であり,優勝がかかった試合であったりといった試合の重要性によって影響を受ける.
⒌自信に関する要因
 対外試合の経験や練習不足などによって自分の技能やプレイに自信がない場合に生じる.失敗するのではないかという不安は無気力感や,劣等感を引き起こす.
⒍競技者の性格特性に関する要因
 恥ずかしがり屋や内向傾向の人,神経質傾向の強い人はあがりやすいと言われている(市村,1964).

あがりを防止するためには,「リラクセーション」が有効であり,「リラクセーション」の方法は,過度な緊張状態にある時には,深呼吸は効果的な手段とされています(蓑内ほか,2009).「リラクセーション」を行うための呼吸の方法としては,「腹式呼吸」や「筋弛緩法」などが挙げられます(蓑内ほか,2009).「腹式呼吸」はみなさんご存知の通り,鼻から息を吸い,口から吐き,その際に「お腹」を使う呼吸法です.また「筋弛緩法」はJacobson(1929)によって開発された訓練法であり,身体各部に力を入れ(緊張),その状態を保持し,そして力を抜く(弛緩)という繰り返し行うことによって,最終的に全身のリラクセーションを行うものです.
 以上のように,「あがり」には様々な要因が考えられます.しかし、「あがり」を防止するための方法もいくつか存在します.これから大きな試合が控えている方,心理面に不安のある方は,ぜひ参考にしてみて下さい.




参考文献:
市村操一(1964) スポーツにおけるあがりの特性の因子分析的研究(Ⅰ).体育学研究,9(2):18-22.
Jacobson,E.(1929) Progressive relaxation.University of Chicago Press:Chicago.
松井匡治(1998) あがりとその防止.松田岩男ほか編著,新版運動心理学入門.大修館書店:東京,pp.82-86.
蓑内豊・竹田唯史・吉田聡美(2009) 基礎から学ぶスポーツ心理学 改訂増補版.中西出版:東京,pp.40-43.
日本体育協会スポーツ科学研究委員会(1960) あがりの研究.日本体育協会医科学研究報告.

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