「体重が軽ければ跳べる」は本当か!?

MC1 衛藤 昂

今回のコラムは,大学院1年 走高跳専門の衛藤昂が担当致します.私は昨年度まで鈴鹿高専(三重)に所属していましたが,4月に大学院に入学しました.7年間工学を専門にし,現在は体育を専門にしています.私も「工学から体育に行く人はいないだろう」と思っていましたが,意外と他分野からの進学者が多く,その存在に励まされながら日々過ごしております.

初回は,論文紹介ではなく「最近ふと気づいたこと」について書きます.では,タイトルの「体重が軽ければ跳べるは本当か!?」を高校物理で考えてみます.

物体が仕事をする能力を持つとき,物体はエネルギーを持つといいます.一般に,運動している物体がもつエネルギーを運動エネルギーK(「K=mv2/2」m:質量,v:速度)といいます.また,高いところにある物体は,質量と高さに応じた位置エネルギーU(「U=mgh」m:質量,g:重力加速度,h:高さ)を持ちます.そして,これらのエネルギーは,力学的エネルギー保存則より,

(m:質量,vA:地点Aでの速度,hA:地点Aの高さ,vB:地点Bでの速度,hB:地点Bの高さ,g:重力加速度)

と表すことができます1).

走高跳に戻ります.ここに踏切局面を当てはめると,
m:人間の体重[kg],vA:離地時の鉛直速度[m/s],vB:頂点での鉛直速度[m/s]
g:重力加速度[m/s2],hA:踏切時の重心位置[m],hB:頂点での重心位置[m]
となります.

vB=0(頂点では上向きの力が働かない)のため,

(hB-hA)は獲得跳躍高[m]

この式の右辺「mgh」に注目すると,「質量mを小さくすれば少ないエネルギーで上に行けるじゃないか!」と考えられます.しかし,左辺「mv2」に注目すると,mが小さくなると,「地面に加えられるエネルギー」=「地面から跳ね返ってくるエネルギー」(作用反作用の法則1))が小さくなってしまいます.

さらに,mを削除しhの式にすると,

となります.重力gは変えられないため,高く跳ぶには踏切時の鉛直速度vA2を高めることがポイントとなります.

踏切時の鉛直速度が高い選手は,水平速度も高い傾向にあります2).従って,助走速度を上げれば高く跳べるのではないかと考えられますが,踏切において水平速度を鉛直速度に変換する“踏切技術”“関節及び身体の強さ”がないと高さは獲得できません.走高跳においては,スプリントの強化と共に,それを跳ね返せる身体を作り上げることが重要であると思います.

今回は,物理的解釈を行いました.走高跳は様々な角度から研究され,非常に多くの論文があります.例えば,「なぜハイジャンパーは曲線助走をするのか」「踏切時における足関節の変形」「背面跳よりも効率的な跳躍スタイル」など興味深いものばかりです.私はまだまだ勉強不足ですが,「走高跳って面白いな!」と思っていただけるようなコラムを目指しますので,今後ともよろしくお願い致します.

参考文献:
國友正和ほか9名(2006)「改訂版高等学校 物理Ⅰ」p45,pp.86-94数研出版株式会社
Matthew P. Greig & Maurice R. Yeadon(2000) The influence of touchdown parameters on the performance of a high jumper. Journal of Applied Biomechanics,16: 367-378
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