十種競技のパフォーマンス向上に向けて

MC1 景行崇文

RIKUPEDIAをご覧の方々、はじめまして。今回コラムを担当しますMC1の景行(かげゆき)と申します。

私は専門種目として十種競技をしています。タレントの武井壮さんも元十種競技者で、日本選手権優勝経験があり、テレビで一度は耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
 そもそも十種競技とは、100m・走幅跳・砲丸投・走高跳・400m・110mH・円盤投・棒高跳・やり投・1500mを2日間に分け、IAAFの定める計算式からそれぞれの記録を得点化し、十種目の合計得点を争う競技です。十種競技の勝者は「キング・オブ・アスリート」と称され、欧米では十種競技のみの国際大会があるほど高い人気を誇っております。
 近年の国内における十種競技の記録の伸びは著しく、右代選手が2011年に日本人初の8000点越えを果たして以降、2014年には8308点の日本記録を樹立しています。この記録(8308点)を世界選手権・オリンピックで出すことが出来れば、入賞を果たすことも夢ではないでしょう。そして今年、中村選手も史上2人目の8000点を越える活躍を見せ、北京で行われた世界選手権に両選手が出場を果たし、日本十種競技界は注目を集めています。

十種競技における1500m以外の種目は、走種目(100m・400m・110mH)、跳躍種目(走幅跳・走高跳・棒高跳)、投てき種目(砲丸投・円盤投・やり投)の3つに分類でき、十種競技者を走種目の得意なタイプ、跳躍種目が得意なタイプ、投てき種目が得意なタイプに分けることができます。
 得点に関して、日本と西ドイツの競技者を調べた小林(1980)は、十種競技記録は走能力や跳躍能力にかなり依存するものであることを報告し、日本・ソ連・西ドイツ・フランスの競技者を調べた内田(1981)は、投てき種目と1500mは相対的な低得点種目であることを報告しています。また、十種競技の各種目の記録について、単一種目を専門としている日本人競技者の記録と比較し、日本人十種競技者のスプリントパフォーマンスは比較的高く、投てき種目や1500mでは比較的低いことも報告されています(水内,1992)。
 安田(2013)は、日本人の一流競技者(自己最高記録が7000点以上の者)を対象に、十種競技初年度と自己最高記録達成時の総合得点における各種目群の貢献度(各種目群の得点が総合得点に占める割合)を求め、いずれのタイプにおいても総合得点に高い貢献度がある種目は走種目群であることを報告しています。
 走種目群以外の種目についても、松林(2010)は十種競技者において助走速度と跳躍距離との関連性が認められていることを報告しています。また、伊藤(2006)はやり投げ記録がよい選手ほど助走速度が高かったことを報告し、武田(2006)は重心水平速度と棒高跳びの記録には有意な正の相関がみられたことなどを報告しており、走能力が走種目群以外のパフォーマンスにも関わっていることが分かります。
 したがって、十種競技のパフォーマンスの決定要因のうち大きな要因の一つが走能力であり、十種競技のパフォーマンスを向上させるために「走能力を高いレベルにする」ことは必要不可欠であるでしょう。

続いて、走能力以外で十種競技のパフォーマンス向上の要因を考えていきます。内田(1981)は、スプリント種目と跳躍種目は高得点種目であり、その関係は十種競技のパフォーマンスが低い段階ほどより顕著であること、吉武(1989)は技能水準の高いクラスほど平均得点、個人差、割合の変化は小さく、低いクラスほどその変化が大きい傾向があることを報告しています。つまり、競技水準の高い競技者ほどバランスの良い得点構成をしているわけです。裏を返せば、競技水準の低い競技者ほど走種目に偏っており、バランスの悪い得点構成をしているのです。
 そこで、私は2011~2015年における十種競技者のパフォーマンスを調査し、内田(1980)を参考に、5000~8000点台を6段階に分け、各段階の得点構成を作成しました(図1)。図1を作成するにあたり、各段階に当てはまる競技者のパフォーマンスデータをIAAF・JAAF・日本学連・関東学連のHPから収集し、そのデータより各段階における十種目それぞれの得点の平均を求めました(表1)。バランスの良いとされる8000点台の平均得点を基準(100%)として、各段階の各種目でどれぐらいのパフォーマンスがなされているのか(8000点台に対して何%のパフォーマンスなのか)を図1は示しています。注意して頂きたいことは、各種目のベスト記録ではないことです。


図1.各競技水準の得点構成




表1.各競技水準における種目別の平均記録(得点)


図1をご覧になると分かりますが、先述の内田(1981)や吉武(1989)の報告と同様に、競技水準の低い競技者ほど得点構成のばらつきが大きく(グラフがギザギザに)なっています。ここで、得点構成のばらつきを生んでいる種目として「砲丸投・円盤投・棒高跳」の3つが挙げられます。これらの種目は、比較的高度な技術が要求されること(吉武,1989)、技術の独立性が高いことが知られています(水内,1992)。また、経年的に日本人トップ競技者の十種競技パフォーマンスを分析した安田(2013)は、向上した競技者の数でみると110mH・円盤投・棒高跳がパフォーマンスの向上した種目として共通していた、と報告しています。この原因として、円盤投・棒高跳は高校男子で実施されている八種競技では採用されておらず、成年男子が行う十種競技から新たに加わる種目のため、経験を積むことでパフォーマンスが向上した、と述べています。
 これらのことより、十種競技のパフォーマンスを向上させるためには全体のばらつきを小さくし、比較的高度な技術が要求される種目(円盤投や棒高跳など)を優先的にトレーニングすることで経験を積み、それらの技能を身に付けることが求められるでしょう。

再度まとめると、
 1.走能力の強化
 2.円盤投・棒高跳など高度な技術の必要な種目の強化
を優先的に行うことが、十種競技のパフォーマンスを向上させるために必要になります。
 世界レベルで活躍する右代・中村選手がいる一方で、彼らを支える形で何百という国内レベルの競技者もいます。高い頂に登るためにはしっかりとした大きな土台からつくりあげていく必要があり、国内レベルの選手の競技力の底上げが不可欠であります。
 今回のコラムがそのような競技者のトレーニングを見直す小さなきっかけになればと思います。




参考文献:
水村信二・小林敬和・山本利春(1992)十種競技者の種目別競技力評価-単一種目の競技記録との比較から-. 日本体育学会大会号、43B:782
内田知子・村木征人(1981)十種競技の記録発達に関する横断的研究. 日本体育学会大会号、32:631
吉武信二(1989)十種競技に関する研究-各種目得点の占める割合の傾向-.日本体育学会大会号、40B:642
安田昌弘・大山卞圭悟・木越清信(2013)国内一流十種競技者におけるパフォーマンス向上過程に関する縦断的研究. 陸上競技研究2013(2):38-44.
伊藤章・村上雅俊・田辺智(2006)やり投げの投射条件、助走速度と記録との関係-第11回世界陸上競技選手権大会決勝進出者と日本選手の測定結果. 陸上競技研究紀要 2:159-161.
松林武生・持田尚・松田克彦・本田陽・杉田正明(2014)十種競技選手のスプリント能力と個別種目パフォーマンスとの関係. 陸上競技研究紀要 10:122-130.
松林武生・持田尚・松尾彰文・松田克彦・本田陽・阿江通良(2010)十種競技選手の走幅跳・棒高跳での跳躍パフォーマンス分析. 陸上競技研究紀要 3:104-112.

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