Ultimate in High Jump Style

MC1 衛藤 昂

1.背面跳の普及

走高跳の跳躍スタイルは現在に至るまで,はさみ跳び,イースタンカットオフ(正面跳び),ウエスタンロール,ベリーロール,そして背面跳へと変化してきました(図1参照).現在では,一流競技者から中学生まで,競技会で見られる走高跳のスタイルはほとんどが背面跳になりました.なぜ,背面跳が普及したのでしょう.背面跳の特徴の1つに助走終盤における曲線助走が挙げられます.これまでの研究によって,以下のような技術的特性が明らかになっています.

・曲線助走により,助走速度を維持しながら重心高を下げる(内傾)ことができる(Dapena,1980)

・踏切時にバー方向への倒れ込みを少なくでき,力のロスが少なく効率の良い踏切ができる(村木,1982)

・曲線助走の遠心力により得られる宙返り(Yaw)回転が,バークリアランスを容易にする(Lebescat,1972)

このように曲線助走を用いる背面跳は,他の跳躍スタイルにはない技術的特性や優位性を持ち,またその技術の習得が容易であるため,急速に普及したと考えられています(水村,1988).

Fosbury選手が背面跳でオリンピックを制してから45年が経ち,男女とも世界記録が背面跳により記録されたものになりました.いまのところ背面跳の時代が長く続いていますが,次なるスタイルは現れるのでしょうか.そこで今回は,走高跳のクリアランス効率に関する研究を行った“The Hay Technique ―Ultimate in High Jump Style?” を紹介します.

 

2.Ultimate Style

Hay(1973)は,助走付き片脚踏切において高く跳ぶには以下のことが重要であると述べています.

(1)クリアランスでの左右のひねりを防ぐため,助走はバーに対し垂直に取る.

(2)踏切における鉛直方向の力積を大きくするために,助走速度を高める.

(3)体幹軸の立ち上がり(起こし回転),股関節及び膝関節の伸展を利用する.

(4)効率の良いクリアランスフォームを使用する(図1).

これらの技術を1つにまとめると図2のようなスタイルになります.「遊びでやったことがある」跳び方だと思いますが,片脚で踏切らなければ失格です.このスタイルは,Hayのシミュレーションだけでなく,アメリカの高校の試合において,7フィート(2m13)をクリアしたDon Pierce選手が行っていたスタイルも参考にしたと述べています.

しかし,Hayは,この技術を実践する上での問題を以下のように挙げています.

(1) 離地時において必要な前方回転を生成する

(2) クリアランス時におけるひねり動作を回避する

(3) 脚のクリアランス

(4) 安全な着地

これらの問題に対しHayは,「両腕が頭上位置からやや下向きに移動するとともに離地し,その後,腕の動きを遅くすることで下半身に回転の勢いを転送させる.また,身体重心が足よりも前に行ったときに離地する(真上でなく,やや前方に跳ぶ)」ことで解決できると述べています.また,踏切が近くなったときは,「前方宙返りを踏みとどめる,または,早くバーに巻き付く姿勢を作り下半身を持ち上げる」ことを対策としています.安全な着地に関しては,手が着地した後に必ず前転することを挙げる一方,容易には習得できないと述べています.

最後にHayは,『伝統的に,何者かが試行錯誤で技術を開発し,その後技術が普及する.その技術は,記録を破るまたは選手権で勝つために使用される.本論文で提案した技術は,伝統との重要な分岐点を表す.今生きている人々は,この新しい技術を習得し,記録を打ち破り,世界を制する日を目の当たりにするだろう.』を結言として論文を締めています.

背面跳が主流になった今では,“ダイブロール”は考えがたい理論になりましが,1968年のオリンピックは背面跳のFosbury選手が制し,1972年のオリンピックはベリーロールのTarmak選手が獲り返したように,Hayが論文を書いた1973年は,今後の主流が何になるか分からなかった時代であったと言えます.

しかし,ダイブロールは流行りませんでした.冷静に考えると,背面跳より速い助走は走幅跳並みです.その速度を鉛直速度に変換するには,相当の後傾が必要であり,かつ強い衝撃にも屈しない(曲がらない&怪我しない)強靭な膝が必要であると考えられます.また,その速度でクリアした後の着地も非常に危険です.危険性が高いこともダイブロールが流行らなかった理由の1つではないでしょうか.一度やってみるのも良いですが,熱くなり過ぎないようにして下さいね.


図1 バーと身体重心の距離(考えられる最大の値)
Hay(1973)を参考に作成

図2 ダイブロール
Hay(1973)を参考に作成

参考文献:
Dapena, J.(1980)Mechanics of translation in the Fosbury-flop. Medicine and Science in Sports and Exercise, 12: 37-44.
Hay, J.G.(1973)The Hay Technique―Ultimate in High Jump Style?. Athletic Journal, 53(7):113-115.
Labescat, C.(1972)An interpretation of Fosbury technique. The jumpes. Ed. Fred Wilt, Tranews Press: Los Altos, Ca, pp. 19-23.
水村信二・山本利春・大西暁志・南谷和利(1988)大学走高跳び競技者の踏切り脚の障害に関する研究. 日本体育学会大会号,39:310.
村木征人(1982)現代スポーツコーチ実践講座2 陸上競技(フィールド).ぎょうせい:東京.
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