パーシーセルッティと陸上競技の理論と実際について

MC2 近江 秀明

 

こんにちは。今回コラムを担当させて頂きます、博士前期課程2年の近江です。研究テーマは、小学生の疾走動作を腕振りの観点から研究しています。今回のコラムでは、私の研究テーマから逸れますがコラムのタイトルである「陸上競技の理論と実際」と関わる話として、オーストラリアの長距離のコーチ、パーシー・セルッティ(1895-1975)という人物を紹介したいと思います。彼は、ある種、科学を“否定”しながらも徹底した科学者であったと私は思っています。科学を否定しながらも徹底した科学者であるとはどういうことなのでしょうか?また、彼の考えた自然主義と科学はどう結びつくのでしょうか?これから数回のコラムに渡って、そのことを考えるきっかけとして彼の理論、思想をご紹介します。

今回は思想の内容には入れませんが、彼がどういった人物だったのか、簡単に紹介したいと思います。

さて、パーシー・セルッティという名前を知っている方、あなたはなかなかの中長距離トレーニングオタクでしょう。リディアード方式のトレーニングは、もはや市民ランナーの方ですら参考書として持つ方も多いとは思いますが、おおよそ同時期に活躍したコーチとして意外と知られていないのがパーシー・セルッティ氏です。パーシー・セルッティは、先述の通り、オーストラリアの長距離コーチです。自身も51歳にして州のマラソン記録保持者になるなど、優秀な選手でした。コーチ時代には、ハーブ・エリオットという1960年のローマオリンピックでの金メダリストやその他大勢の優秀な選手を育てています。彼のトレーニング理論の根幹は、「自然主義」だと言われています。彼は、ジャン・ジャック・ルソーの「エミール」を繰り返し読んだといいます。ルソーとは、ホッブズ、ロックと並ぶ「社会契約説」を説いたフランスの哲学者として有名であり、「自然に帰れ」といった言葉を残しています。

彼は、自然主義の観点から、第二次世界大戦後にザトペックによって見出されたインターバルトレーニングを全否定します。彼は、リディアードと同様に、真正面からインターバルトレーニングに切り込むのです。トレーニング方法の詳細は、省略しますが、次回以降紹介する自然主義的観点からマラソントレーニングとも思える超長距離を走りこむトレーニング等を行い実際に800mの世界記録の選手を育てています。この事実は、どんな理論よりも強いでしょう。

ところで、訳者の加藤橘夫さんは、「彼は科学を否定しながら、考え方の基礎に科学をおいているのがわかる」とまえがきで述べています。というのも、セルッティは、どんな理論もまた他の意見も、すべて自分が経験し、試して利用しているのです。このことはだれでもできることではありません。しかし、まさにここに彼らの実践家としての真摯さがあります。

今回は、詳細には言及しませんが次回以降で内容に触れつつ、彼の思想から学ぶべきスポーツ科学および陸上競技の実践についてご紹介します。そのなかで、最初に挙げた問い、科学を否定しながらも徹底した科学者であるとはどういうことなのか?また、彼の考えた自然主義と科学はどう結びつくのか?に対して、明らかにしていきたいと思います。また、本書「陸上競技チャンピオンへの道」はベースボールマガジン社から1963年に発売され、現在ではAmazonでも取り扱われておらず絶版となっています。是非、図書館で探して読んでいただきたい一冊です。目次を示しておきますので、御覧ください。

参考文献
パーシー・セルッティ(1963)陸上競技チャンピオンへの道.ベースボールマガジン社
戻る