力学的エネルギーの有効性から考える中長距離走の疾走動作

MC2 関 慶太郎

Rikupediaをご覧の皆さま,こんにちは.MC2の関です.今回のコラムでは私の研究テーマでもある「中長距離走の疾走動作」について紹介したいと思います.さっそくですが,「効率的な疾走動作」とはどのようなものでしょうか.多くの人が「効率の良い動き・フォーム」という言葉を使いますが,「効率の良い動き・フォーム」についてそこまで深く考える人は少ないのかもしれません.長距離走において,動作に限ったことでなく身体のシステム全体の効率を考えるのならば,第12回で説明したRunning Economyで良いわけです.しかし,「疾走動作の効率」を評価するためにはRunning Economyは不向きであると言えます.なぜなら,Running Economyには疾走動作以外の要因も含まれるため,純粋に疾走動作だけの効率を測ることができないためです(第12回参照).

では,どうすれば疾走動作の効率を評価でき,効率の良い疾走動作を明らかにすることができるのでしょうか.ここで,多くの人は「パフォーマンスの高い選手の疾走動作を分析すればわかるのではないか」と思うことでしょう.ところが,Cavanaghほか(1977)は競技レベルの異なる選手の疾走動作を分析し,その結果,大きな違いは見つからなかったことを報告しています.この原因として,Cavanaghほか(1977)は競技レベルが高い選手よりも,競技レベルが低い選手の中に良い疾走動作の者がいる可能性があるためであると述べています.このようなことが起きてしまうのは,長距離走のパフォーマンスは疾走動作のようなバイオメカニクス的要因よりも,エネルギー供給能力などの生理学的要因の影響の方が大きいためです.

そこで,動作の効率のみを評価する指標として,阿江と藤井(1996)がEffectiveness Index(EI)を提案しています.このEIとは,力学的エネルギーの有効性の指標とされており,次の式で表されます.

この式の分母は運動課題を達成するために要した力学的仕事であり,分子には評価する運動課題に応じて,適切な変量(力学的エネルギー,パワー,疾走速度,得点など)を代入します.分子にさまざまな変量を代入できることはEIのひとつの特徴であり,それによって様々な運動の技術を評価できます(阿江・藤井,1996).これを使って,榎本ほか(1999)は長距離走の疾走動作を検討するために,分子には身体重心の水平速度による運動エネルギーを代入し,分母には1サイクル(2歩)の力学的仕事を代入することでEIを求めました(式2).


(M:身体質量;Vx:疾走速度)

EIの値は高いほど動作の効率が良いとされています.これを用いて榎本ほか(1999)が公認競技会の5000mの疾走動作を分析した結果,EIと疾走速度との間に有意な正の相関関係(r=0.500, p<0.001)が認められたことを報告しており,EIを高めることが記録向上のために重要であることを示唆しています.また,EIの高い者は,両脚間で力学的エネルギーの伝達が大きく,体幹になされた力学的仕事が小さいこと,支持期前半における身体重心の低下および減速が小さいことを報告しています(榎本ほか,1999).さらに,EIを高めるためには,支持脚が大きく屈曲しないことや回復脚のリカバリーを早めて,左右の大腿を前後ではさみ込むような動作を強調して疾走することを勧めています(榎本ほか,1999).

このように,EIを用いることで長距離走の効率的な疾走動作は明らかになってきましたが,その一方で,EIは疾走速度の影響を受けやすく,特に疾走動作の評価に用いる場合には注意が必要であるとの指摘もあります(横井ほか,2003).長距離走のパフォーマンスが高いということは,疾走速度も当然高いわけですから,EIは速度の影響を受けやすいとするなら,EIも当然高くなります.また,疾走動作は疾走速度によって変化するため,単純にレース中の動作を比較することが効率的な疾走動作の解明に有効であるか疑問が残ります.さらに,分析する動作を撮影する場所(グラウンドかトレッドミルか)や条件(レースか実験か),走行距離,そして疲労によっても動作は変化すると考えられ,長距離走の動作について一概に述べることは難しいと言えます.

今回は,これまでの研究で明らかになってきた長距離走の効率的な動作と,それをさらに検討していくための問題点を紹介しました.長距離走のパフォーマンスに影響する要因は多岐にわたり,疾走動作を検討する際にも,これらの影響を加味しながら検討していくことが必要であると考えられます.そして,こうした問題点を解決して新たな知見を提供していくのが私たちの役割であると認識しています.長距離走の疾走動作に関する研究まだまだこれからの部分も多いですが,明らかにされてきた知見をヒントに自らのランニングフォームについて考えることがパフォーマンス向上のヒントになるかもしれません.

参考文献
阿江通良・藤井範久(1996)身体運動における力学的エネルギー利用の有効性とその評価指数.筑波大学 体育科学系紀要,19:127-137.
Cavanagh P. R. and Kram R. (1985)The efficiency of human movement-A statement of the problem-. Medicine and Science in Sports Exercise, 17: 304-308.
榎本靖士・阿江通良・岡田英孝・藤井範久(1999)力学的エネルギー利用の有効性からみた長距離走の疾走技術.バイオメカニクス研究,3(1):12-19.
横井孝志・橫澤俊治・山田 洋・金子文成・長谷和徳・佐藤紀久江(2003)移動運動における力学的仕事有効利用性指数と移動速度との相関.バイオメカニクス研究,7(2):101-108.

戻る