皆さんはじめまして。今回コラムを担当させていただきます,博士前期課程一年次の水島です。
昨年度京都教育大学を卒業し,4月よりこの歴史ある陸上競技研究室で勉強させていただいております。競技では,円盤投とハンマー投を専門としています。一方,研究では,投てき競技に限らず陸上競技を様々な方向から考え,またコラムにおいても様々な視点から書かせていただこうと考えています。今回はまさかの裸足ランニングについて書きます。
日本の科学技術は世界をリードするものといっても過言ではなく,陸上競技界においても世界に先がけ進歩・発展し続けています。ランニングシューズでは,新素材の台頭・出現などにより1970年代から現在に至るまで,各社開発部署の研究者たちが新シューズの開発に力を注いでいます。
そんなこともつゆ知らず,私たちが小学校入学した頃(約15年前)の運動会の徒競走では、多くの友達がシューズを脱いでいました。
「裸足が一番走りやすいわ!」
あの頃は運動会で裸足で走ることがカッコイイ,そう思っていました。しかし,15年の時を経て,近年では,怪我をするなどの理由で裸足で走ることが禁止となり,運動会における“裸足ランナー”たちは,今や少なくなってしまいました。
裸足ランニングは本当に危ないものなのでしょうか。怪我と一言でいうと,多くの方が切り傷など目に見える「外傷」を思い浮かべるかもしれませんが,ここでは視点を変えて,「障害」に焦点を当てた論文を紹介致します注1)。
Liebermanほか(2010)は,ランニングシューズが進歩しているにも関わらず,未だにランニング障害が多いことから,足本来の着地衝撃機能に着目し,裸足ランニングの着地様式について研究し始めました。
その結果,Liebermanほか(2010)は,⑴裸足で育ったケニア人のほとんどがランニングの際に前足部または中足部から接地をしていること(100人中91人),⑵ランニングにおける踵接地は,前足部および中足部接地と比較して着地衝撃が大きいということを明らかにしました。
普段からシューズを着用してきたランナーは,踵に備えられた衝撃吸収性の高いクッションによって,安心して踵着地のランニングを行っていたと報告されています(Liebermanほか,2010)。しかし,踵接地は膝関節が伸展した状態で接地するため,土踏まずのアーチ,足関節,アキレス腱,腓腹筋などで衝撃が吸収できず,膝関節に大きな負担がかかっていたことが明らかとなりました(Liebermanほか,2010)。結論として,裸足のランニングは,着地様式が前足部接地や中足部接地となり,より多くの身体部位で着地衝撃を吸収,分散させることができ,ランニング障害の予防となる可能性があると述べています(Liebermanほか,2010)。
話が元に戻りますが,身の回りの子どもたちの走り方を思い浮かべてみてください。
踵から接地し,ドタバタと走る光景が浮かんだかもしれません(図2)。
Liebermanほか(2010)は,普段シューズを着用しているランナーが裸足ランニングを行った場合,7-10°底屈して,中足部接地に近い形の着地に変容させていたことを明らかにしました。今の子どもたちも,裸足で走ってみると,シューズに頼らない,人間本来の機能を使った走り方に変容するのかもしれませんね。踵接地,前足部・中足部接地のどちらが良いということは,一概には言えませんが,裸足で走ることにも意味があるんだなぁと思っていただければ幸いです注2)。
注1) スポーツにおける「外傷」とは,転倒,衝突などの1回の外力により組織が損傷されることで,より一般的な言葉でいえば“ケガ”に当たります。一方「障害」とは,「外傷」と比較して,比較的長期間に繰り返される過度の運動負荷により生ずる筋肉,腱,靭帯,骨,滑膜などの慢性炎症変化と定義されています(福林,2007)。