足首の硬い人ほど足が速いのか?

MC2 梶谷 亮輔

RIKUPEDIAをご覧の皆様,こんにちは.今回のコラムは陸上競技研究室MC2の梶谷が担当いたします.


突然ですが・・・

みなさんは和式トイレに座ること(踵を浮かさないように座る)はできますか?
 おそらく足首の硬い選手ほど座ることができない,あるいは座りにくいという選手がほとんどではないでしょうか.

なぜこのような質問をしたのかというと,スプリント走における実践的な場面では,疾走能力の優劣に関わらず,選手の特徴について,「足首が硬い」あるいは「足首が軟らかい」と表現するこ とがあると言われています(永原ほか, 2013).*著者らの経験則による
 このことから本コラムでは,実践的現場で言われている足首の硬い軟らかいがスプリント走にどのように影響しているのかを考えていきたいと思います.

スプリント走において高いパフォーマンスを発揮するためには,最大筋力を高め,大きなパワー発揮が必要となります(Bezodis et al.,2008).また,スプリント走の特性として疾走速度が高くなるに伴い,接地時間は短くなっていくことが言われていることや(深代,2014),100m走の記録と接地時間との関係においても有意な負の相関関係が認められていることから(杉田,2003),速い選手ほど接地時間が短いということが言えるでしょう(Kuitunen et al, 2002).

それでは,接地時間を短くするためにはどうすれば良いのでしょうか.
 接地時間への対応は主に足関節によるところが大きいと言われており(宮下ほか,1986),支持期において疾走速度の高い選手ほど足関節の角度変位が小さいことが報告されています(伊藤,1998).このことは,速い選手ほど足関節を固定させている(硬くふるまう)と認識することができ,それによって足関節の角度変位が少なく(足首のつぶれが小さい),短い接地時間で運動を遂行することを可能にしていることが考えられます.

足関節は接地時間への対応以外にも,股関節で生み出された速度や力を効率的に脚全体の速度へ変換し,地面に伝える役割や(宮下ほか,1986),鉛直地面反力の獲得(Dorn et al, 2012)などが挙げられます.そのため,速く走るには“接地時間をなるべく短くし,大きな力発揮をすること”が重要であることが指摘されており,実際に,スプリント走やジャンプ運動をする際に「接地時間を短くしろ」という指導は多くの競技者がされていると思います.

また,足関節の関節トルクと等速性筋力との関係では,支持期の足関節底屈トルクと短縮性底屈筋力(180および300deg/s)との間に有意な相関関係が認められ,足関節では等速性最大筋力が大きいことで支持期の関節トルクを介して関節の角度変位を小さくしていることを示唆しています(渡邉,2003)よって,足関節の底屈筋力がスプリントパフォーマンスに影響しており,地面に効率的に力を伝えることに関しても,スプリント走時に足関節を固定させる必要性があると感じます.
 足関節を固定させることは接地前の準備動作から行う必要があると考えられます.馬場ほか(2000)は,疾走中の筋活動から,足関節の背屈に働く前脛骨筋が活動しており,接地前に前脛骨筋が働かなかった場合,接地時に足関節が著しく底屈してしまい正常な接地姿勢を得ることができなかったと指摘しています.


足関節の硬さが直接的にスプリントパフォーマンスに影響するかはわかりませんが,少なくとも足関節を固められている(硬くふるまう)ということは接地中の関節角度変位が少なく,さらにこれはスプリント走時において短い接地時間の遂行を可能にしており,スプリントパフォーマンスを高める一つの重要な要素となると思います.また,接地中に足関節を硬くふるまうためにはその前の局面(接地前)で足首を固めて入ること(背屈させて)が重要となってくるかもしれません.




参考文献:
Arampatzis A, Bruggemann G, Metzler V(1999)The effect of speed on leg stiffness and joint kinetics in human running. J Biomech.32: 1349-1353.
馬場崇豪・和田幸洋・伊藤章(2000)短距離走の筋活動様式.体育学研究,45:186-200.
Bezodis IN, Kerwin DG, Salo AI(2008)Lower-limb mechanics during the support phase of maximum-velocity sprint running. Med Sci Sports Exerc 40:707-715.
深代千之(2014)日本人は100メートル9秒台で走れるか.祥伝社:東京
Gorden, A. M., Huxley,. A. F. and Julian, F.J. (1966)The variation is isometric tension with sarcomere length in vertebrate muscle fibers.J.Physiol.184:170.
伊藤章・市川博啓・斉藤昌久・佐川和則・伊藤道朗・小林寛道 (1998) 100m中間疾走局面における疾走動作と速度との関係.体育学研究,43:260−273.
Komi P. Training of muscle strength and power(1986)interaction of neuromatoric,hypertrophyic, and mechanical factors.Int J Sports Med.7:10-15.
Kuitunen, S., Komi. P.V and Kyrolainen, H.(2002)Knee and ankle joint stiffenss in sprint running. Med.Sci.Sports Exerc.34:166-173.
Kyrolainen, H and Komi, P.V.(1995)The function of neuromuscular system in maximal stretch-shortening cycle exercises:comparison between power and endurance trained athletes. J. Electromyogr. Kinesiol., 5:15-25.
宮下 憲・阿江通良・横井孝志・橋腹孝博・大木昭一郎(1986)世界一流スプリンターの疾走フォームの分析.Jpn.J.Sports Sci.5: 892-898.
宮下憲 (2012) スプリント&ハードル.陸上競技社,pp.71-73.
永原 隆,宮代賢治,図子浩二(2013)女子短距離走選手を対象とした足底屈パワーテストと疾走能力の関係.スポーツパフォーマンス研究,5:279-294.
Sorten,M.R(1987)Muscle elasticity and human performance.Med.Sport Sci25:1-18.

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