今回のコラムは,博士前期課程1年の上田美鈴が担当致します.
私は昨年度まで,青山学院大学経済学部に在籍していました.そのため,体育学に関する知識はほとんど無い状態で入学してきたのですが,約半年が経ち,ようやく筑波大学の環境にも慣れ,周りの皆様に支えていただきながら,研究や競技に励む毎日を過ごしております.
私は,100mハードル走(以下100mH)を専門としているので,本コラムでは,主にスプリントハードルに関する内容を執筆していこうと考えています.まだまだ未熟ではありますが,皆様に少しでも興味を持って読んでいただければ嬉しく思います.
今回は初回なので,まず女子100mHの起源から見ていこうと思います.女子のスプリントハードルは,1921年の「国際女子体育・スポーツ大会」において74mH,63mHの2種目が行われていたという記録が残っているそうです.そして初めてオリンピックに登場したのは1932年の「ロサンゼルス大会」で,その当時は80mHでした.この80mHは,高さ76.2㎝のハードルをインターバル8mで8台跳ぶ競技でした.その後,女子の体格と競技力の向上により,1969年に,インターバルを長くして高さを上げた,現在の100mHの形が公式種目となりました.現在の女子100mHは,100mの間に高さ84㎝のハードルが8.5m間隔で10台設置されており,そのタイムを競う競技です.障害を越えながら走り抜けなければならないため,スプリント能力とハードリング技術を要求される,非常に技術性の高い種目の1つであると言えます.
現在の世界記録は,1988年にブルガリアのY.ドンコワ選手が樹立した12.21秒で,その記録は25年間更新されていません.しかし近年,12秒台前半をマークする選手が増加してきました.今年のモスクワ世界選手権では,自己ベストが12.26秒のアメリカのB.ローリンズ選手と,12.28秒のオーストラリアのS.ピアソン選手との対決が非常に注目を集めました.世界記録の更新も期待されましたが,今大会では12.44秒でB.ローリンズ選手が制しました.彼女はまだ22歳の大学生なので,今後の活躍も期待されますね.
一方,日本の女子100mHは,2000年に金沢イボンヌ選手が13.00秒を記録しましたが,未だに13秒の壁を破れずにいます.世界と比較するとその差は大きいのが現状ですが,近年日本国内のレベルは向上の傾向が見られます.今年の日本選手権では紫村仁美選手が13.02秒(日本歴代2位),木村文子選手が13.03秒(日本歴代4位)と,いずれも好記録をマークしました.そして日本選手権を制した紫村選手は,日本代表として世界選手権に出場しました.現在の日本歴代10傑を見ても,先ほどの2名に加え,歴代5位に2009年の寺田明日香選手(13.05秒),歴代8位に2011年の野村有香選手(13.21秒),そして歴代10位には2010年の城下麗奈選手(13.25秒)と,この5年以内に樹立された記録が半数を占めています.そのため私は,12秒台に突入する時代もそう遠くはないのではないかと感じています.それと同時に,私自身も競技にも研究にも精進し,私もこの記録更新を目指したいと思っています.
今後,日本の女子が100mHにおいて世界で闘っていくためには,まずは13秒の壁を突破しなければなりません.今年の世界選手権における決勝進出ラインは12.78秒で,日本女子のレベルもまずはこの水準まで引き上げられる必要があると考えられます.今回は女子100mHの概要と世界および日本の記録について触れてきましたが,今後はさらに詳しく,スプリントハードルについて執筆していければと思っております.今後ともよろしくお願い致します.