400m走のペース配分(レースパターン)②
 -ペース配分に関する先行研究-

DC2 山元 康平

筑波大学陸上競技研究室院生コラム「RIKUPEDIA」をご覧の皆様,こんにちは.博士課程の山元です.
いよいよトラック&フィールドシーズンも本格的に始まりましたね.2014年は,世界選手権・オリンピックという2大大会は開催されませんので,トップ選手は思い切った挑戦ができるシーズンであると言えます.また,アジア大会や世界ジュニアなど,若手の登竜門的な競技会があり,新しい選手の登場が期待されます.我が陸上競技研究室も,新しいメンバーが加わり,研究に実践により精進していく所存です.今後も何卒よろしくお願い致します.

さて,前々回の私のコラム(第11回)では,400m走のペース配分(レースパターン)について,他の種目との比較からその特徴を示しました.400m走のレースパターンは,漸減型ペース (Positive pacing strategy) に分類でき,レース後半のスピードの大きな低下が特徴であると言えます.したがって当然ながら,「より高いスピードに到達すること」と「トップスピードをレース全体にわたって可能な限り持続すること」が同時に高いレベルで要求されます.そのため,競技者やコーチから,「レースの前半で高いスピードを出すことと,後半のスピードの低下を抑えることの,どちらが大切ですか?」というような質問をしばしば受けます.これに対して,「そんなもん,どっちも大事に決まってんだろ」というような冷たいことを言わずに,今回はこのテーマについて,先行研究を概観してみます.

レースパターンとパフォーマンスとの関係,すなわち高いパフォーマンスを達成するためのレースパターンについては,選手やコーチからの関心も高く,これまでに数多くの研究が行われています.
van Coppenolle (1980) は,世界トップレベル(43.8-44.9秒)とサブトップレベル(45.0-45.9秒)を比較し,前半200mのタイムにはな差は認められず(両群とも21.5秒前後),後半200mのタイムには差が認められ(それぞれ23.0秒と23.8秒),前半と後半のタイム差(前後半差)にも顕著な違いが認められたとしています(それぞれ1.5秒と2.1秒).この報告は,400m走における後半のスピードの高さやスピードの維持の重要性を示唆しており,その後多くの論文で引用されています.同様に,パフォーマンスの高い競技者ほどスピードを維持しているという報告は他にも多数見受けられます(赤峰ほか,1998;前河・山本,1989,1990;沼澤・杉浦,1994;尾縣ほか,1998;尾縣ほか,2003a,2003b;Sprague and Mann, 1983;).
ところが一方で,パフォーマンスの高い者ほどレース前半のスピードが高く,スピードの低下が大きいとした報告もあります.伊藤ほか(1997)は,第12回アジア大会広島大会の400m走決勝進出者(46.89±0.92秒)と学生競技者(47.97±1.13秒)の前半(150m付近)と後半(350m付近)の疾走速度を分析しています.その結果,400m走タイムと前半の疾走速度との間には相関関係が認められ,タイムの良い選手ほど高いスピードで走っていました.一方で,後半の疾走速度との間には認められず,後半の疾走速度はどの選手もほぼ一定の値にまで低下していたとしています.このことは,パフォーマンスの高い競技者ほど疾走速度の低下が大きい傾向にあったことを示しています.また,Hanon and Gajer(2009)は,男女の異なる競技レベルの競技者の50m毎の疾走速度について検討し,世界クラスの競技者は,疾走速度が前半で顕著に大きく,後半での低下が大きかったとしています.さらに,インターハイ400m走の最後の100mのタイムは,世界大会レベルの選手と同等かそれ以上のタイムが記録されることがしばしばあることも指摘されています(伊藤,2007).

これらのことから,「で,どっちやねん?」という疑問が浮かびます.私はこのテーマについて卒業研究から継続して研究に取り組んできました.ここではデータの一部を示したいと思います.図は,45秒台から49秒台の競技者を対象に,400m走タイムと,レース前半の200mタイム,後半の200mタイム,レース前半と後半のタイム差(前後半差:スピード低下の指標)との関係を示したものです.縦軸が400m走のタイム,横軸が各タイムとなっています.ここから,パフォーマンスの高い競技者は,レース前半のタイム,後半のタイムともに極めて高いことがわかります.また,スピードの低下を評価する前後半差は,パフォーマンスの高い競技者ほど小さい(スピード低下が小さい)傾向にありますが,同じパフォーマンスレベルでも,ばらつき(個人差)が大きいことがわかります.このことから,上述したように「パフォーマンスの高い選手は,レースの前半,後半ともに速いタイムで走っている」ということと「同じレベルの選手であっても,レースパターンの個人差は大きい」ことがまずは言えそうです.これらを念頭にトレーニング,研究を行っていくことが大切であると考えられます.
次回は我々が行ってきた研究について,より詳細なデータとともに紹介したいと思います.乞う御期待.Passion for the killer sprint!!!

参考文献:
赤峰俊彦・尾縣 貢・関岡康雄(1998)400m走に関する一考察.陸上競技研究,33 : 56-61.
Hanon, C., Gajer, B. (2009) Velocity and stride parameters of world-class 400-meter athletes compared with less experienced runners. J. of Strength and Conditioning Research, 23 : 524-531.
伊藤 章・市川博啓・斉藤昌久・伊藤道郎・佐川和則・加藤謙一 (1997) アジア大会男子400mの動作分析.アジア一流競技者の技術―第12回広島アジア大会陸上競技バイオメカニクス研究班報告―.財団法人日本陸上競技連盟:東京,pp. 65-80.
伊藤 章(2007)世界陸上の直前合宿におけるアメリカ短距離チーム.コーチング・クリニック,21 : 28-31.
前河洋一・山本利春 (1989) 陸上競技の400m走におけるペース配分について.国際武道大学研究紀要,4 : 21-28.
前河洋一・山本利春 (1990) 陸上競技の400m走における競技成績とスプリットタイムの関係.国際武道大学研究紀要,5 : 21-27.
沼澤秀雄・杉浦雄策 (1994) 200m、400mレースの時間分析.佐々木秀幸・小林寛道・阿江通良監修 世界一流競技者の技術.ベースボールマガジン社:東京,pp. 50-56.
尾縣 貢・福島洋樹・大山圭悟・安井年文・鍋倉賢治・宮下 憲・関岡康雄・永井 純 (1998)下肢の筋持久性と400m走中の疾走速度逓減との関係.体育学研究,42 : 370-379.
尾縣 貢・高本恵美・伊藤新太郎 (2003a) 上肢の無気的作業能が400m走タイムおよび走速度逓減に及ぼす影響.体育学研究,48:573-583.
尾縣 貢・真鍋芳明・高本恵美・木越清信 (2003b) 400m走中の下肢関節トルク持続能力と下肢の筋持久性との関係.体力科学,52 : 455-463.
Sprague, P. and Mann, R. V. (1983) The effect of muscular fatigue on the kinetics of sprint running. Research Quarterly for Exercise and Sport, 54 : 60-66.
van Coppenolle, H. (1980) Analysis of 200-meters intermediate times for 400-meters world-class runners. Track & Field Quarterly Review. Summer, 80 : 37-39.
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